欧米ユニコーン企業リーダーの女性比率は21%。女性の活躍を阻む「ガラスの天井」とその壊し方

TAG:

「ガラスの天井」とは、キャリアにおいて女性やマイノリティの活躍や昇進を阻む、目に見えない障壁を例えて用いられる言葉だ。

アメリカではカマラ・ハリス氏が新副大統領に着任することが報じられ、各国が世界で最も厚い「ガラスの天井」のひとつが破られたことを祝福したのは記憶に新しい。

一方で、世界の女性たちはまだまだこのガラスの天井に阻まれている。Notion Capitalがこのほど発表したレポートによると、アメリカとヨーロッパのB2Bユニコーン企業における女性リーダー比率は21%にとどまることが判明した。

テック企業におけるジェンダーギャップはこれまでも課題視され、取り組みが進められてきたが、改めて課題の深刻さと取り組みの停滞が浮き彫りとなった。

コーポレートの世界で女性を取り巻く「ガラスの天井」の現状と課題、改善のための取り組みをレポートする。

いまだ厚い「ガラスの天井」

女性起業家を取り巻く環境は厳しい。

ヨーロッパとアメリカのB2Bユニコーン企業の女性リーダー(創業者・役員・部門長)比率は21%にとどまり、さらにNordic Startup Fundingが今年発表したレポートによると、北欧5カ国で女性起業家が受け取ることのできた投資金額は全体のうちたったの1%だったことも判明した。

93%は男性起業家の率いるビジネスに、6%は男性・女性ふたり以上の起業家が率いるビジネスに対して投資されていることを考えると、女性起業家は男性起業家に対して圧倒的不利な立場に置かれていると言える。

そもそもビジネスの世界では女性リーダー自体が圧倒的に少ない。国際労働機関(ILO)が2019年に発表したレポートによると、役員に占める女性の割合はG7ではフランスが37%とトップで、平均では約23%と4分の1にも届かず、さらに日本はG7最下位の3.4%となっている。

日本の現状は世界から見ても突出して厳しく、国内いずれかの証券取引所に上場している企業のうち、女性役員はゼロという企業が半数以上を占める。国内ユニコーン企業の女性役員比率も同様で、6.3%と低止まりしていることが日本経済新聞社の実施した「NEXTユニコーン調査」(2019年)で明らかになっている。

女性の活躍を阻む障壁はなぜ生まれる?

女性起業家や女性の活躍を阻む障壁が発生する現状には、いくつかの要因が挙げられる。

まずひとつ目は人脈だ。

起業家が投資を受けられるか否かというのは、多くの場合、起業家自身の人脈にかかっている。女性起業家は男性起業家に比べ、ヒト・モノ・カネなどの資本を調達するための人脈へのアクセスがないか少ない傾向が挙げられる。

さらに、投資機会が得られた場合、男性起業家の方が大規模出資を要求するのに対し、女性起業家の方が、足元を固めるために現実的に必要な、より少ない金額しか要求しない傾向にあるという。

結果、女性起業家の方がスタートアップ時の資金繰りに苦しみ、ライバル企業に負けてしまうという傾向にあるという。

ふたつ目は、女性に求められる家庭での責任だ。

フェイスブックの最高執行責任者(COO)を務めるシェリル・サンドバーグ氏は、自身のキャリアにおける経験から女性のキャリアやリーダーシップについて書いた著書「リーン・イン」の中で、女性役員は常に家庭的責任について問われ続けると指摘。

「どうやって仕事と育児を両立しているのかと聞かれるが、男性ならばこんなことを聞かれない。こうした質問が女性の自信を喪失させる」と語っている。

世界的に女性は育児や介護などのケア労働に追われる傾向があり、こうした無休の労働に費やす時間は女性は1日平均4時間25分、男性は1時間23分となっている。この現状を改善するための取り組みは行われている一方で歩みは遅く、このままのペースでいくとジェンダーギャップを解消するにはあと209年かかるとされる。

「壊れたはしご」「ガラスの壁」も課題に

さらに、「壊れたはしご」と表現される課題もある。

McKinseyとLeanIn.Orgは、昨年発表したWomen in Leadership 2019のなかで、女性を阻んでいる課題は「壊れたはしご」と表現するほうが実情に即しているとした。

そもそも労働市場において男女比はほぼ半々なのに対し、エントリーレベルのマネージャー職に昇進する女性は少なく、さらにひとつキャリアの階段を上るごとにその女性比率は下がり続け、男女格差は拡大する構造となっている。

つまり、上位職だけで女性の採用や昇進を改善しても、全体として女性が男性と同じだけの機会を手にすることはできない。女性の昇進率そのものが低すぎる、とLeanIn.Orgの共同創業者でCEOのレイチェル・トーマス氏は述べている。

そして、「ガラスの壁」も女性の昇進や役員登用を阻む大きな障壁となっていると言われている。

ILOの調査によると、ほとんどの企業の女性管理職は人事、広報宣伝、総務などのサポートを主とする特定の職域に偏り、直接的に会社の損益に関わる事業部門・営業・経営戦略などの伝統的な職種のリーダーは依然として男性優位の構図から変わっていない。

最高経営責任者(CEO)についてはどの国も大半が男性となっており、大企業でCEOを務める女性は5%以下だとする統計もある。

ガラスの壁によって、女性は経営幹部に選ばれるために必要な多様で幅広い経験を十分に積むことが難しい現状を生み出しており、長年の固定観念や男性中心の企業文化の蔓延が主な原因となっている。

圧倒的に少ない女性投資家とゴールドマン・サックスの取り組み

どの起業家に投資をするか意思決定をする投資家自身も、女性が圧倒的に少数派だ。アメリカのエンジェル・キャピタル・アソシエーション(ACA)によると、アメリカで女性投資家は22%、イギリスでは14%、フランスではたったの5%しかいないという現状がある。

女性起業家は自身に身近な、女性をターゲットとした分野(美容・女性向け小売・女性の健康やウェルネスなど)での起業例が多い。これに対し、男性投資家は自分により身近な分野への投資に集中し、それ以外の分野に踏み出しづらいという傾向がある。

実際にベンチャーキャピタルの女性投資家は、男性投資家に比べ、女性が率いる企業に投資する確率が3倍高いこともわかっている。

多様なメンバーからなる投資家チームは、多様な企業に投資する傾向が強いため、投資の意思決定者の女性比率向上は必要不可欠だ。それには、ベンチャーキャピタルや投資企業自身が、人事部に多様な人材を採用・会社に留めることに尽力するよう働きかける必要性がある。

こうした理由から、アメリカ金融最大手のゴールドマン・サックスは、自社内での女性活躍を後押しするために数々のプログラムを設けるだけでなく、今年1月には、新規株式公開(IPO)の引受業務において、上場を希望する欧米企業に最低1人の女性取締役の選任を求めることを発表。

CEOのデービッド・ソロモン氏は「欧米企業で取締役候補に多様性が欠ける場合、特に女性が一人もいない場合は業務を引き受けない」ことを明言している。7月1日から新しい指針を適用し、2021年からは最低2人の就任を求めている。

女性起業家に投資がめぐることで、より多様な人々が製品やサービスにアクセスできるようになる効果が見込める。さらに、リーマンショックや新型コロナ危機の中でも、女性投資家が運用するファンドは打撃を受けづらく、健闘する傾向も顕著に見られた。

経営戦略として企業が進める女性登用

女性が活躍の場を得られることは、もちろん倫理的・人権的に重要だが、ビジネスにとってその経済的恩恵も大きい。そもそも企業において、ジェンダーギャップ解消を含めた多様性の向上は、イノベーションと収益性を高めることが分かっている。

Peterson Institute for International Economicsの調査によると、女性リーダーを0%から30%に増やすと収益性が15%向上するとのこと。McKinseyの「How inclusion matters」のレポートによると、同社が調査したなかで最も女性役員比率が高かった企業は、最も低かった企業と比べて実に48%もアウトパフォームする確率が高かったという。

女性リーダーの人数が多いほど社内の女性比率が上がり、女性リーダーは長く働き続けることも留意すべき点だ。

女性が野心を持って、挑戦することができる社会を目指すLeanIn.Orgは、ガラスの天井を打ち破るため、企業に対して、ファーストレベルの管理職に女性を増やすための目標を設定することや、昇進ラインにより多くの女性を置くこと、明確な評価基準を作ることなど、取るべきいくつかのステップを示している。

こうした背景から、アメリカ飲料大手のペプシコ、医療大手サノフィ、スポーツアパレルのNikeなどが次々に女性リーダー育成・登用のためのプログラムを確立し、ジェンダーギャップ解消への取り組みを進める。

国としても対策を講じることが望まれる

国は、育児プログラムへの投資、税制規制、介護の責任を誰が負うかという仕組みや文化を女性ありきにならないよう導くことで、ガラスの天井を取り除くことに影響力を持つ。

そのためには意思決定者層に女性を増やすクオータ制の導入や、コロナショックからの経済復興予算を女性起業家支援のための投資に用いることなど幅広い支援が考えられる。

今年、前安倍政権は指導的立場にいる女性を3割にするという目標を10年後ろ倒しにすることを発表し、日本政府主導のジェンダーギャップ解消へと向けた取り組みは後退したかと思われたが、経団連は11月、独自の成長戦略を発表。

政府による2050年の温暖化ガス排出実質ゼロの目標を経済界としても後押しする一方、働き方改革もテーマとし、30年までに企業役員の女性比率を30%以上とすることを目指すとした。

経団連が女性の割合について数値目標を定めるのは初めてであり、国際水準に比べ大きく遅れを取る日本の女性のジェンダーギャップへの取り組み前進が期待される。

女性やマイノリティを阻む障壁はいまだ数多く存在するものの、少しずつ、だが確実に取り組みは進む。「ガラスの天井」が壊されたあかつきには、誰にとっても生きやすい社会と数多くの機会が広がっているはずである。

文:西崎こずえ
企画・編集:岡徳之(Livit

モバイルバージョンを終了