「ソーラーカー元年」太陽電池で走るEVが欧米で続々生産開始。自動車のスタンダードになるか?

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ソーラーパワーで走る電気自動車が今年から欧米で本格的に生産される。オランダのスタートアップ「Lightyear(ライトイヤー)」によるソーラーカー「Lightyear One」は年内に納車される予定で、欧州の街をソーラーカーが走る日も近い。ほかにもドイツやアメリカのスタートアップ企業が今年から続々とソーラーカーの生産を開始する予定で、今年は自動車業界で「ソーラーカー元年」ともいえる年になりそうだ。

今年からアメリカで生産されるAptera Motorsのソーラーカー「Paradijm」は、未来的なフォルムが目立つ三輪EV。年末には納車される見通しだ(写真:Aptera MotorsのYoutube動画より)

オランダのソーラーカーはハイエンド向け

オランダのスタートアップ「Lightyear」が開発した「Lightyear One」。今年から生産を開始する(写真:Raoul Cooijmans)

Lightyearが開発した「Lightyear One」は、ルーフにソーラーパネルを搭載した電気自動車(EV)。プラグからも充電するシステムになっているが、太陽電池による発電で、オランダの天候では全体の25%の電力を賄えるという。満充電の航続距離は725㎞以上。太陽電池の充電1時間で、12㎞の走行が可能になるという。充電ポイントへの依存度が下がる上、駐車場で日の当たるところに駐車できるのがメリットだ。

初年度の限定モデルは1台15万ユーロ(約1,900万円)とお高め。テスラの「モデルX」の10万ユーロと比べてもかなり値が張るが、技術改善とパートナー企業への製造アウトソーシングにより、2024年には5万ユーロ(635万円)程度の新モデルを投入したい考えだ。初年度の今年は生産台数も946台に限定しているが、2023年頃には生産能力も10万台以上にスケールアップする計画という。

ドイツのSONOはアプリでカーシェアリングも

一方、ドイツのスタートアップ「Sono Moters(ソノ・モーターズ)」は、手の届きやすい価格のソーラーカーを投入する。同社が2019年から予約を開始した「Sion(サイオン)」は、1台25,500ユーロ(約324万円)。同社は1モデル・1色のみの販売で、この低価格を実現した。また、既存のテクノロジーを利用している点も価格を抑えるのに寄与している。

Sionは車のルーフだけでなく、ドアやボンネットなど車体のほとんどを使って248枚のソーラーパネルが装備されており、天気のいい日には1日の充電で34㎞の走行が可能という。こちらもプラグによる充電を太陽電池が補うような形となり、満充電での航続距離は最大250㎞。Lightyear Oneに比べると性能が劣るが、欧州の都市生活では十分な航続距離だ。

ドイツSono Motorsの「Sion」は、1モデル・1カラーで低価格を実現した(写真:Sono Motors)

同社の試みで面白いのは、専用アプリがある点だ。このアプリでは、Sionのバッテリー残量や位置情報が表示されるようになっており、これを使って電力の売買や、カーシェアリングが可能になる。

例えば、Sionは双方向充電ができるため、Sionのユーザー同士で送電・充電したり、他の電気自動車に電力を供給することもできる。その際は、オーナーが電力の値段や販売量を設定できるようになっている。また、誰かにSionを貸し出すことも可能で、アプリを使って貸し出す相手と時間を設定した上で、キーを手渡しせずに相手が車を使えるようになるという。

さらに、位置情報をシェアすることで、誰かをピックアップして相乗りする「ライドシェア」も可能に。こうした機能を利用し、すでにオランダのレンタカー「UFODRIVE」などがカーシェアリング用の車としてSionを採用する動きもみられる。

カリフォルニア発のSF的三輪自動車

Aptera Motorsのソーラーカー。エネルギー効率の最大化で、最高航続距離を1600㎞まで伸ばした(写真:Aptera MotorsのYoutube動画より

アメリカでも年内にソーラーカーの生産が開始される見通しだ。

カリフォルニア拠点の「Aptera Moters(アプテラモーターズ)」が2020年12月に発表した「Paradigm(パラダイム)」と「Paradijm+(パラダイムプラス)」は、まるでSFの世界から飛び出したような三輪EV。水のしずくを横にして車輪を付けたような流線形のフォルムが特徴的だ。プラグによる充電と、ルーフやボンネット(オプションでバッテリーパッケージが選べる)に搭載された太陽電池による充電が可能で、よく晴れた日には太陽電池だけで一日40マイル(約64㎞)走行できる。

同車の優れた点は、そのフォルムと軽量化された材料によりエネルギー効率を最大にした結果、1マイル当たりの走行に必要なエネルギーが100Wh(ワット時)と、超省エネを実現している点だ。これにより最高モデルで満充電での航続距離は1000マイル(約1,600㎞)に達するという。

価格はモデルやオプションによって25,900~46,900ドル(270~490万円)。すでに予約が開始されており、2020年12月時点で3,000台、価格にして1億ドル以上が予約されている。年内に生産を開始し、2021年末~2022年初頭にかけての納車を予定しているという。

Fiskerは100万台を視野に

Fiskerの「Ocean」は、エコフレンドリーなSUVとしてインテリアにリサイクル素材を利用している(写真:Fisker)

Aptera Motersと同じく、カリフォルニア州を拠点とする「Fisker Inc(フィスカー)」は、ルーフにソーラーパネルを装備した電気SUV「Ocean(オーシャン)」を投入する。「世界一エコフレンドリーなEV」と謳う同車は、太陽電池とプラグによる充電が可能で、満充電の航続距離は250~300マイル(400~480㎞)。太陽電池のみでの充電では年間1,000マイル(1,600㎞)の走行が可能になるという。

車のインテリアも完全ビーガンで、廃棄された魚網やプラスチックボトル、Tシャツなどをリサイクルした素材を使っている。

Sonoと同様、Fiskerも専用アプリを連動させており、同アプリでは車の購入・リースの支払いやメンテナンススケジュール管理、車内エンターテイメントなどが利用できる。将来的にはカーシェアリングやライドシェアもアプリに組み込みたい考えで、その社会的なアプローチはSonoと似ている。

価格は37,499ドル(390万円)。2020年から30カ国で予約を受け付けており、同年7月末時点の予約台数は7,062台と、当初見込んでいた5,000台を大きく上回った。2022年第4四半期から生産を開始する計画で、2022~2027年には100万台の生産を見込んでいる。

ソーラーパネルはEVの標準装備になるか?

自動車業界では長年の間、ソーラーパネルを乗用車に搭載して走るのは不可能とみられてきた。車の屋根の表面が小さすぎるため、走行に十分な電力が供給できなかったほか、太陽電池の重量やフレキシビリティに制限があったためだ。しかし、技術革新により太陽電池の効率向上や軽量化が進み、今やちょっとした通勤なら太陽光だけで充電が賄える車が実現された。

LightyearとSonoのテクノロジー改善で協力しているオランダの研究機関TNOは、ソーラーカーが省エネルギーに貢献する上、充電ポイントに依存せずに済むことからドライバーの自由度を高める点をメリットとして挙げ、「太陽電池をルーフに搭載した車が、将来の自動車のスタンダードになる」との見方を示している。

一方、オランダ人エコノミスト、マタイス・ボウマン氏は、「ソーラーカーの人気は、EVの人気による」との見方。EV市場の盛り上がりに乗じて、向こう10年はソーラーカー市場の好調が予想されるという。ただし、それ以降については「至るところに充電ポイントができれば、太陽電池は必要でなくなる。車の価格と充電の利便性のバランスをみなければならない」と指摘している(オランダ放送協会NOSより)。

今年に生産を開始する4社のソーラーカーを比べてみると、オランダのLightyear Oneがダントツに価格が高いが、それ以外はフォルクスワーゲンの「ゴルフ」や日産の「リーフ」など、人気のEVとさほど変わらない価格レンジとなっている。

駐車場やカーシェア、レンタカーなどを手掛ける「パーク24」が日本のドライバー9,230人を対象に行った調査では、EV購入の際に最も重視することとして、「価格が手ごろになったら」が46%と最多で、「EVステーション(充電ポイント)が増えたら」が18%を占めた。

ソーラーカーがさらに低価格のモデルを投入することに成功すれば、こうした問題が一気に解決し、EVの普及が加速する可能性がある。ソーラーカーが今後どのような発展をみせるのか、今後の動きに注目したい。

文:山本直子
編集:岡徳之(Livit

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