「スーパーの鶏肉がアマゾンの森林破壊につながる」英紙衝撃報道、一層大きくなるアグリテックへの期待

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英紙の衝撃報道「スーパーの鶏肉が森林破壊につながっている」

英ガーディアン紙が2020年11月25日に公開した鶏肉消費に関わる衝撃的な報道が英国を中心に波紋を広げている。

昨年、ブラジル・アマゾンの熱帯雨林の森林火災問題がソーシャルメディアなどで広く話題となった。覚えている人も多いはずだ。ガーディアン紙が報じたところでは、このアマゾンの森林破壊と英国のスーパーやファストフード店で提供されている鶏肉が強く関連しているというのだ。

どういうことか。

英国のスーパーやファストフードで提供されている鶏肉は、その飼育過程で餌として大豆が与えられている。この大豆の生産地がアマゾンであり、生産拡大のために、森林が焼き払われ、これまでに少なくとも800平方キロメートルに及ぶ森林が消失したという。東京23区(627平方キロ)よりも広い面積だ。

アマゾンの森林破壊(2019年3月)

英国の著名テレビプレゼンターのクリス・パッカム氏は、この報道に触れ、消費者は自分が食べる食品に関してもっと情報を得るべきだと指摘。また、スーパーで購入するものが自然破壊につながっているという事実に目を向ける必要があると語った。

一般消費者の間で環境意識が高まっている中、自然破壊につながる食品を避ける動きが出るのは想像に難くない。ガーディアンの記事もフェイスブックなどで広く拡散されており、消費者のプラスチック利用に対する意識を変えた「アッテンボローエフェクト」と同様のムーブメントにつながる可能性もある。

細胞ベースの人工肉、世界初シンガポールで販売承認

ガーディアン紙の報道で衝撃を受けた消費者は少なくないはず。その衝撃報道の1週間後、またも鶏肉に関する衝撃報道が発表され、消費者を驚かせた。しかし、ポジティブな意味でだ。

その報道とは、シンガポールで世界で始めて「細胞ベースの人工鶏肉」の販売が許可されたというもの。上記ガーディアンのアマゾン森林破壊記事のフェイスブック・シェア数が8,000回だったのに対し、人工鶏肉記事のシェア数は1万3,000回に達した。既存の鶏肉消費が森林破壊につながるという事実を知り、今後の鶏肉消費をどうすべきか悩んでいたところに、ソリューションが飛び込んできた格好だ。

この細胞ベースの人工鶏肉、巷で話題のプラントベースの人工肉とは異なるもの。プラントベースの人工肉とは、植物性たんぱく質などから生成された肉のような食感の物質。一方で、細胞ベースの人工肉とは、鶏の細胞から食肉部分だけを生成したもの。つまり、食感は鶏肉と全く同じの人工肉だ。一方で、鶏の飼育などが必要なく、大豆利用による森林破壊を心配せずに食すことができる。

この人工鶏肉を製造しているのは米国拠点の企業Eat Just。細胞ベースの人工肉を製造している企業は、Eat Justのほかにも多数存在しており、シンガポールでの販売許可を皮切りに、世界各地で増えてくることが見込まれる。

食と自然を考えるアグリテックへの期待、欧州では域内最大規模のベンチャーファンドが登場

この細胞ベースの人工肉など食に関わるテクノロジーは「アグリテック」と呼ばれ、クリーンテックと並び起業家や投資家の関心が急速に高まっている分野だ。土壌汚染や森林破壊など農業による環境インパクトが広く取り沙汰される昨今、一般消費者の関心も高まっており、アグリテックは一気に広がる可能性を秘めている。

このほど欧州では、域内最大規模のアグリテックファンドが創設されたところ。この動きをきっかけに有望なアグリテック・スタートアップへの資金供給体制が整備されていくことが見込まれる。

欧州最大規模といわれるアグリテックファンドを創設したのは、欧州ベンチャーキャピタルAstanor Ventures。スポティファイにベンチャー投資したことで知られる投資会社だ。このほど創設したのがアグリテックに特化した「Global Impact Fund」。ファンド規模は3億2,500万ドル(約338億円)、チームは投資パートナー/アドバイザーのほか農業専門家、微生物学者、シェフなど28人で構成されている。

投資対象は、主に欧州と北米のA〜Cラウンド段階のスタートアップ。分野は農業、食、海洋テック、健康、自然で、最終的に25〜30社に投資する計画だ。

すでに、植物工場スタートアップのInfarmや昆虫食企業Ynsectなどに資金を投じている。

Infarmは植物工場スタートアップの中でも特に注目される存在。2020年9月にはシリーズCで1億7,000万ドル(約177億円)を調達。これまでの累計調達額は3億ドル(約312億円)に達した。

この1年で、オランダのAlbert Heijn、英国のMarks & Spencerなど世界各地の大手スーパーと提携し、その躍進ぶりは様々なメディアで取り上げられている。日本でも紀伊国屋が店舗内での野菜栽培システムを導入したとの報道がなされたが、そのシステムはInfarmのものが使われている。

Astanor Venturesの創業者エリック・アルカンボー氏は、英語メディアSiftedの取材で、アグリテックに特化したファンドを創設した理由について以下のように述べている。農業では生産性を高めるために、農薬や栄養剤が大量に投入され、土壌を汚染している。こうした農業を取り巻く問題に対して、起業家、企業、消費者、投資家の意識は高まっており、アグリテックへの期待が高まっている。環境への良いインパクトとリターンを同時に達成できるファンドは時宜を得たもの。

アルカンボー氏が指摘するように、農業による自然破壊問題は世界各地で起こっている。その規模と深刻さは無視できないもの。冒頭で紹介したアマゾンの森林破壊のほか、メキシコ湾の「dead zone(デッドゾーン)」などが農業汚染事例として有名だ。

デッドゾーンとは、家畜産業で利用される栄養剤や肥料が多量に海に流れ込み、海洋藻類が大量発生した海域。藻類が海中の酸素を奪ってしまうため、この海域では他の海洋生物が住めない状態になっている。米環境保護庁によると、2019年のデッドゾーンの面積は1万8,000平方キロ。国土約4万1,000平方キロのオランダやスイスの3分の1以上の規模となる。

ガーディアン紙のアマゾン森林破壊報道など、普段の消費が自然にどのような影響を与えているのかという情報は今後さらに公開されていくことになるだろう。そうなれば普段の食を見直す消費者も増え、アグリテックに対する関心も高まるはず。

MarketsAndMarketsによると、2020年のアグリテックテック市場規模は138億ドル(約1兆4,370億円)、今後年率10%近くの伸びとなり、2025年には220億ドル(約2兆2,900億円)と2倍近く拡大する見込み。アグリテック・スタートアップの躍進に期待したい。

文:細谷元(Livit

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