拡大するオンラインイベント市場
新型コロナウイルスの影響で、イベント業界が急成長している。
距離の確保や外出規制が世界中で続くなか、オンラインイベントはデジタルソリューションへとシフトし、その傾向はパンデミック収束後も拡大することが見込まれている。トークイベントやカンファレンスに留まらず、音楽フェスティバル、卒業式、誕生日パーティーまで、イベントのバーチャル化に伴い、さまざまなサービスやスタートアップが誕生した。
例えば、欧州発のオンラインイベントプラットフォーム「Hopin」は、業界内最速で成長するスタートアップとして注目されている。主催者は最大10万人のライブイベントを企画、開催、管理でき、ミートアップ、会議、ハッカソンなどのイベントのほか、ビデオ配信やバーチャル円卓会議、ショールームとしての利用も可能な多機能サービスだ。
また、リアル空間と同じように、対象との距離により音楽や声の音量が変化する「Spatial.Chat」や「HEERE(ヒア)」、アーティストとファンを1対1のライブトークで繋げるアプリ「WithLIVE」、エンターテインメント業界向けにオンラインイベント配信プラットフォーム「CyberArrow」、バーチャルアバターで参加できる「Teooh」も、ユニークなイベント体験が人気を博している。目的や体験の種類にあわせて、今後もさまざまなサービスやスタートアップが誕生するだろう。
本記事では、オンラインイベントにまつわる最新の取り組みやテクノロジーをご紹介したい。
ピンタレストなど既存のソーシャルメディアの参入も
最近では、ピンタレストがオンラインイベント向けの機能を試験的に運用しているという報道が伝えられた。実装された暁には、ピンタレスト経由でZoomで実施されるオンラインイベント/クラスに参加でき、かつイベントで使用するノートや写真などの資料を整理できる。参加者とグループチャットで繋がれる機能も付いているようだ。
Pinterest is working on Classes where participants can join via Zoom pic.twitter.com/vhRtMCHpup
— Jane Manchun Wong (@wongmjane) November 24, 2020
新型コロナウイルスが猛威をふるった2020年3月には、ピンタレストは同社過去最大の検索数と保存数を記録した。10月には株価も上昇し、38億3,500万ドルの見込みに対し、4億4,300万ドルの売上を記録。月毎のアクティブユーザーは今や、4億4,200万人に拡大している。
オンラインイベントツールに関するさらなる詳細はピンタレストから発表されていないが、同社のデジタル情報整理ツールに加え、イベントをアプリ内で完結させるニーズは今後高まっていくだろう。
フェイスブックも同アプリ内でオンラインイベントを完結できるよう、動画配信や課金機能を今年春に追加した。インスタグラムもライブ配信機能に加え、動画にショッピング機能を追加するなど、オンラインイベントにも適用できる機能が備わっている。新規スタートアップだけでなく、既存のテックジャイアントやソーシャルメディアの動向も気になるところだ。
ニューノーマルとなるハイブリッドイベント
シスコの「Global Networking Trends Report」によると、2023年までに世界人口の70%以上がモバイル接続を持つとされている。そして、ライブストリーミングは2022年までにビジネスインターネットトラフィック全体の約82%を占めるようになると予測されている。
顔認識やライブ翻訳、ソーシャルメディアと連携したユーザーのセンチメント分析、オンライン上に仮想的なフェンス(柵)をつくるゲオフェンシング技術や、AIを活用した体験のパーソナル化など、イベント業界のデジタルシフトと最新テクノロジー導入は非常に活発だ。
もちろん、オンラインイベントの一般化とそれに付随するテクノロジーの発展は、アナログイベントの終焉を意味してはいない。
実際、完全オンラインだけでなく、リアルな場で展開されるオフラインイベントとオンラインを掛け合わせたハイブリッドイベントは急速に増えている。Peatixのオンラインイベントに関する調査によると、アンケート回答者の約7割がパンデミック収束後もオンラインイベントを開催すると答えている。「リアルイベントのみ開催」と答えたのは、わずか5.8%にとどまった。
ライブ配信による会場外からの遠隔視聴、参加者の交流を促進するチャットルーム、ウェアラブルデバイスの使用、RFIDやビーコンによる参加者のトラッキングなど、パンデミック収束後のアナログイベントにも、デジタルテクノロジーは活用され続けるだろう。アナログとオンライン双方の長所を合わせたハイブリッド・イベントは、これからのニュー・ノーマルとなるはずだ。
付加価値の提供とオンラインイベントのこれから
一方、オンラインイベントの場合、アナログイベントと比べてチケットの価格帯は低い傾向にある。そこで、基本的なサービスや製品は無料で提供し、追加機能に対し課金する「フリーミアム(freemium)」というビジネスモデルが注目され始めている。例えば、著名人の基調講演は無料で配信し、有料チケットでは知識人や講演者、他の参加者とのネットワーキングの機会を提供するなどの仕組みだ。
オンラインイベントではアナログイベントよりもフリーミアムに対応しやすく、今後、オンラインイベントの顧客体験に付加価値をつけ、対価をあげるための手段として一般化されていくことが予想される。
顧客体験に付加価値をつける方法は、Eコマースや、パンデミック以前から既に大規模の配信イベントを行ってきたゲーム業界から学ぶことも多いだろう。
いずれにせよ、オンラインイベント業界が今後も発展し続けるのは確かだ。日々アップデートされていくサービスやテクノロジー、スタートアップの動向から、これからも目が離せない。
文:杉田真理子
企画・編集:岡徳之(Livit)