廃棄物を減らすことで環境を守る、持続可能なビジネスモデルやライフスタイルが広がっている。その方法は業界や企業、自治体によってさまざまだ。そこで今回は、国内外の「ゴミゼロ事例」から廃棄物を減らすアイディアを紹介したい。
再利用する配送バッグでCO2もゴミも削減「Repack」
2011年にフィンランドで誕生したRePackは、ヨーロッパや北米で支持を広げている包装サービスだ。同社が提供するのは、社名と同じRePackと呼ばれる再利用できる配送袋で、現在100以上のブランドが利用している。再利用の仕組みは以下の通り。
- 各ブランドは、RePackに商品を入れて顧客に郵送する
- 顧客は商品を取り出した後、空のRePackを郵便ポストに投函する
- RePack社は郵便局から戻ってきた配送袋を清掃して、各ブランドに再送する
RePackの素材には、環境にやさしく耐久性にすぐれた使用済みポリプロピレンを採用、最低でも40サイクル(20回の往復)の利用が可能で、寿命がくると100%リサイクルされる。RePackを40サイクル活用した場合、使い捨てプラスチック袋に比べて78%、段ボールに比べて75%、CO2を削減できるという。
最大のネックになりそうなのが顧客によるRePackの返送だが、同社は報酬プログラムを採用することで返送を促進している。顧客はポスト投函することで参加ブランドが集まるプラットフォームにログインができ、商品券利用やチャリティーへの寄付などの特典を受けられる。
今のところ「RePack」を利用できるのは、ヨーロッパ、アメリカ、カナダに拠点を置き、オンラインショッピングを提供する企業、追加の梱包を必要としないアイテムに限られている。コストは1回の配送につき、2.75ユーロ(約350円)から。
フィンランドの廃棄物ゼロレストラン「NOLLA」
食品ロスはもちろん、店舗で使用する紙なども捨てずにゴミゼロで運営するレストランが、フィンランド・ヘルシンキにある。2019年7月に移転オープンしたNOLLAだ。
提供されるのは地元の季節の有機食材を使った創作料理。フィンランドのルーツや伝統を感じられる料理は、見た目も非常に美しい。レストラン内にはクラフトビールの醸造所があり、自家製のクラフトビールや有機ワインも人気だ。
店内にはゴミ箱がなく、魚の骨や野菜の皮などの食べられない部分はコンポスターで堆肥化され、農家に返される。NOLLAがすごいのは、このコンポスターの中身を分析して、さらなる廃棄物削減に役立てていること。コンポスターに食材を捨てる前に、すべてのアイテムの重量を量り、廃棄物管理ソフトウェアを使用して「何が、なぜ、誰によって捨てられたか」をデータ化し、注意深く分析しているのだ。ゴミゼロを達成しながらも、より貪欲に改善する姿勢には脱帽する。
食材を保管する際、調理する際にもゴミとなるプラスチック包装、粘着フィルム、真空バッグ、ホイルは一切使っていない。スタッフが身に付けるエプロンやナプキンも再利用ができるもの、ギフトカードさえもケシの実が入った堆肥化可能な紙を利用し、それを埋めるための土を顧客に配るという徹底ぶり。
NOLLAは、レストラン業界をより持続可能なものにしたいというシェフの願望から生まれた。「持続可能なレストラン運営とは、残り物から調理することでも、品質が低下することでもない。私たちは創造的で魅力的な料理が持続可能性と密接に関係していることを示したい」このメッセージからは、彼らの強い意思が感じられる。
3Dプリントでゴミゼロへ。イタリアの「Wires Glasses」
イタリア出身のモデル兼、環境活動家のリリー・コールがクリエイティブ・ディレクターを務め注目されているのが、ゴミゼロをコンセプトにするアイウェアブランド「Wires Glasses」。
メガネ業界では、主な原材料としてプラスチックが使用されており、持続可能性が低い。さらに、一般的なメガネの製造方法だと材料の65〜70%が破棄される。同ブランドはこの事実に着目し、持続可能なメガネの製造方法を独自で開発した。
リム(レンズを固定する枠)は粉末状の材料を使って3Dプリントで生成、残った粉末は新たな製品の製作時に再利用されるのでゴミを出さない。フレームにはリサイクル可能なステンレススチールのワイヤーを、ヒンジ(メガネを折りたたむための部品)には、特許取得済の目に見えないオリジナル部品を採用。そのため、1本のワイヤーのように見えるが折りたたむことができる。製品はすべてユニセックスデザインで、価格は150ポンド(約20,770円〜)から。
メガネのワイヤーにぶら下げて使うタイプのオリジナルマスク(20ポンド・約2,770円〜)も人気を集める。同ブランドのメガネ以外に、フレームの幅が1.5cm以下の他ブランドのメガネでも使用可。エシカルな素材を用いてイギリスでハンドメイドされており、売上の一部はチャリティ団体に寄付される。
国内で注目!ゴミゼロ達成率80%の徳島県上勝町
国内のゴミゼロ事例といえば、2003年に日本初のゴミゼロ宣言をした徳島県上勝町は外せない。大部分が標高700m 以上の山で覆われた人口約1,500人の上勝町は、今ではリサイクル率が80%を越えるまでに。現地で行われている施策のうち、代表的なものを紹介する。
●ゴミは「ごみステーション」でリサイクル
小型焼却炉を閉鎖して、代わりにゴミの分別を行うための「ごみステーション」を建設。住人は家庭で出たゴミをそこに持ち込み、13種類45分別の指示に従い、ゴミを振り分ける。そのため上勝町にはゴミ収集車がない。
●生ゴミは家庭で堆肥化
住民は家庭で出た生ゴミをコンポストや電動生ごみ処理機を用いて堆肥化。処理機を購入する際は、町からの補助が出る。
●ポイントキャンペーンを導入
分別へのモチベーション向上を図る目的で、「ちりつもポイントキャンペーン」を実施。特に分別してほしい雑紙等の分別に協力した住民にポイントを付与、貯めたポイントは日用品と交換でき、月に一度抽選で1,000円の商品券が10人に当たるなど、目に見えるお返しを取り入れている。
町を美しく保つ環境保護目的とはいえ、大胆な政策を実行するには相応の苦労があったのでは。同町に尋ねると、集落ごとに説明会を開き住民の理解を得る、広報誌にゴミに関する情報を毎月掲載する、ごみステーションに管理員が常駐し分別に迷う住民をサポートするなど、細々とした活動を続けているとのこと。
上勝町ではゼロ・ウェイストを目指しているが、複数の素材が使われ分離できないものや衛生面から焼却せざるを得ないものもあり、100%のリサイクルは難しい現状がある。それでもゴミゼロを達成するには、「ゴミをどう処理するか」よりも「そもそもゴミを生み出さない」ための取り組みが求められる。
今後の方針として、生産者との連携により製造段階からゴミになりにくいモノづくりにトライすると同時に、住民に向けて「捨てるとき」でなく「買うとき」にフォーカスするリデュースの取り組みを進めていくようだ。
文:小林香織
編集:岡徳之(Livit)