リモートワークの普及、フードデリバリーやストリーミーサービス利用の増加などを鑑みれば、新型コロナをきっかけに社会経済のデジタル化が以前にも増して進んだことは簡単に想像できる。
欧州を拠点にするスタートアップ専門調査会社Dealroomがこのほど発表した調査レポートによると、新型コロナの影響で、特にヘルスケア、飲食、教育分野のデジタル化が加速したという。遠隔診断、フードデリバリー、オンライン授業など身近な事例がその変化を実感させてくれる。
この構造的な変化に伴い、関連する市場にも影響が波及し始めている。
その1つがオンライン人材市場だ。
これまで世界のオンライン人材市場では、Indeedやglassdoorなど大手仕事検索サイトやビジネス系ソーシャルメディアLinkedinなどが幅を利かせていたが、医療や建設などデジタル化が遅れていた分野のデジタル化が進んだことで、各分野に特化した特化型オンライン人材市場を求める声が高まっているのだ。
医療や建設は、一般的なホワイトカラーワークとは異なるスキルが求められる分野。そのような声を反映し、分野や市場の特性を加味した特化型オンライン人材市場が続々立ち上がり、注目されるようになっている。
オンライン人材市場のバーティカルシフトとも呼ばれるこの変化。いったい何が起こっているのか、海外の事例からその動向を探ってみたい。
オンライン人材大手と特化型プラットフォームの競争
Indeedやgrassdoor、またLinkedinは、一部の業界に特化している訳ではなく、水平的に広がる人材プラットフォームといえる。
一方、最近需要が伸びているのは、業界に特化した垂直的な人材プラットフォームだ。
単なる仕事検索だけでなく、業界特有の課題を考慮したマッチング、面接、給与・保険管理など、様々な機能を持つデジタルプラットフォームが登場し、ユーザー数を伸ばしている。特に、ヘルスケアや建設など特殊スキルが求められる分野で広がっている。
ヘルスケア分野で注目されるプラットフォームの1つがドイツ発のMedWingだ。欧州市場を中心に看護師、医師、薬剤師など17万人のヘルスケア人材が登録、現在も月間1万5,000人の新規登録があるという。
同プラットフォームでは、パーマネントワークとフレキシブルワークの2種類の働き方で職を探すことができる。パーマネントワークでは、病院とのマッチングだけでなく、コンサルタントによるカウンセリングや履歴書作成支援を行っている。
フレキシブルワークは、利用者が働きたい時間を登録しておくと、その時間帯に人材を求める病院とマッチングしてくれる。シフト管理は同プラットフォームで行うため、病院側にも人材側にも大きな利点がある。病院はシフト管理の事務作業がなくなったり、求人広告を出す必要がなくなり、コストを削減することができる。
人材側にとっては、シフトをMedWingのプラットフォーム上で調整するため、時間が許す限り多くの病院で勤務することが可能となる。シフト調整を各病院が独立して行っている場合、不可能な働き方だ。またオンライン教育の普及で、育児時間を考慮したフレキシブルワーク需要が高まっているが、これもMedWingの利用者が増えている理由のようだ。
クリエイティブ産業やテクノロジー産業で「ギグエコノミー」が広がりを見せているが、MedWingのようなプラットフォームの登場によって、ヘルスケア分野でもギグエコノミーが普及する可能性も見えてきた。
米国では看護師不足深刻化、高まる特化型プラットフォームへの期待
新型コロナの感染者が爆発的に増えた米国では、看護師不足が他国に比べ深刻だといわれている。The New Yorker2020年12月2日の記事によると、米国の病院では、集中治療室の看護師は2人の患者を担当することが多いが、現在人材不足から8人を担当している看護師も少なくないと報じている。
このような状況下で、注目を集めているのがヘルスケア分野に特化した人材プラットフォームNomadだ。
Nomadも上記MedWingと同様にヘルスケア人材と病院のマッチングを行うプラットフォームだが、遠方に出向く人材に特化している点が異なる。2020年末頃に、看護師不足が深刻化する中、同プラットフォームに駆け込む病院が急増し、注目度が高まった。
Nomadのプラットフォームでは、フロリダで1週間あたり最大5876ドル(約61万円)、ニューヨークで1週間あたり最大6396ドル(約67万円)といったポジションが掲載されている。
WHOは、2030年にヘルスケア分野で1,800万人の人材不足が起こると予想。人材配置の最適化や収入改善、またフレキシブルワークによる労働環境の改善を通じた人材の流入・維持が求められるところ。MedWingやNomadに寄せられる期待は大きい。
建設業界の特化型人材プラットフォーム、労働時間や給与管理まで
建設市場でもオンライン人材プラットフォームの垂直シフトが起こっている。
オーストラリアや米国で事業展開するWorkYardは、仕事検索だけでなく企業の人事部門のような機能も提供するワンストップのプラットフォームだ。
顧客企業が人材を必要とするとき、WorkYardは登録している人材ネットワークから過去のレビューと書類でショートリストを作成、そこからさらに絞り込み、最適と思われる人材の面接を行う。候補者がある程度まで絞れた段階で、候補者の過去の雇用主への聞き取りを行い、経験やパフォーマンスを確認。さらにその後、候補者が犯罪履歴を有していないか背景確認を実施し、最終的にすべての条件を満たす候補者を顧客企業に提案するという流れとなる。
同プラットフォームは、このマッチング/面接機能に加え、労働時間管理、現場での仕事チェック、時間外勤務の確認、給与の支払いなどもカバーしている。建設人材市場ではこのほか、Trade HoundsやDoozerといったプラットフォームが存在する。
またホスピタリティ分野ではQwickやPared、ソフトウェア開発分野ではAndelaやHoneypotなど、特化型オンライン人材プラットフォームは枚挙にいとまがない。
台頭する特化型人材プラットフォーム。世界のオンライン人材市場の競争激化は免れないだろう。
文:細谷元(Livit)
参考
https://blog.dealroom.co/online-marketplaces-entering-the-next-phase/
https://www.newyorker.com/science/medical-dispatch/america-is-running-out-of-nurses