テクノロジーで叶える「頑張らない」つながり。孤独を乗り越えるために広がる、持続可能なコミュニケーション

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コロナにより、世界各地で長引く自宅での生活。家族や友人との外出に制限があることから、社会・健康問題として「孤独感」が顕在化している。

今年8月、カスペルスキー社が18歳以上の男⼥を対象に行った調査によると、コロナ流行前からすでに日本人の2人に1人が孤独を感じていたが、5人に1人は外出自粛期間中により感じるようになったという。

孤独感を解消し、心のつながりを保つ。それをみなが無理のない形で行うにはなにができるだろうか。コロナで変わったコミュニケーション様式を念頭に考察してみたい。

「心にもディスタンス」の弊害とは

ソーシャル・ディスタンシングが新生活様式となった今、特に高齢者の社会的孤立や孤独といったリスクが高まっている

孫に会いたくて(画像:Shutterstock)

しかし、ほかの世代もリスクと無縁ではなく、コロナ流行前の2019年12月、リクルートワークス研究所が働く世代(25-64歳の男女就業者)を対象に行った研究では、約4割の人が有意義なつながりを持っていないことが明らかになった。

こうした「つながり不足」による影響は、うつや不安感など精神への悪影響にとどまらず、認知症や免疫力低下など身体の問題にまで及ぶと言われている。

オックスフォード大学発の研究・出版機関「Our World in Data」曰く、私たち一人ひとりにとって家族や友人からのサポートは、心身ともに充実し、社会的にも満たされた状態を指すウェルビーイングに必要不可欠。

米ハーバード大学医学大学院の研究者らが75年間にわたって行った有名な調査「Grant Study」の末に導いた結論もまた、「温かな関係性こそが、幸福感と長寿の秘訣」というものだった。

「人となるべく接しないこと」が習慣となったが、「心の距離」は近いままでありたい。

有意義なつながりの形は十人十色

年齢の差を超えて、家族が一つとなり交流し合うのを助けているのがデジタルツールだ。幸い、私たちはスクリーン越しでもポジティブな感情や居場所感を得ることができると言われている

例えば、LINEやZoom。外出制限があるなかでも、こうしたビデオ通話サービスによってつながりを維持できる。約6割の人がコロナ流行で 「ビデオ通話サービスの利用が増えた」という調査結果もある。

一方で、家族や友人の間柄であっても、お互いの「ソーシャルニーズ」が異なる場合、つながりを持つ頻度やタイミングは難しい。

一人落ち着く時間がないと、やっていられない人もいる(画像:Shutterstock)

ソーシャルニーズの例として、「内向型」と「外向型」の概念が挙げられる。外向型の人が他の人たちと交流することで元気になるのに対し、内向型の人は自分の内面と向き合うことで生き返ったようになると言われている。

いずれも性格の傾向を示すもので、人はだれしも両方の性質をいくらかは持ち合わせている。そのため、ラベルを貼ることで両者の分断を招くのは避けたいが、スペクトラムとして考えると、それぞれ両極端に近い人たちも少なからずいる。

人と交流した後、充電時間がより多く必要な内向型と呼ばれる人びとは、「ソーシャルに」「アクティブに」生きることが推奨される現代社会で生きづらさを感じることも。かといって、「内向型は孤独を感じない」のとも異なる

かくいう筆者も内向型の一人で、人の集まるイベントなどで社交的に振舞った次の日は寝込むというのをこれまで幾度となく繰り返してきた。

例えるなら、精神的に充実した生活を送るのに、ソーシャルな関わりが一升瓶必要な人もいれば、おちょこで十分という人もいるということ。ソーシャルニーズ、つまり、つながりの「形」や「必要量」は人それぞれ異なるのだ。

ワーク・ライフの境界が曖昧なビデオ通話に疲労感を覚える人も

無理のない範囲で、愛する家族や友人とつながっていたい(画像:Shutterstock)

ソーシャルニーズの違いとは別に、バーチャルで人とつながることへの適性も人によって異なる。

例えば、世界中、どこにいても大切な人と話せるビデオ通話サービスは、このコロナで私たちの生活に欠かせない存在となった。

しかし、それは文字どおり「話す」ことがコミュニケーション手段のメインとなり、さらに仕事でも同様に用いられることから「ビデオ通話」に疲労感を覚える人も出てきた

これに内向型の傾向が加わると、たび重なるビデオ通話はより一層チャレンジングなものとなる。

「話さなくても楽しめる」VRで頑張りすぎないコミュニケーションを

ソーシャルニーズの異なる個人が、「頑張りすぎずに」親しい間柄の人たちと心を通わせ続けるために、なにか良い方法はないか。

その一つは、「会話以外」のコミュニケーションを通じて、場を共にすることかもしれない。

リビングで寛ぐように家族と過ごせる「Aclove」(ソース:Alcove VR YouTubeチャンネル)

例えば、今年8月、オキュラスVRヘッドセット向けにリリースされたVRアプリ「Alcove」には、脳トレやバーチャルかくれんぼ、うさぎのペットを飼えたりと、「話さなくても楽しめる」アクティビティが満載だ。

「バーチャルうさぎ」と触れ合う新感覚の体験も(ソース:Alcove Facebookページ

もともとは、イノベーションを通して中高年層の生きがいづくりに取り組むAARP(アメリカ退職者協会)「Innovation Labs」が開発したこのアプリ。

幅広い世代の人びとが使用することを想定し、VR初心者にもやさしい設計となっている。そのため、各々が異なるソーシャルニーズを持つ家族がバーチャルで一堂に会するときにも役立つ。

例えば、「Lead / Follow」機能が便利だ。これは言わば「引率」機能で、だれかと同じ景色を見ることができるため、VRを使い慣れている人が一人いれば、他のユーザーは不慣れであってもさまざまなアクティビティを一緒に体験できる。

また、筆者がおすすめしたいコンテンツが「気球の旅」。360度動画で、鳥の目線から景勝地を眺めているかのような疑似体験が可能だ。気球に乗ってケニアのサバンナを訪れたときには、「いまシマウマ見えた!」と感想をつい叫びたい気持ちになったほどである。

世界各地の旅行先には、このトラベルコーナーからワープする(ソース:Alcove

一人静かに佇んでいたい内向型の人も、地理的な制約を超えて心ふれ合う温もりを求める高齢者も、リビングで寛ぐようにしてだれかと交流できるVRアプリなら、大切な人たちと和やかな休息時間を楽しめるだろう。

音楽で心を通わせるリモート演奏アプリ「SYNCROOM」

「離れていても音でつながる」(ソース:PR TIMES

ヤマハが今年6月にリリースした「SYNCROOM(シンクルーム)」は、離れた場所にいるユーザー同士が「リモート合奏」を楽しめるサービス。最大で5拠点をつなぐことができる。

ルームを公開ではなく非公開にすることで、セッションを共有したいメンバーとのみ仮想空間を利用することも可能。

「大切な人たちとつながっていたいけど、話すのは苦手」という人も、これなら使いやすい。使い方もシンプルなので、幅広い世代が活用できそうだ。

瞑想アプリ「Insight Timer」で癒しの時間を共にする

選べるトピックは多岐にわたる(ソース:Insight Timer

癒しの瞑想コンテンツでも、会話なしに人とつながることができる。

「Insight Timer」は全世界で1,800万人のユーザーを擁する人気の瞑想アプリ。7,000超のガイド付き瞑想コンテンツを無料かつ日本語でも提供している。

家族や友人とタイミングを合わせて同じレクチャーやライブ配信イベントに参加するもよし、別々のプログラムにトライして、後で感想を共有するもよし。各コンテンツは10分から約1時間と、選べる時間幅が広く、忙しくとも家族や友人との時間を見つけられそうだ。

今回は、「頑張りすぎずに」場を共にするのを助けてくれるツールを紹介した。

排他的になるのとは違うが、たまには「ビデオ通話を頑張る」ことから休憩したっていい。リビングで寛ぐようにして使えるこれらのアプリは、大切な人との和やかな休息時間をもたらしてくれるだろう。

会話やビデオ通話にかぎらず、さまざまなツールを組み合わせて楽しむ「マイペースな」コミュニケーション、そしてあまり気負いせずに「人とつながる」体験が、このコロナ禍を機に広がっていくことを願う。

また、そうした「頑張らない」結びつきを可能にするテクノロジーは、コロナ後の世界においても、年齢や国籍、国境までも超えて心をつなぐ、「希望の灯火」となるだろう。

文:菅原美和子
編集:岡徳之(Livit

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