世界で約13兆円規模とも言われる、フードやおもちゃ、ドッグスクール、医療といったペットケア市場。

なかでも、テクノロジーを活用したペットケア製品やサービス、いわゆる「ペットテック」では、ペットのお世話や健康管理のスマート化が急速に進んでおり、注目の分野となっている。

さらに今年は、オンラインラーニングや遠隔診療といった、パンデミックで人間の生活に急速に広がったテクノロジーが、ペットケア業界にも浸透しているようだ。

様々なものがオンライン化する「withコロナ」の時代に起こるペットケアのバーチャルシフト、革新的なペットテックが変える私たち人間とペットの生活についてお伝えする。

日本でも次々と新サービスが登場する「ペットテック」

ペットケア市場は日本でも右肩上がりであり、その規模は2023年度までに50億円を超えると予想されている。

ペットテックのスタートアップシーンでも、「シロップ」が2億円を調達し、Web診断に基づいたカスタムペットフードサービスやペット系Webメディアを運営するなどして注目を集めている。

ペットグッズも進化している。泌尿器疾患の多い猫の健康管理ができるスマートトイレ「トレッタ」や、迷子時の探索や健康管理ができるスマート首輪といったウェアラブルデバイスなど、テクノロジーを駆使した商品が次々と生まれている。

近年、ペットのお世話はどんどんスマート化し、ペットたちはこれまで以上に健康に長生きするようになっているのだ。 

スマート猫トイレ「toletta(トレッタ)」(tolettaより)

ペットテックが挑む社会課題「ペットの殺処分」

しかし、ペットケア関連企業が取り組むのは「お世話」と「健康管理」だけではない。ペットを愛する起業家たちが挑む社会課題の一つが「ペットの殺処分」問題だ。

前述の「シロップ」は、保護犬・猫マッチングサービス「OMUSUBI」を運営するほか、売り上げの一部を保護団体に寄付し、この問題にアプローチしている。

ペットテックはさらに、捨てられるペットの数の削減そのものにも寄与できる可能性を秘めている。

ペットのしつけは殺処分問題と深く関係している(PIXABAYより)

ペットが捨てられる背景には、利益のみを追求する繁殖業者や販売店といった構造的な問題、飼い主のモラルなど様々な理由があるが、無視できないのが「しつけ」問題だ。

一目惚れして迎え入れたペットが、噛む、吠える、トイレを覚えないといった問題行動を起こし、対応に困った飼い主が保健所に持ち込むといった事例は後をたたない。

もちろん、手に負えないから処分しようという姿勢そのものが非難されるべきなのは間違いないが、もっと「しつけ」の専門家へのアクセスが簡単であれば、飼い主が問題行動を我慢するのではない形で、ペットも飼い主も共に幸せに暮らすことができるだろう。

サブスク型オンラインドッグスクール「OneMindDogs」

「しつけ」の専門家といえばペットスクールだが、これまでの既存のスクールは料金や通学にかかる時間などハードルが高かった。そこで注目されているのが、自宅からレッスンを受講できるオンラインスクール。特に今年のパンデミック禍では、ドッグスクールへの物理的な通学が困難となったことで利用者が急増している。

サブスク型オンラインドッグスクール「OneMindDogs」(OneMindDogsより)

日本でも、スカイプなどを活用してトレーナーに個別相談できるサービスが提供されるようになっているが、欧州では、フィンランド発「OneMind Dogs」が提供するサブスクリプションタイプの総合的な犬のオンライントレーニングスクールが注目を集めている。2013年にサービスを開始した同社だが、すぐに北米にも進出をし、2025年までにユーザー100万人獲得を目標に成長を続けている。

現在提供されているのは、子犬のしつけ教室と成犬用競技トレーニングの2種類。子犬のしつけ教室は月額2,000円程度と格安で、1日10分からと取り組みやすい。月額料金には、100以上の動画レッスンへのアクセスと飼い主への段階的な指導方法の説明、しつけの進捗管理、トレーナーへのオンライン相談が含まれている。

留守番中に取り組めるオンラインドッグトレーニング「Go Dogo」

「OneMind Dogs」は、飼い主と犬が一緒にトレーニングに取り組むものだが、一方で、デンマーク発の「Go Dogo」は、自宅で留守番をする犬が単独で利用することを想定した、ユニークなバーチャルトレーニングシステムだ。

お留守番をする犬に向けたバーチャルトレーニング(Go DOGOより)

元デンマーク工科大学学科長Hanne Jarmer氏が2015年に、学内のコンピュータ科学者と機械工学の専門家の助けを借りて開発を開始した。

機械学習を活用したトレーニングプログラムは、スクリーンと自動おやつディスペンサーを使い、飼い主の留守中に実施可能。飼い主はアプリを使ってアクセスし、トレーニングの設定や進捗のモニタリングを遠隔操作する。

トレーニングの目的は、なにかを覚えさせることより、留守番時の犬の不安やストレスを軽減することにある。犬のメンタルヘルスを改善することで、攻撃性など問題行動の軽減を図ることも期待されているようだ。

現在は製品テスト段階まで進んでおり、2021年の春にデンマーク、その後、ドイツとイギリスでの販売を予定している。

このようなバーチャルトレーニングは、人間や他の犬との物理的な関わりを完全に代替するものではもちろんないが、多くの飼い主が悩むペットのしつけ問題に、新しい可能性を示してくれるのではないだろうか。

バーチャルシフトが加速するペットケア業界、グローバル展開も

今年は獣医への相談もバーチャルシフトが加速した年となった。日本でも国内初のオンライン獣医相談・診療システム「みるペット」が東京を中心にサービスを開始。

欧州では、ドイツ・デュッセルドルフを拠点とし、Whatsappを使用したオンライン相談を提供する「Dr SAM」のようなオンライン獣医相談会員サービスの会員数が急増。同社は来年にも英国など欧州各国への進出を計画しているという。

オンライン獣医サービスも急成長(Dr SAMより)

徐々にグローバル企業も現れ始めたペットテック市場。今後さらに画期的なサービスや製品が生まれ、多くのペットを幸せにしてくれることを期待したい。

文:大津陽子
企画・編集:岡徳之(Livit