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2020年のSDGs達成度は世界2位(2019年は世界1位)、国内発電量の50%以上を再生可能エネルギーでまかなうなど、持続可能な取り組みにおいて、名実ともに世界を牽引するデンマーク。2020年12月、同国は刑務所廃墟をリユースして、車両の通行を禁止する「カーフリー地区」に変貌させる都市計画を発表した。
Webメディアで公開された地区のデザインには、地域の交流を促進するコミュニティ施設や持続可能性に配慮された住宅が並んでおり、完成後には約4,500人の居住地となる予定だ。この都市計画に込められたデンマークの狙いや計画の詳細をレポートしたい。
コペンハーゲン郊外の刑務所廃墟を居住地区へ
開発が発表されたのは、コペンハーゲン郊外のAlbertslund(アルバーツルンド)と呼ばれる地区。上記の地図上の中央部分、赤線で囲われている地区となり、観光やビジネスのメインとなるコペンハーゲンの中心地までは電車やバスで1時間弱で到着する。やや距離があるが、コペンハーゲン近郊も通勤圏内で多くの住宅が必要とされる地域だ。
このアルバーツルンド地区にあるVridsløselilleと呼ばれる刑務所は、1859年に建設され、2018年から廃墟となっていた。建設された当時は、広大な畑が周囲を取り囲んでいたが、都市の人口が増えるにつれて畑は次々に住宅に変わっていったという。
この地区でより多くの住宅が求められていること、そして刑務所自体が時代遅れになったという2つの理由から、刑務所廃墟を居住地区として生まれ変わらせる計画が持ち上がった。
独房から客室に。リユースで叶える持続可能な都市
この刑務所はユニークな星型のデザインをしており、周囲には豊かな森と住宅が広がる。刑務所を囲うように生える木々は、かつてセキュリティフェンスの役割を担っていた。
自治体からの依頼で設計を請け負うデンマークの建築事務所・Schmidt Hammer LassenArchitectsとBOGLは、刑務所の建物を完全に取り壊すのではなく、一部を生かして新たな施設とするリユース計画を打ち出した。
「廃墟とはいえ壁はまだ残っているし、壮大な建物の設計を生かした体験を住民に提供したい」とデザインディレクターのKristian Ahlmark氏は述べている。
彼らは建物全体をコミュニティのハブにすることを計画しており、フィットネスセンター、地元のスタートアップ企業用のコワーキングスペース、醸造所などが含まれる。
以前独房だった場所は、近所のアパートに住む人々が使用できる小さな客室に生まれ変わる。国全体として建築設計が評価されているデンマークの建築事務所が、独房をどんなふうに様変わりさせるのか期待がふくらむ。
5つある刑務所のウイングのうち2つは解体されるが、材料のレンガは住宅建設の際に再利用される予定だ。刑務所の周囲にはアパートメントなどが建設され、約4,500人が居住できる地区となる。
中心部は車の通行不可。環境保護を促進
環境立国デンマークでは、公共交通機関や車よりも自転車での通勤を推進しており、国民の自転車保有率は世界トップクラス。2030年までに温室効果ガス排出量の70%削減を目指していることもあり、車そのものの数を減らす取り組みも進めている。
そんな背景もあり、アルバーツルンド地区は開発後、中心部の車両の通行が禁止される。車を所有している住民は、中心部の外に駐車して徒歩、あるいは自転車で帰宅することになるそうだ。デンマークでは多くの道で歩行者と自転車の専用レーンが分かれているが、この地区でも同様となる。
カーフリー地区の取り組みはデンマーク内ではめずらしく、最新の都市開発として、その行く末が現地で注目されているようだ。
そのほかの国内カーフリー地区だと、面積約3.5平方キロメートル、人口112人の小さな島Tunøがある。郵送手段は自転車とトラクターのみ、島内には約15人が乗車できる合計6台のトラクターがあるそうだ。歩いて2〜3時間で一周できるほど小さい島で、静かな雰囲気と自然のめぐみを求めて、休暇期間にTunøを訪れる観光客もいるとか。
自動車が通行しないことは環境への負荷を抑えるだけでなく、自動車事故を防ぐことにもなる。実際、2015年から2019年に市内への自動車乗り入れを段階的に制限していたノルウェーの首都オスロでは、2019年の交通事故による死亡者は、わずか1人だった。ノルウェー全体では、2019年に初めて、交通事故による16歳以下の子どもの死亡者がゼロだった。
安全面の利点を踏まえると、特に小さな子どもを持つ保護者にとって、カーフリーの住宅地区は魅力的ではないだろうか。
古い建築物がサステナブルに生まれ変わる
カーフリーや建築材料の再利用以外にも、アルバーツルンド地区はできる限り持続可能な都市のあり方を追求していく方針のようだ。
計画には、下水道の代わりに敷地内の小さな池や湖を廃水処理に使用する、熱や電力を自給自足するネット・ゼロ・エネルギーの住宅が含まれる可能性がある、などが記載されている。
今回紹介したのはマスタープランだが、自治体はこの計画を評価しているとのこと。また別のデンマークの設計事務所Cobeの計画と組み合わせて、最終的な計画となる予定だ。
美しい自然に囲まれたアルバーツルンド地区の刑務所が、どのような姿に変貌するのか。カーフリーは、都市にどのような影響を与えるのか。今後の都市計画から目が離せない。
サムネイル写真提供:Schmidt Hammer Lassen Architets+BOGL
取材・文:小林 香織
企画・編集:岡徳之(Livit)