「4K」や「ドローン」が話題になったCES2015
毎年1月に米ラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジー見本市「CES」。今年は、新型コロナの影響によりオンラインでの開催となった。
1967年にニューヨークで始まったCES、1970年にビデオカセットレコーダー、1977年にアップルのパーソナルコンピュータ、2002年にカメラ付き携帯、2007年にiPhoneが発表されなど、主にコンシューマ向けのテクノロジートレンドを占う上で重要なインサイトを得られる場として、多くの人々の関心を集めるイベントとなっている。
現在のコンシューマテクノロジーのトレンド/普及状況を踏まえると、CESに登場するテクノロジーは、5年ほど先の状況を知るのに役立つといえる。たとえば、この数年間で広く一般に広がったドローンや4KテクノロジーがCESで大きな話題となったのが2015年のこと。
今年はどのようなテクノロジーが発表され、どのテクノロジーに注目が集まったのか、海外メディアの注目度を踏まえ、今後のテクノロジートレンドを知る上で重要となりそうな発表と、それが示唆する未来のトレンドを探ってみたい。
クリエイティブの世界を大きく変える「ソニーカメラ」と「ソニードローン」
CESで発表されるテクノロジーは千差万別。発表されたものすべてを取り上げることは非常に難しく、すべて紹介できたとしても「情報過多」となってしまい、未来トレンドの考察に支障をきたしてしまう。
そこで本記事では、海外メディアも注目するメディア/エンタメ/ゲーム分野にしぼりCES2021を見ていきたい。
新型コロナで大きく変わったものの1つがメディア消費のあり方。CES2021では、このメディア消費の変化を後押しするような発表が多く、テーマの1つとして妥当であると考えられる。CES2021で発表されたメディアに関わるテクノロジー、またそれらが消費者とクリエイターにどのようなインパクトをもたらすのかという視点で見てみたい。
CES2021の目玉の1つはソニーが発表したドローン「Airpeak」だ。国内でも多数のメディアが報じており、知らない人はいないはずだ。
Airpeakは、ソニーのフルサイズ・ミラーレス一眼カメラ「α」シリーズの搭載を前提として開発されたドローン。αカメラ搭載可能な機体としては業界最小クラスであると謳っている。
このソニーのドローン、海外のクリエイターコミュニティの間では、大きな期待を持って受け止められている。
ソニーのカメラ「α」シリーズは、カメラの性能に加え、コンパクト性や動画ファーストを意識した進化が著しく、ここ最近海外の動画クリエイターらの間で人気が非常に高まっている。動画クリエイターらがYouTubeで「他社のカメラからソニーカメラに乗り換えた理由」を語る動画は、ここ最近増えているように思われる。
特に今回発表された最新モデル「α7s3」に関連した海外クリエイターらの比較動画やレビュー動画は非常に多く、これらの動画をきっかけに「α7s3」を購入したクリエイターは少なくないと思われる。実際、筆者もシンガポールでα7s3を購入したが、カメラ店のスタッフがいつになく売れ行きが良いと語っていた。
海外でもユーザー基盤が広がるαシリーズ。このカメラの搭載を前提とするドローンの登場に、ソニーカメラユーザーが反応したのは不思議なことではないだろう。
まだ詳細は公表されていない「Airpeak」だが、αシリーズの進化を鑑みれば、このドローンが映像製作分野に及ぼす影響は計り知れない。
現在コンシューマ市場では、DJIの「Mavic」など小型でありつつ4K映像を撮影できるドローンは少なくない。その映像クオリティも年々上がっており、そのような小型ドローンで撮影した映像を採用するケースも少なくないだろう。
しかし、現時点の小型ドローンの映像クオリティや表現の幅は一眼カメラには及ばず、空撮であっても一眼カメラで撮影したいという強いニーズがある。ただし、その場合はコストを覚悟しなくてはならない。
αシリーズやREDなどの本格的なカメラをドローンに載せる場合、それ用にドローンを組み立て、カスタマイズするエンジニアが必要になる。ドローンのコスト、エンジニアのコスト、さらにこのようなドローンはサイズが大きくなりがちで、移動にもそれなりのコストがかかってくる。
資金力のあるプロダクション企業やクリエイターであれば問題ないかもしれないが、一般的なクリエイターは諦めざるを得ない。
ここに、複雑なカスタマイズが必要なく、αシリーズと連携でき、比較的サイズが小さな「Airpeak」が登場。αカメラを活用し、空撮に様々な表現を組み合わせた映像を、多くのクリエイターが撮影できる機会が到来したことになる。値段はまだ公開されておらず、高額になるのではないかとの噂が飛び交っているが、既存の一眼カメラ空撮のコストと比べると低くなると思われる。
最新モデルの「α7s3」はα7sシリーズの暗闇に強いという特性が前モデルから大幅に改善され、そして4K高画質でのスローモーション撮影機能が追加された。この2点だけでも、映像表現の幅は大きく広がるが、そこに空撮という要素が加わることで、映像表現の可能性は一層高まることになる。
また本記事執筆時点の1月22日には、翌週26日にソニーがαシリーズの新モデルを発表する予定で、8K撮影を可能にするαカメラが発表されるのではないかとの噂が飛び交っている。現時点で8K空撮を敢行する場合、RED Helium(ボディ価格250万円以上)などの巨大カメラと大型ドローンが必要だ。ソニーの新カメラの噂が本当であれば、8K空撮の敷居は大きく下がることになる。
リアルタイム3D制作テック、音楽ライブはバーチャルシフト
このソニーのドローン「Airpeak」は、同社がCES2021の発表で強調した「テクノロジーで、クリエイティビティに無限の可能性をもたらす」というメッセージを体現する要素の1つ。
同社は、Airpeakのほかにも未来のエンタメを形作る重要なテクノロジーをいくつか発表している。
特に注目したいのは、米国の歌手マディソン・ビアー氏のパフォーマンスを通じて紹介されたリアルタイム3D映像制作テクノロジーだ。
新型コロナで大きな打撃を被った音楽業界。ソーシャルディスタンスの維持で、大規模なライブが開催できない状況だが、この状況を大きく変えるであろうテクノロジーなのだ。
端的にいえば、バーチャルリアリティの世界で、コンピュータグラフィックスを使って音楽/映像作品を制作するもので、バーチャルコンサートの制作ワークフローを大幅に短縮するテクノロジー。
CESでは、ニューヨークのソニーホールでライブパフォーマンスをするビアー氏の姿が公開された。本物に見えるが、実はすべてCG。このバーチャルライブ映像の制作にあたり、ディレクターのレミントン・スコット氏がビアー氏に動きに関する指示を与えたが、スコット氏が指示を出したのは、ビアー氏がいる場所から遠く離れた場所。
スコット氏はVRヘッドセットをかぶり、仮想空間にいるデジタル版のビアー氏に指示を出していたのだ。このデジタル版ビアー氏は、本物のビアー氏の動きにリアルタイムで反応できるため、ディレクターの指示もその場で反映されることになる。
このリアルタイム3D映像制作で重要な役割を果たしたのが、フォートナイト開発企業Epic GamesのゲームエンジンUnreal Engine 4だ。ソニーは2020年7月に、Epic Gamesに2億5,000万ドル(約260億円)を出資することを明らかにし注目された。現在、Epic GamesではリアルタイムCGのリアリズムを一層高めるUnreal Engine 5の開発も進められており、今後同社に対するソニーの関わりは一層深いものとなっていくことが考えられる。
これまでフォートナイトでは、MarshmelloやTravis Scottなど著名DJ/ミュージシャンによるライブコンサートが開催され、世界中で数千万人の観客を動員することに成功している。2021年以降、ソニーとEpic Gamesの連携が強化されることで、このようなバーチャルコンサートが増えることが見込まれる。今回ソニーがCESで公開したビアー氏のパフォーマンスは、プレイステーションVRとオキュラスVRでも公開される予定だ。
このほか、CESではVRグローブ、360度音響システムなどVRの世界を拡張するテクノロジーが登場。VRの世界がダイナミックかつインタラクティブに進化することを示している。
今から5年後「ソニードローン」や「バーチャルコンサート」など、今回CESで発表されたテクノロジーがどれほど普及しているのか、その進展に注目してみてもおもしろいのではないだろうか。
文:細谷元(Livit)