メルカリの研究開発組織である「mercari R4D(アールフォーディー)」(以下、R4D)とアカデミア発技術による社会課題解決に取り組むピクシーダストテクノロジーズ(以下、PXDT)は、異なるレベルの障がいを持つ人を含めて誰もが利用できる、Eコマースプロダクトのインクルーシブデザインの研究開発に取り組んでいる。

今回、R4DとPXDTは、共同研究の一つとして、視覚障がいを持つユーザーの課題特定を行うため、国内の視覚障がい者およびそのサポーターを対象に、オンラインショッピングの利用に関するWeb形式のアンケート調査を実施したと発表した。

常に変化し続けるデジタル環境が、人種、民族、性別、社会経済的地位など、多くの情報格差に影響を及ぼしている。

デジタルコンシューマ製品向けのアクセシビリティへの取り組みの多くは、商業的に実用的な年齢層、および障がいを持たないユーザー向けに設計された、アプリケーションの事後的な適応と考えられているという。

メルカリはCtoCマーケットプレイスという独自の事業を展開。創業以来、様々なユーザーが利用している。近年「メルカリ」において60代以上の利用者が増加しているという背景もあるとのことだ。

また現在、メルカリでは、CtoCマーケットプレイスのインタラクション(ユーザとシステムの相互作用)における、高齢者や視覚障がいを持つユーザーの課題特定および検証を行っている。

Eコマースのアクセシビリティのガイドラインを提案することや、アクセシブルなEコマース製品の設計および開発を目指しているという。

PXDTは、身体的・能力的困難の超克とそれらに伴う社会課題の解決に向けて取り組む xDiversityプロジェクトに参画。

これまでに、聴覚に障がいがある人も音楽を楽しめる視触覚デバイスや車いすを使う人が好きなときに好きな場所へ行ける自動運転車いすなどを開発し、テクノロジーの活用による持続可能なダイバーシティ社会の実現に向けて取り組んできたという。

こうした背景から、R4DとPXDTは共同研究を開始したとのことだ。

調査結果は以下となる。

1.オンラインショッピングの利用頻度について

今回の調査対象では、全盲者、弱視者ともに90%近くが「たまに」「よく」「常に」オンラインショッピングを利用しており、利用の頻度が高いことがわかったという。

全く利用していない比率は、全盲者群で7%、弱視群で4%と非常に少数となっており、同項目に示しているのは「売る」立場は含まず「買う」立場としてのみのデータとなっている。

2.オンラインショッピングで購入する物品について

全盲者群、弱視者群いずれも、オンラインショッピングにて食品・飲料(全盲者77%、弱視者70%)が最もよく購入されていることがわかった。

次に多かったのは、電子デバイス(63%、50%)・家電製品(66%、52%)。一方、衣類(30%、41%)やインテリア(24%、37%)、アクセサリー(10%、13%)などの購入比率は低いようである。

3.オンラインショッピング利用時に用いているデバイスと遭遇している困難について

オンラインショッピング利用時に用いるデバイスについては、全盲者・弱視者のいずれも「オンライン通販でのPC利用」(全盲者「常に使う」29%、「よく使う」32%、弱視者「常に使う」24%、「よく使う」22%)が高い結果に。

また、タブレットの利用に関しては、全盲者において「タブレットブラウザ」(「常に使う」7%、「よく使う」6%)、「タブレットアプリ」(同6%、6%)、弱視者において、「タブレットブラウザ」(同15%、11%)「タブレットアプリ」(同9%、14%)となり、全盲者のタブレット利用が弱視者よりも少ない結果になった。

加えてスマホの利用に関して、全盲者において「スマホブラウザ」(「常に使う」14%、「よく使う」16%)、「スマホアプリ」(同20%、25%)、弱視者において「スマホブラウザ」(同9%、22%)、「スマホアプリ」(同9%、18%)。

スマートスピーカーの利用者は、一定数いるものの普及はしておらず、全盲者(「全くない」78%)、弱視者(「全くない」83%)ともに全く使っていないという回答が多い結果になったとしている。

次に、遭遇している困難について、全盲者、弱視者ともに、「個別の画像説明」(「常にある」、「よくある」の合計:全盲者77%、弱視者65%)、「商品の質感」(同76%、76%)、「洋服のサイズや形状」(同83%、72%)、「デザイン、柄」(同60%、70%)などの把握についての困難が大きいことがあらためて浮き彫りとなったとのことだ。

これに対して、「購入方法」(同20%、24%)などについての困難は比較的少なく、デバイス操作ではなく、販売サイトで提供されている商品情報の取得に関する困難の存在が伺えるとしている。

4.物品の販売について

同アンケートでは、フリマやオークションなども含めた「売る側」としての調査も実施。物品を販売している割合は、全盲者が25%、弱視者が42%となったとのことだ。

物品を販売している群において、物品を販売する際の手段についても調査。

物品を販売している全盲者群において、最も多かったのが「リサイクルショップ等の実店舗」(48%、全回答者のうちの12%)、次にスマートフォン(同38%、9%)、「PC」(同33%、8%)と続く。

物品を販売している弱視者群においては、「スマートフォン」(50%、全回答者のうちの21%)が最も多く、次に「PC」(同40%、17%)、「タブレット」(同30%、13%)と続き、その次に「リサイクルショップ等の実店舗」(同25%、10%)という結果になったとのことだ。

全盲者群が物品の販売・出品を行っている比率は弱視者群よりも低いが、実店舗のみを比べると、販売を行っていない回答者も含めた全体に対する利用比率は、全盲者・弱視者群ともに10%程度と同等。

これらのデータは、対面で販売できる実店舗ならば全盲者にも利用が可能であるものの、IT機器を利用しての販売・出品には困難が伴うあるいは不安があるため利用に慎重になっているという可能性を示していると推測。

次に物品を販売していない群において、全盲者、弱視者ともに「手続きや操作が難しい、もしくは面倒だ」と回答した比率が8割程度と突出して高い結果に。

これに対して、「特に売る物がない」(34%、39%)あるいは「あえて収入を得たいとは思わない」(17%、7%)と回答した比率は非常に低く、全盲者、弱視者ともに、もし手続きや操作が簡単に行えるのであれば物品の販売や出品を行いたいと考えていることが明確になったとのことだ。

メルカリおよびPXDTは、さまざまな世代・文化・身体的な違いも含めて、「誰もがテクノロジーやサービスを使い、楽しむことができる世界」を実現したいと考えているという。

今後も、デジタルプロダクトの価値を向上・刺激・創造するために、アクセシビリティ、ユニバーサルデザイン等の課題に焦点を当て、あらゆる能力のユーザーが使用できる、意味のある刺激的なシステムの研究に取り組んでいくとしている。

また、今回明らかになった調査結果をもとに、引き続き調査・研究開発を続け、Eコマースのアクセシビリティのガイドラインを提案することや、よりアクセシブルなEコマース製品の設計および開発に貢献していくとのことだ。

なお、同調査の詳細に関しては、情報処理学会アクセシビリティ研究会の第14回研究会において、「視覚障害者のEコマースサービス利用時のアクセシビリティの実態と動向」という表題にて発表している。

調査概要
調査時期:2020年7月20日〜9月22日
調査方法:Webアンケート調査(音声読み上げ対応)
調査対象:全国、15~76歳、男女133人