資生堂は、スギ花粉に含まれる抗原タンパク質“Cry j1(クリジェイワン)”が肌のバリア機能を低下させ、肌荒れを引き起こすメカニズムを解明したと発表した。
また、グルタミン酸、システイン、グリシンから成るトリペプチド(以下、トリペプチド)が花粉による肌荒れを抑制することを見出したという。
スギ花粉は“トロンビン”というタンパク質を活性化することでも肌荒れを起こし、これは一般的に知られているアレルギー反応とは異なるメカニズムであるとし、これはつまり、花粉アレルギーの有無に関わらず、誰もがスギ花粉による肌荒れを起こす可能性があることを示しているとのことだ。
花粉による肌荒れを防ぐためには、花粉の付着を防ぐだけでなく、花粉が肌に付着することで生じる細胞の興奮を鎮めることも重要であるとしている。
今後は同知見を活用し、花粉から肌を守り、どんな時も健やかで美しい肌を実現できるアプローチの開発を進めていくという。
なお、同研究は「フレグランスジャーナル」の2020年10月号、および薬理学雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」の2020年10月号に掲載されたとのことだ。
先行研究で、スギ花粉により細胞が興奮して肌のバリア機能を低下させることを発見し、トラネキサム酸が肌の細胞の興奮を抑制して肌荒れを防ぐことを見出しているが、そのメカニズムは完全には明らかにされていなかったという。
メカニズムの詳細を解明し、より効果的に肌荒れを抑制する薬剤やアプローチを新たに探索していくため、今回は遺伝子の網羅的な解析などを用いて研究を進めたとのことだ。
その結果、これまで血液凝固因子として知られてきた“トロンビン”というタンパク質が、スギ花粉による肌荒れの鍵であることを初めて突き止めたという。
そして、このトロンビンに着目し、有用な薬剤の探索を進めたとのことだ。
スギ花粉によりトロンビンが活性化することが肌荒れの原因であることに着目して薬剤を探索し、グルタミン酸、システイン、グリシンから成るトリペプチドにトロンビン活性を阻害する効果があることを見出したという。
そして、このトリペプチドを用いて、肌荒れの抑制効果を確認。肌のバリア機能への影響を明らかにするため、セロハンテープで組織培養皮膚表皮の角層を剥離して人為的にバリアを破壊し、そこへスギ花粉の抗原タンパク質「Cry j1」溶液を塗布したときの水分量および細胞間脂質量を測定。
水を塗布したときに比べて、「Cry j1」溶液を塗布した皮膚では水分蒸散量が顕著に高くなり、肌のうるおいが失われるが、トリペプチドを「Cry j1」溶液と同時に塗布することで皮膚の水分蒸散量の上昇を抑え、肌のうるおい低下を防止できることを発見。
また、「Cry j1」は皮膚表皮細胞を興奮させ、肌本来の油分としてバリア機能を担う細胞間脂質の分泌を減少させるが、トリペプチドは皮膚表皮細胞の興奮を抑え、細胞間脂質の分泌を元に戻すことも見出したとのことだ。
これまで花粉による肌荒れはアレルギー反応によるものが注目されてきたが、スギ花粉抗原がアレルギー反応とは別の反応であるトロンビン活性化によって肌荒れを引き起こすという今回の知見は、これまでの常識を覆す大きな発見であるという。
また、このことから、花粉アレルギーの有無に関わらず、花粉の時期は肌をケアする必要があるといえるとのことだ。
私たちは全ての人を花粉による肌荒れから守り、健やかで美しい肌を実現するため、今後も研究を続けていくとしている。