友人と気軽にハングアウトできるソーシャルアプリ「Discord」
ソーシャルディスタンスやロックダウンによってコミュニケーションの形は大きく変化している。
Z世代やミレニアル世代のコミュニケーションといえば、ツイッターやインスタグラムなどのソーシャルメディアを思い浮かべるかもしれない。しかしコミュニケーションの変化は、それら以外のプラットフォームで顕著にあらわれ始めている。
どういうことか。若い世代において、ツイッターやインスタグラムは、インフルエンサーをフォローするものであり、同世代の友人と「hang out(気軽に会話するなどの意味)」するツールとしては捉えられていない。「いいね」や「フォロー」のボタンがデフォルトでついてくるツイッターやインスタグラムでは、気軽にチャットを楽しめないと考える若い世代が多い。
パンデミック前は、実際に友達に会い会話したり遊んだりできたが、ソーシャルディスタンス/ロックダウンによって気軽に友達に会えなくなった今、バーチャルでハングアウトできる空間への需要が急速に高まっている。以前紹介した欧州発の新興ソーシャルメディア「Yubo」は、こうしたZ世代の需要を取り込み急速に拡大している。
この文脈で外せないのが米国発のチャットサービス「Discord」だ。
日本ではあまり知られていないプラットフォームだが、英語圏のZ世代/ミレニアル世代の間では、標準と言っても過言ではないほど広く利用されるサービスとなっている。
英語圏のZ世代/ミレニアル世代のコミュニケーションのあり方を知る上で欠かせないDiscord。どのようなプラットフォームなのか、ロックダウン中の変化にも触れつつ、その実態に迫ってみたい。
ゲーマーがゲーマー向けに開発したチャットツール
「Discord」を一言でいうと、音声チャットやテキストでコミュニケーションができるプラットフォーム。
もともとeスポーツの発展とともに拡大してきた経緯があり、ゲーマー向けのチャットサービスというイメージを持つ人も少なくない。
ゲーム分野での利用が盛んだったのは、Discordが開発された理由とも深く関係している。Discordの共同創業者でCEOのジェイソン・シトロン氏は、Discordのコンセプトを考案した人物。このシトロン氏、もともとはゲーム開発者であり、Discordの創業前には、Hammer&Chiselというゲーム開発スタジオを運営、「Fates Forever」というゲームをローンチしている。
この時期、シトロン氏らは研究開発のために「ファイナル・ファンタジー14」や「リーグ・オブ・レジェンド」などのマルチプレイヤー・オンラインゲームをプレイしていた。こうしたマルチプレイヤー・オンラインゲームでは、音声チャットで同じチームのプレイヤーとコミュニケーションを取りゲームを進めるが、当時の既存VoIPサービスは使いづらいものばかりで、それを補うために自社でゲームへの影響を最小に抑える音声チャットを開発。これが、Discordの前身となった。
2015年にDiscordとしてローンチされ、eスポーツ人気とともにユーザーを拡大していくことになる。登録ユーザー数は、2016年に2,500万人、2017年4,500万人、2018年1億3,000万人、2019年に2億5,000万人と推移してきた。
2020年11月末TechCrunchは情報筋の話として、Discordが新規に資金調達を実施し、評価額が70億ドル(約7,328億円)に達したと伝えている。6月末頃の報道では、Discordが1億ドルを調達し、評価額を35億ドルに拡大したといわれていた。最新の資金調達で、評価額は2倍拡大した格好だ。
コミュニティ醸成でも必須になった「Discord」
Discordの特徴の1つは、基本的には「サーバー」内で音声チャットやテキストのやり取りが起こるクローズドのコミュニティであるということ。ゲームや音楽、Memeなどテーマごとにサーバーがあり、興味関心ごとに集まったユーザーが集う空間となっている。
当初は利用者のほとんどがゲーマーだったが、YouTubeやインスタグラムのインフルエンサーらの利用も増加し、その様相は大きく変わってきている。
YouTubeやインスタグラムでもコメント欄があり、コミュニティ醸成の場として使えそうなイメージだが、実際はメッセージの検索ができなかったり、管理が難しかったりと、課題は多い。こうした理由から、Discordがコミュニティ醸成の場として利用されているのだ。英語圏のYouTubeインフルエンサーの動画の説明欄でDiscordサーバーへのリンクが貼られているのをよく見るのは、このためだ。
クローズドな空間であり、同じ興味関心を持つユーザーが集うDiscordは、友達どうしでハングアウトする場としても活用されている。
米メディアThe Atlanticの記事(2019年3月12日)では、Discordに関する若い世代の興味深い意見が紹介されている。
YouTuberのカールソン・キング氏は「Discordは、友人とハングアウトできる唯一の場所」で、Discordが登場するまでコミュニティとしっかりコミュニケーションできるプラットフォームは皆無だったと述べている。
ツイッターは公開状態で乱雑、コミュニティ外のコメントでスレッドはとぎれがちになる。一方、インスタグラムのDMは管理が難しく、検索ができない、YouTubeのコメント欄は整理されておらず、荒らし/煽りコメントが多いなどの課題がある。さらに、Redditはtoxic(有害)であり、ハングアウトする場所ではないと評価されている。
ソーシャルディスタンス/ロックダウン中のDiscord
ソーシャルディスタンス/ロックダウンによって、思うように友人に会うことができなくなった今、バーチャルにハングアウトできる空間に対する需要が高まっており、Discordの利用者も増加していることが想定される。
実際TechCrunchによると、Discordの月間アクティブユーザ数は2020年中に、2倍近く増加し、1億2,000万人に拡大。人気ゲームAmong US効果もあり、1日のダウンロード数が80万回を記録した日もあるという。
またモバイルデータ分析のAppAnnieの2020年第3四半期の分析によると、Z世代のモバイル利用の傾向として、他の世代に比べ非ゲームアプリの利用時間は10%長く、非ゲームアプリの1つとしてDiscordの利用が増えていることが判明。フランスでは、Z世代が利用するコミュニケーションアプリのトップにDiscordがランクインした。
Z世代を中心に若い世代のハングアウト空間として拡大するDiscord。他の世代にとっても、Withコロナ時代のコミュニケーションの標準になっていくのかもしれない。
文:細谷元(Livit)