5Gでビジネスに変革を。ドコモが描く新時代のビジネス協創

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2020年9月15日、株式会社NTTドコモと株式会社NTTドコモ・ベンチャーズが「docomo 5G DX AWARDS™ 2020」を開催した。

本イベントは、「産業の高度化」「働き方改革」「街づくり」「教育」「ヘルスケア」をテーマとして、各企業が保有する技術やプロダクト、サービスを募集し、ドコモが5Gの活用意義を審査・表彰するというもの。また、入賞した企業には、サービス化の検討や共同プロモーション実施など、ドコモがソリューションの実現にむけて支援を行う。

【イベントの様子はYouTubeから視聴が可能】

AMPでは本イベントの様子を紹介するとともに、「docomo 5G DX AWARDS 2020」の仕掛け人でもある、株式会社NTTドコモ 5G・IoTビジネス部ビジネスデザイン 担当部長の有田 浩之氏(以下、敬称略)に、イベントの開催の背景や、ドコモが考える5G時代の展望についてお話を伺った。

ドコモは5Gにどのような可能性を感じ、新しいビジネスを生み出していくのだろうか。

多数の企業が参加するドコモの5G協創プログラムとは

本イベントの開催にあたり欠かせないプログラムがある。それはドコモが2018年から行っている「ドコモ5Gオープンパートナープログラム™」だ。

このプログラムでは、ドコモのプラットフォーム上にさまざまなアセットを持つ企業が登録することで、「①ビジネスマッチング支援」「②ドコモのアセット提供」「③情報発信・技術提供」などを行う。

「docomo 5G DX AWARDS 2020」最終選考会に登壇した企業もこのプログラムに参加しており、イベント自体も、プログラムに参加している企業を分析している中で生まれたアイデアが開催のきっかけになったという。

まずは、「docomo 5G DX AWARDS 2020」を語るに欠かせない、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」について有田氏からお話を伺った。

── 「docomo 5G DX AWARDS 2020」最終選考会の登壇企業が属している、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」はどのようにして生まれたプログラムなのでしょうか。

有田:このプログラムは2018年2月からスタートしました。当初、まだ5Gという言葉がそれほど話題になっていない時期でしたが、その時期から5Gの利用シーンをドコモと一緒に多種多様な企業と取り組んでいきたいと考えていました。

5Gが商用化したらどのような世の中の課題を解決できるのか、どのようなニーズがあるのかを教えていただきたい、そしてそのことについて一緒に考えていきたい、というのがきっかけでした。

開始した頃は100社集まればありがたいなと思っていましたが、想像以上の盛り上がりであっという間に1,000社以上、現在では約3,500社、人数で言えば15,000名以上の企業にご参加いただいている、という状況です。

株式会社NTTドコモ 5G・IoTビジネス部ビジネスデザイン 担当部長 エバンジェリスト 有田浩之氏

── どのような業種の企業が参加されているのでしょうか。

有田:さまざまな業種の方々にバランスよく参加していただいていますが、R&Dや技術開発部門の方々が2割ほど。15,000名の2割なので相当数ですが、私たちにとってみると全く新しいレイヤーのビジネスパートナーとなりました。

これまでドコモの法人ビジネスにおける営業担当者にとって、携帯電話やスマートフォンの売り先にリーチできたのは、総務、庶務、情シスのご担当者さまくらいまでが限界でした。

ところがこのプログラムが始まったことで、新しい層の方々にも私たちのソリューションを活用・共同開発できるシナジーが生まれるようになりました。外部の技術部門の方々とアイデアを出し合い、実に300以上の実証実験を手がけてきました。

── プログラムを通してどのような可能性が見えてきましたか。

有田:実証実験を進めてみて分かったことは、映像伝送のニーズが圧倒的に強いということ。割合でいうと7割以上です。映像伝送の中にはシンプルな映像伝送も含まれますが、360度のVR空間を遠隔地でリアルタイムに映し出す、ロボットが撮影した映像を遠くに飛ばすなどさまざまです。

また、5Gの特性と相まって、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」の加入者は増えてきています。このプログラムのめざすべきところは、ご参加いただいている企業や自治体同士をビジネスマッチングすることで、あらゆるソリューションを生み出し、課題解決の「協創の輪」を日本全国に広げて、5Gの社会実装を実現したいと考えています。

ドコモとベンチャーの架け橋となる「docomo 5G DX AWARDS 2020」

── 「docomo 5G DX AWARDS 2020」は、そうした背景から生まれたイベントだったのでしょうか。

有田:今回のイベントはプログラム参加企業を分析する中で生まれたアイデアでした。

ドコモは普段、中小企業やベンチャー企業、技術はあるがこれまでドコモと取引がない、といった方々との接点がほぼない、という状況がありました。

そのような中で、ベンチャー企業の方にもご参加いただけるようなイベントを開催し、5Gとクロスしてシナジー効果を発揮できるようなアセットを募集しよう、というのがきっかけです。

そのため、私たちにとって参加いただきたい企業とは、商社や販路を持っている会社というよりは、技術やサービス、プロダクトを持っている企業です。そうした方々と共にソリューションをつくり、また未来をつくっていくことを目的として今回のイベントも企画していました。

── イベントは初開催となりましたが、振り返ってみていかがでしょうか。

有田:実はエントリーを募集し始めたタイミングがちょうどコロナ禍になってしまった直後で、どの企業も自社の課題に追われているという状況でした。

そのため当初はエントリー数が少なく心配していたのですが、結果的に86件のご応募をいただく結果となりました。

どれもこれも面白いアイデアで、私たちが見たこともないそれまで全く知らなかった技術を使ったものもありましたし、従来のソリューションをさらに発展させたものもありました。内部でもかなり意見が分かれ、ファイナルピッチに参加する10社に絞り込むのに苦労しました。 最終的に入賞した4社はその中でも特に特異な技術、サービスプロダクトを持っている企業だと思います。

「docomo 5G DX AWARDS 2020」では、最優秀賞のAMATELUS株式会社をはじめとした4社が受賞した。

── 今回優勝した「SwipeVideo(スワイプビデオ)」ですが、今後ドコモと協業していくにあたり、どういった可能性を感じられていますでしょうか。

有田:AMATELUS社が発表したソリューション「SwipeVideo」の、画面をくるくると回転させる仕組みは、一見誰でもできるような技術です。しかし、実際によく話を聞いてみると、動画に対しても360度見ることができる面白さがある。

「SwipeVideo」のイメージ (AMATELUS社ホームページより)

特に私が感銘を受けたのは、その実現手段でした。通常、スマートフォンで360度動かせる映像を作るためには、あらかじめ立体的な映像を作っておくというのが一般的な方法です。一方で「SwipeVideo」のすごさは、スワイプした際に必要な角度の映像を、クラウドから瞬時に取ってきて映し出すことを繰り返しています。

これは何を意味するかというと、映像を作り込むイニシャルコストを大幅に減らせるということです。さらにスピードも適応範囲もアップグレードすることができる。

5Gとのシナジーにおいても、クラウドと頻繁に膨大な映像データをやりとりしないといけないので、非常に親和性は高いです。

拡大可能な分野は、教育はもちろんスポーツをはじめとするエンターテインメントの分野でも非常に新しい楽しさを提供してくれます。これは、ドコモがこれまでの歴史で行ってきたビジネスモデルと近しい領域です。それを一緒に進化させていきたいと思っています。

── 86社の審査を行うにあたり、どのような審査基準を設けたのでしょうか。

有田:基本的な考え方は、ドコモだけでなく、ご参加いただく企業の方にもWIN-WINな関係になっていただく、というものです。

必ずしも1対1の関係性とは思っておらず、すでにプログラムに参加いただいている3,500社の方々との掛け合わせ、マッチングを意識しています。

なので、ビジネスモデルは少し頭の中で描きながら、このアセットならばどんな未来を実現できるだろうか、ということをイメージしながら選定をしました。

実際にはより多くのことを短いプレゼン期間の理解だけでなく、その後のミーティングを重ね多角的に理解する中で、ソリューションや課題解決方法を検討しています。

ドコモは単なる回線提供に終始するのではなく、一緒に課題を解決し、未来を築いていく、そして継続的なビジネスを作っていくことが目的なので、それを念頭に置きながら審査基準を考えました。

── 来年に向けて、どのようなイベントにしていきたいですか。

有田:今回、初めての試みでしたが、本当に私たちの期待以上のアセットクオリティがあったので、まず来年も継続して開催したいと感じているところです。

実は今、入賞企業の4社はもちろんですが、一次選考の10社の方々ともお話を進めています。すでに9社とミーティングを終えたところですが、その中からまず何かしらのアウトプットを出す、というのが第一歩だと思っています。

そしてそのアウトプットの出し方、もしくはWIN-WINとなるポイントを私たちも勉強させていただきながら、来年の「docomo 5G DX AWARDS」の開催に繋げていきたいです。

ドコモという「池」で、化けるベンチャー企業を生み出したい

── ドコモは5G技術をどのように捉え、今後どのように活かしていきたいと考えているでしょうか。

有田:よく受ける質問に、「4Gのままではダメなの?」というものがあります。

確かに現在の4Gもダウンロードの最高速度だと1.7Gbpsまで来ていますので、日本国内であれば十分快適に過ごすことは可能ですし、いろいろな利用シーンでモバイルを活用できている、という状態だと思います。

では、「5Gのスピードはどのくらいですか?」と問われれば、今4.1Gbpなので3倍弱です。たったの3倍かと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、モバイルの進化というのは10年スパンで行われると私は感じています。

逆に考えれば、初年度で3倍近くのスピードが出せた、そのあとの20Gbpsという目標性能までいつクリアできるかといったことが、毎年アップデートされていくわけです。そのポテンシャルを大きく秘めた技術であるといえると思います。

── ドコモの5G技術の進化に合わせて、パートナー企業との協創ビジネスもつくっていく、ということでしょうか。

有田:そうですね。この5Gの期待に対して私たちが応えていくために、エリア化は当然ですが、それ以上に「docomo 5G DX AWARDS」といったイベントや実証実験を重ねていくことが大切だと考えています。

また、それらの情報発信を継続的に行っていくことで、企業の皆さまにとって5Gはビジネスチャンスなんだと認識いただける技術、ツールだと捉えていただく必要があると思っています。

併せて利用者となる企業様、コンシューマーの方々にとってみると、課題を解決してくれる、快適さをもらえるものである、ということをリアルに感じていただけるようになることを使命として活動をしています。

── 他社含めて5Gビジネスに乗り出していく中で、ドコモはどのような強みを持って進めていきたいと考えているのでしょうか。

有田:私たちが持っているパートナーの輪は、世界最大級の繋がりであると私は思っています。

その輪による新たなソリューションの創出、発信を世界にしていきたいと考えています。それはドコモだけの力では絶対にできないことなので、パートナー様と一緒に取り組んでいくものだと考えています。

よく例に出すのですが、日本三大怪魚のビワコオオナマズはなぜあんなに大きくなれたのか、という話があります。

ベンチャー企業の経営者にとってみれば、どこで自分たちのビジネスを大きくするべきか、は悩む問題だと思います。それを1社だけでクリアしようと思わず、私たちのような環境、もしくはビジネスマッチングを活用しながら技術やソリューションを磨いていってほしいと思います。そうしていくうちに圧倒的な存在のあるナマズに化けていく可能性は十分ある。そのための手助けを私たちはしたいと考えています。

── 5Gビジネスにおいて今後どのような変化が起きていくのでしょうか。

有田:ドコモの今後の方向性という観点ですと、いま5Gビジネスに感じているのは、今まで4Gではスマートフォンの中だけで完結していたものが、5Gでその外側にまで波及するインパクトがある、という点です。

例えば、ARグラスやウェアラブルなどもそうですし、センサー、IoTデバイス、サイネージ、車、ドローン、電化製品など、ありとあらゆるものが繋がっていく。その通信の媒介が5Gであるということ。

今回のイベントのアセットをご覧いただいても分かる通り、ほとんどのソリューションがスマートフォンの画面に閉じないビジネスモデルでした。もちろん4Gの時にもそうしたアセットは存在しましたが、5Gの登場によってより現実的なニーズや利用シーンが増えてきました。

こうした世界観は、これからどんどん広がっていくと思います。

5Gが切り開く未来への期待値とは

── 有田さんご自身のご関心としては、どのような点に注目されているでしょうか。

有田:現時点ですと、映像伝送に関する技術への関心が圧倒的ですね。

私は特に5Gでは、「多数接続」と「低遅延」、この2つに注目しています。

多数接続の世界はすごくて、日本各所に設置されたIoTデバイスを活用して、あらゆる情報を収集することができます。

それが実現できれば、情報の密度が今よりも何倍、何十倍も上がる世界がくるということなので、私自身ぜひそれを見てみたいなというのが一つです。

もう一つが低遅延。近年話題となっているMEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)の技術を活用すれば、今起きているような通信遅延というものがほぼ無くなり、よりリアルタイムでの通信が可能になります。

具体的な利用シーンは現在議論を進めている中でいくつか出てきているのですが、未だ低遅延を活用した理想モデルはそれほど出てきていません。

これまで想定すらされていなかった利用シーンがこれからどんどん出てくるので、私自身、非常にワクワクしています。さらにその2つの特徴を得た5Gというのはどんな世界を私に見せてくれるのか、ビジネスや社会をどのように変えてくれるのか、ということをすごく楽しみにしています。

── そういった可能性の一つひとつを、「docomo 5G DX AWARDS」などを通して検証していきたい、ということでしょうか。

有田:はい。その可能性を追求していきたいと思っていますし、恐らくその未来は誰にも分からないのが現状なのではないかと。

一部の研究者の方は何となく予見されている方もいらっしゃるかもしれません。ですが、そこはある意味で私たち自身で創っていく世界なのではないかと思っています。

ただし、一足飛びに10年先には過去事例からみても行くことはできません。だから1年1年の積み重ねることによって、パートナー企業さまと共に自分たちの未来を創っていきたいですね。

5Gは私たちの生活やビジネスをどのように変えていくのだろうか。それは誰にも分からない。

しかしこれからの時代は、一社で何かを独占的に行うのではなく、強い武器やアセットを持つ仲間と協力して持続可能なビジネスを創っていく時代となっていくのではないだろうか。今回開催された「docomo 5G DX AWARDS」は、そんなまだ見ぬ未来の5G時代の幕開けを象徴するイベントとなった。

これからどんなオオナマズがドコモという池から出てくるのか楽しみでしかたない。

なお、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」への参加は、こちらから問い合わせ可能だ。ぜひ5Gで新しいソリューションを実現させたい方は挑戦してみてほしい。

取材・文:花岡 郁
写真:西村 克也

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