「オウンドメディア運営」や「ポッドキャスト運営」など、企業におけるメディア運営の形は時代とともに変化している。
このメディア運営で今起こりつつある変化、それがAI(人工知能)やVR・AR活用の普及だ。
欧州ではAIによるメディア分析・予測・最適化プラットフォーム、またVR・ARを活用したプロモーション関連のスタートアップが増えており、企業におけるメディア運営の形を大きく変えようとしている。
パンデミックをきっかけに消費者のデジタル化が一層進んでおり、特にリテールなど消費者と直接関わる企業のメディア運営には「デジタル化+α」が求められる状況。AIやVR・ARがどのように企業のメディア運営を変えようとしているのか、欧州のスタートアップ動向から未来を予測してみたい。
機械学習でデータを言語化、記事の自動作成を可能にするスペイン発のNarrativa
2020年9月8日英ガーディアン紙で、AIが執筆した記事が公開され、国内外で話題を呼んだ。これは米非営利AI研究組織OpenAIが開発した言語AI「GPT-3」が「人間はAIを恐れるべきではない理由」をテーマとして執筆したもの。ガーディアン紙編集部が少し編集したとのことだが、記事として読める水準であり、多くの人を驚かせた。
上記ガーディアン記事は「人間はAIを恐れるべきではない理由」という非定型的なテーマがトピックだった。一方、企業の四半期ニュースなど定型的な記事に関しては、すでにいくつかの企業で自動執筆AIが導入されている。
その自動執筆AIを開発するスタートアップの1つがスペイン・マドリード発のNarrativaだ。
数字データを文章に変換する自然言語処理テクノロジーに強みを持つ同社、2015年に設立された若い企業だが、その自動文章化ソリューションはすでに複数のグローバル企業で導入されている。
同社ウェブサイトの顧客企業セクションには、ダウ・ジョーンズ、タタ・コンサルタンシー・サービシズ、ウォールストリート・ジャーナルなど、大手企業・大手メディアの名が挙がっている。
企業の収支関連ニュースだけでなく、スポーツの試合速報も同社が強みを持つ分野。また、製品の仕様データからその製品に関する文章を作成できることから、Eコマース分野でも活用されているという。
ニュース版スポティファイに世界動向モニタリングのAIスタートアップ
欧州のメディア関連AIスタートアップとしては「ニュース版スポティファイ」と称されるオーストリア・リンツ発のNewsadooも注目される1社。
2017年創設の同社が開発するのは、機械学習でメディアコンテンツと読者行動を分析し、クロスデバイスでのニュースフィード最適化を行うプラットフォームだ。消費者向けのサービスだが、消費者のメディア消費を変える可能性を持っており、メディアコンテンツを発信する企業にとっては無視できない存在だ。
ニュースメディアの動向や競合他社の動向を世界規模でモニタリングし、自社のメディア戦略を最適化するAIソリューションもある。
英国発のスタートアップSignalは、世界中のオンラインメディア、出版物、テレビ、ラジオなどをモニタリングし、リアルタイムのカスタマーマネジメントやレピュテーションマネジメントを可能にするAIプラットフォームを開発。すでにブリティッシュ・エアウェイズなどの大手企業が導入しているという。
メディアアセットとして標準となるVRコンテンツ
「オキュラス・クエスト2」の登場でより身近になったVR。画質の向上・コンテンツの拡充・低価格化と普及するための素地は整いつつあるような印象だ。
そのような背景を加味すると、消費者とのコミュニケーションでVRを活用したいと考える企業が増えてきても不思議ではないだろう。
オーストリア・ウィーン発Stereosenseは、企業がVRをメディアアセットの1つとして配信・管理できるプラットフォームを開発するスタートアップ。オキュラスだけでなく、VIVEやグーグルDaydreamなどを含めたクロスデバイスのVRアプリを開発・配信できる。
世界で最も古い新聞社の1つであり、欧州の有力紙と呼ばれるWiener Zeitung社やオーストリア観光局などがStereosenseのプラットフォームで、VRアプリを制作し配信している。
デジタル領域を専門とする調査会社IDCの分析レポート(2020年9月29日)によると、現在VRは消費者だけでなく企業における関心が非常に高くなっており、VRヘッドセット売上高は2021年に前年比で46%拡大する見込みという。
法人においては、デザイン、コラボレーション、トレーニング分野でVR活用が増える見込みで、法人分野のVR市場の成長率は、2020年に38%、2024年までには53%に達する可能性があるとのこと。
企業のメディア運営におけるAIやVR・AR活用が増えることで、メディアコンテンツがどのように変わっていくのか、非常に気になるところだ。
文:細谷元(Livit)