プラごみ食べるバクテリア、ペットボトル分解する酵素も?「2021年世界のリサイクル動向」

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2021年、ポストコロナの経済復興はサーキュラー・エコノミーに焦点

年々増え続けるプラスチック消費。世界各地ではプラごみ問題への意識が高まり、プラごみ削減/リサイクル関連の取り組みが増えていたが、新型コロナの影響で、その勢いは衰えてしまった感がある。

しかし2021年、各地では「サーキュラー・エコノミー」の実現を通じて経済復興を目指す動きが興りつつあり、それに伴いプラごみ問題に対する取り組みも今一度増えてくることが見込まれる。

オーストラリアでは2021年1月22日、同国連邦科学産業研究機構(CSIRO)が「サーキュラー・エコノミー(循環経済)」へのロードマップを公開。ポストコロナの経済復興で、同国が本格的に循環経済を目指すことを示すものだ。

このロードマップは、オーストラリアのリサイクルに関する厳しい現状を示し、国内の各プレーヤーの行動を根本的に変えることの必要性を強調。一方で、リサイクル率を高めることが、経済に寄与することにも触れており、危機感とインセンティブを同時に伝えるものでもある。

オーストラリアの現在のリサイクル率は、プラスチックが4%、ガラスが33%、紙が36%。残りは「ごみ」として海外に輸出されるか国内の埋め立て地に投棄されている。

オーストラリアの主なごみの輸出先はインドネシアだったが、2019年ごみの輸出先となっていた新興/途上国による一連の先進国へのごみ返還騒動の勃発で、インドネシアもオーストラリアにごみを返還。これを機にオーストラリアでは、国内のリサイクル体制を強化する機運が高まったといわれている。

インドネシア・ジャカルタのごみ埋め立て地(2019年11月)

リサイクル名目で、先進国から新興/途上国にプラごみが多く輸出されていたが、実際はリサイクルできないほど汚い状態で、新興/途上国では不法投棄や危険な焼却処理がなされ、周辺環境が悪化していたという背景がある。

上記ロードマップは、リサイクル率を5%高めることで10億ドル(約1,000億円)の経済効果を生み出せると推計。新素材の開発や循環経済に適したプロダクトの開発、また新しいビジネスモデルの創出などで経済効果が生まれるという。

プラごみ食べるバクテリア、世界で進む研究。数年以内に商業化も

サーキュラー・エコノミーの実現、プラごみ問題の解消には、プラスチック消費の削減に加え、プラスチックに代わる新素材の開発、そして新しいリサイクル技術の開発が求められる。

プラスチックに代わる新素材に関しては、以前お伝えしたように「きのこ」ベースの素材を、パッケージやアパレルに利用する取り組みが広がりつつある。バイオテック分野などの先端技術を活用したソリューションが実用化されているのだ。

リサイクル技術の開発でも、バイオテックに大きな期待が寄せられている。

その1つが、プラスチックを食べるバクテリア/酵素の開発だ。

2016年大阪堺市のペットボトル処理工場で、京都工芸繊維大学の研究者らが「プラスチックを食べる細菌」を発見したことが世界的な話題となった。

これ以降、このプラスチックを食べる細菌が、どのようにプラスチックを分解しているのか、その分解期間を短縮することはできないのか、という観点での研究開発が世界中で進展。最新情報によると、数年以内に実用化される可能性も見えてきている。

英ガーディアン紙2020年9月の記事によると、ポーツマス大学の研究者らが進めている研究では、プラスチックの分解期間を2016年発見当時に比べ大幅に短縮する酵素を生み出すことに成功。

2016年に発見された当時、このバクテリアは独自の酵素で、2ミリの「ポリエチレンテレフタレート(PET)」を約1カ月かけて二酸化炭素と水に分解していることが判明。その後、ポーツマス大学の研究者らが2018年に発表した時点で、プラスチック分解期間は数日に短縮。さらに2020年9月の報道では、そこからさらに6倍速くなったという。

同研究に携わったポーツマス大学のジョン・マクギーハン教授は、フランスのCarbiosなどプラスチック分解酵素の開発に取り組む企業と連携することで、1〜2年で商業化できる可能性があると指摘している。

フランスのCarbios、10時間でペットボトル90%分解する酵素開発

Carbiosは2020年4月、独自の研究開発でペットボトルの90%を分解する酵素を発見し話題となった。ただし、同社の酵素が短時間でプラスチックを分解するには、その環境を70度以上に上げることが条件となる。ポーツマス大学の研究者らがつくりだした酵素は、常温で分解することが可能だ。

Carbiosは当時、ペプシ社やロレアル社などとの提携を通じ、プラスチック分解酵素の研究を加速、5年以内にリサイクル事業としてスケールする計画があると明らかにしていた。マクギーハン教授が指摘するように、施設やネットワークを持ち、同様の研究目的を有する企業と連携することで、短期間でプラスチック分解酵素を広く展開することも可能となる。

現在マクギーハン教授らは、リサイクルが難しいとされるポリエステルとコットンの混合素材(アパレル商品によく使われる素材)を分解する酵素の開発を見据え、アパレル企業との提携に乗り出している。

ドイツの研究者らは、有害「ポリウレタン」を分解するバクテリア発見

このほかドイツ・ヘルムホルツ環境研究センターの研究者らは2020年3月に、分解時に有害物質が放出され、リサイクルが難しいとされる物質「ポリウレタン」を分解するバクテリアを発見したことを論文で発表。リサイクルの可能性を広げる発見として注目されている。

ポリウレタンは、耐摩耗性などの性質から、家庭用スポンジ、断熱材、防音材、ジャージなど幅広く用いられる素材だが、リサイクルが難しく、ほとんどが埋め立てられている。ドイツの研究者らが発見したバクテリアは、ポリウレタンを分解するだけでなく、ポリウレタンを食べ、エネルギーに変換できる特性を持っている。

数年以内に実現するかもしれないプラスチック分解酵素によるリサイクル。今後の研究開発動向に注目していきたい。

文:細谷元(Livit

参考:
CSIRO
https://www.csiro.au/en/Research/Environment/Circular-Economy/Circular-Economy-individual-products

ガーディアン
https://www.theguardian.com/environment/2020/sep/28/new-super-enzyme-eats-plastic-bottles-six-times-faster

スーパー酵素研究
https://www.pnas.org/content/117/41/25476

ポリウレタン分解酵素
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2020.00404/full

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