交通、インフラ、行政、商業などあらゆる都市機能をDX化し、今までにないスマートシティのような新しい街づくりが世界各国で進み、日本でもその動きがでてきた。

例えば、静岡県裾野市の「トヨタ ウーブン・シティ」や、北海道札幌市「DATA-SMART CITY SAPPORO」など、自治体と企業が結びついて、新しい都市が生まれようとしている。

一方で、コロナ禍において、あらゆる分野でのDX化が急務とされているが、都市全体でのDX化には時間を要するなど、さまざまな課題も抱えている。

街に住む人、訪れる人のためのDX

例えば、東京・渋谷区の場合ではどうだろうか。渋谷のDX化で考えていくべきなのは、デジタルテクノロジーや街にあるデータを使い、そこからどうやって新しいサービスだったり、住民にとっても今後長期的に住めるような形にしていくかということだ。もうひとつは渋谷という街がどうやって訪れる人たちにとっても良い文化を作っていくかという2つの視点が必要になってくる。

渋谷スクランブル交差点

しかし、現状、テクノロジーやデータを活用しての街づくりは渋谷区だけでは難しい。それを実現するためには東京都や国、企業などとも連携しながら、都市や街自体のDX化を進める必要がある。だが、それも実際にはそこに住んでいる人や集まる人に自然な形で新たな体験価値として浸透していくことが本来のDXの姿だ。

DXで起きる“変化”を身近なものに

また、それは2019年秋から始動した「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」にも同じことが言える。5Gによって単に通信速度や容量が上がるということではなく、DX化していくことでそこに暮らす人の体験価値、あるいはその体験価値から次にどんな行動を起こしたいと思えるが重要になってくると考えている。都市のDX化によってインフラを整えるということは、それを使うことで生活がより便利で豊かになるという体験だ。

しかし、現時点ではほとんどの街の住民がまだそのことを理解しているとは言えず、そういった分断によって、”DX化”という言葉だけが先走っていることが、いまの都市のDX化においては1番の課題になっているのではないか。実際、自分もこの活動をするまでは同じ立場だったかもしれない。ただ、その理解が深まることで、そういった動きを一緒にサポートしたい、進めていきたいと考える人々、団体そして企業が増えていくはずだ。

 いま、渋谷区ではLINEを使ってさまざまなサービスが提供されている。

例えば住民は予防接種や区が行うイベント案内をLINEで受け取ったり、住民票の発行や保育の相談などの行政手続きが可能になるなど、渋谷区は独自に企業と連携しながら先駆的なやり方を進めているが、そういった動きも都市のDX化を進める上では他の自治体にも影響を与えている。

一般的なサービスがDX化されることで実際に役所にいく手間が省け、それによって住民も自分が使える時間についての認識が変わってくるだろう。そのような身近なことが変わっていくことを体感できることがDX化においては重要になってくる。

体感できる「都市DX化」の兆し

渋谷区のDX化においてわかりすい事例として挙げられる「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」。渋谷の街自体はコロナ禍によって大きな打撃を受けることになってしまったが、コロナ禍以前は一極集中型になっており、ある場所には人がやってくるが、街全体を回遊して楽しむ人はまだまだ少なく、街自体の滞在時間は非常に短いという問題を抱えていた。

その問題解決のために考えられていたのが「テクノロジーを活用することで街全体を楽しんでもらえるか」ということだ。ARやVRのような新しいテクノロジーを使いながらも街を回遊させるというように楽しみながらDX化を体験することが考えられており、現在はその体感できるDX化の兆しが見えてきている。

5G、参画企業のリソースやスタートアップ企業が持つ新しいテクノロジーや表現方法は、リアルな街にインストールできる。それを渋谷の街に来た人が実感し、さらなる楽しみ方を見つけたり、滞在時間を伸ばすことができれば、観光につながっていくはずで、渋谷区としても自分たちとしても取り組むべき都市のDX化のひとつとして捉えている。

40万人が訪れた渋谷ハロウィーンフェス

DX化によって一極集中型を変えていくという点では、コロナ禍においてはバーチャル渋谷内での「ハロウィーンフェス」もそれにあたる。実際に渋谷に来なくてもバーチャルの世界で渋谷らしいハロウィーンを楽しむことができるということで、40万人以上が訪れた。リアルな街とバーチャルな街を作ることで、どういうふうにリアルとバーチャルを連鎖反応させるかもまた都市のDX化のひとつだと捉えている。

バーチャル渋谷内での「ハロウィーンフェス」

また、渋谷の街にとって「ハロウィーン」は、近年大きな問題になっており、騒音やゴミ問題、商店の営業妨害、警備のための税金投入といった課題を抱えている。今年はそれと相まって人が集まることでクラスターが発生する問題も重なったが、バーチャルシティを活用したハロウィーンイベントはその対応策としても注目された。

このイベントには10月26日から10月31日までの6日間にかけて、日本だけなく世界中の人がアクセスし、大人から子供までがコンテンツごとに参加できてコミュニケーションできたことで新しい形での街づくりの一歩になった。

「街が抱える課題とその解決策から次なる可能性をどういうふうにして作っていくのか?」という意味では、「ハロウィーンフェス」はまさしくDX化の姿だったと言える。そして、今は、その次の可能性として、空間上に人が集まるだけでなく、リアルな街と連動させて経済効果を生み出すことを観光だけでなく、今度は住民サービスのようなものに活用していくことを考えている。

教育、福祉でも進む都市のDX

「都市のDX化によってニューノーマル時代における都市の競争力をつける」という意味では、教育と福祉の分野もDX化によって変化が生まれる分野だ。渋谷区では教育ICTのソリューションとして区立小学生と中学生にタブレットPCを配布しているが、コロナ禍においても学生が自宅から授業を受けられる仕組み作りができている。

実際、我々渋谷未来デザインも「渋谷オンラインスタディ 」と称して、渋谷区や企業と連携しながら、100以上の学習動画を企画・監修し高速回転で提供した。コロナを契機に今後、渋谷区としてもICT教育をより推進していく方向にある。一方、福祉の面ではテクノロジーによって、バリアフリー化が進むと考えている。

例えば、マイノリティがある都市で行動したり、生活したりする時に、言語の問題や道順案内などヘルプを求める時にDX化された機能が街にあれば、都市生活の新しい行動様式が生まれるはずだ。

加えて、福祉の面では、テクノロジーを使って増加する高齢者とコミュニケーションをとるためのインフラにしていくことも考えられる。いわゆるデジタルデバイドの解消だ。こういった分野のDX化は、渋谷を含めどの都市でも「みんなを支えあうDX化」として、次にチャレンジできる領域だと言えるだろう。

一緒に街を変えていくパートナーの必要性

最後に都市のDX化においては、DX化する街自体が「リアルな街での実験ができる場」になっていくことが非常に重要だ。街の中には様々な規制があるが、そういったことを一緒に変えていける自治体のトップや、新しいサービスをともに生み出してみたいというパートナーがいることが大切になってくる。もちろん、実験ということを考えるとアジャイルなアプローチや思考も大事である。

その意味では一緒に取り組みたいという人がどれだけ集まるかが今後、都市のDX化を進めていく上での鍵になるだろう。参官学民個人個人で協業し、オープンイノベーションによる社会課題解決と新たな価値創造に取り組むプロジェクトでは、アイデアやテクノロジーを持つパートナーを常に募集している。ぜひ、手を上げてほしい。

文:長田新子