日本の4年先行く?コロナでの「接触減」需要にこたえる米国の自動運転車、最新事情

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テクノロジーや社会の仕組みは、いつの時代も、圧倒的な必要性に差し迫られた時に進化するものである。たとえば、COVID-19の影響下において進化を加速させているもののひとつが、自動運転技術だろう。

世界各地で新型コロナウイルスへの感染リスクは依然として高く、“ウィズコロナ”なる言葉が生まれるほど、今後も長期に渡って対策が必要な事象だ。人間同士の接触を極力避けるという行動様式は、感染リスクを低減する有効な手段であり、これによって人々のショッピングや飲食店に対する消費の中心はオンラインへ移行した。

そしてその変化は、それらオンラインで購入された商品を運ぶ配送企業への多大なる負荷の増加という新たな課題を生み出したのである。

以前から世界各国で研究開発が進められている自動運転技術は、この課題を解決するひとつの希望と見なされ、ここへ来て進化を加速させている。もう少し先、と考えられていた社会への実装も、パンデミックの影響を受けて早まる可能性がある。

本稿では、数ある自動運転技術事例の中から、主に二つの事例を通じて、米国の自動運転車の現在地をお伝えしていく。

自動運転車開発“自体”もCOVID-19の影響を受けた

自動運転車の開発が、この状況を通じて常に順調だったわけではない。

COVID-19の影響によって、多くの企業が在宅勤務を選択せざるを得なくなった。それは、自動運転車両を研究開発する企業でも同様だったのである。

そのために、Argo AI、Waymo、Auroraなど、自動運転技術開発の分野において主軸となる多くのプレイヤーは、一時的に自動運転の路上テストを中止せざるを得なかった。

それだけではない。これら自動運転技術の開発企業と業務提携し、2021年末までに自動運転車両の大量生産を目論んでいたフォードやフォルクスワーゲン、BMWなどの自動車メーカーにも多大な影響を及ぼしている。

しかし一方で、COVID-19は、自動運転技術が持つ潜在的なベネフィットを浮き彫りにした。

消費者たちが在宅しながら様々な商品を購入する生活様式は、多くの人々を感染リスクから遠ざけるが、商品の配送に従事するスタッフがいる限り、依然として感染拡大のリスクから逃れることはできない。

そのリスクを低減する最も有効な手段のひとつが、自動運転車なのである。

フロリダの病院で展開されている自動運転車両「Beep」の実証実験

新型コロナウイルスの感染リスクが高い職業として、医療従事者が挙げられる。

彼らのウイルスへの曝露を防ぐことを目的として、自動運転技術を用いる実証実験を行っているのが、フロリダ州ジャクソンビルの医療施設、「Mayo Clinic」だ。

Mayo Clinicは、自動運転技術開発を手掛ける「Beep」、そしてジャクソンビル交通局、自動運転バスを開発するフランス企業NAVYAとの協働により、新型コロナウイルスの検査キット配送、および検体の回収に自動運転車両で実施している。

この取り組みは歩行者がいないルートで行われており、荷物の積載は人力で行うが、配送先までの移動は完全に自律した自動運転車両のみで実行される。

Mayo Clinic YouTubeチャンネルより

Mayo Clinicには自動運転車両が4つあり、それぞれのシャトルは別ルートでの実験を繰り返している。

次に、無人ルートではなく、“公道”での走行が認可された事例を見ていこう。

全米初となる公道利用が認可された完全無人自動運転車両「Nuro」R2

元Googleのエンジニアたちが起ち上げたNuroは、米国の自動運転市場をリードするスタートアップ企業だ。2019年の前半に、ソフトバンクが9億4,000万ドル(約985億円)を投資したことで、日本でも注目されたことは記憶に新しい。

彼らが開発する自動運転車両第二世代となるR2は、今年の2月、米国運輸省道路交通安全局より、公道で走行することを認められた全米初の完全無人自動運転車両となった。

Nuro YouTubeチャンネルより

NuroのR2は、幅広い天候や道路状況に即座に対応。交通の流れと障害物を自ら検出し、アクセルとブレーキを自動で制御することで、歩行者のリスクを最小限に抑えることが可能だ。最高速度は時速25マイル(約40km)で、FMVSS(連邦自動車安全規格)の中では低速車に分類される。

R2には、本来FMVSSが定める車両基準となるハンドルやバックミラー・ルームミラーなどの装備がない。しかし、「運転手の乗車を前提としない車両にこれらの装備は不要」という米国運輸省の判断を引き出し、今回の認可が実現した。

これはつまり、世界のすべての自動運転車両において、実用化の際にひとつの大きな壁となっている「Society of Automotive Engineers」の「自動化運転レベル4」を、R2がクリアしていることを意味する。

これによって、R2は向こう2年間で5,000台に限り、実際にヒューストンの公道で稼働し、ウォルマートやドミノピザ、クローガーなどのオンラインオーダーされた商品を、完全無人で宅配することになった。これは、自動運転車両が私たちのライフスタイルに溶け込む第一歩とも言える。

Nuro×Uber Eatsの配送計画に見る「ファーストマイル」の先見性

Nuroと言えば、昨年、Uber Eatsとの業務提携の噂が話題になったことがある。結局このプロジェクトは今のところ実現には至っていないが、自動運転車両を活用し、ウイルス感染のリスクを低減させながら、配送コストも大幅に下げるアイデアとして、今改めて注目したいと思わせるものだった。

この計画は、簡単に言えばNuroの自動運転車両とUber Eatsのドライバーが商品の配送を分割して担当するというもの。そして、Nuroはその「ファーストマイル」を担当する。

顧客からオーダーされた料理を、Nuroの自動運転車両が、各飲食店からある決められた地点までを移動させ、そこからは従来通りUber Eatsの配達パートナーが顧客宅まで商品を届けるというわけだ。

この計画が実現できれば、配送効率は飛躍的に高くなる。

従来の配達パートナーがn地点の飲食店からn地点の個人宅へ配送する方式は、ルーティングが個人の選択に委ねられるため、必ずしもベストな効率で配送できるとは限らない。ところが、商品を取りに行く場所が必ず決まっているのであれば、配達パートナーはより多くの注文に対応することが可能になるのだ。

加えて自動運転車両にとっても、中継点が決まっていることで、AIが処理する情報はシンプルになり、予期せぬ事態が発生するリスクを低減することができるだろう。

この計画自体はCOVID-19が発生する以前に立てられたものだが、「ファーストマイル」と「ラストマイル」を入れ替えることができれば、人間同士の接触もより少なくし、ウイルス感染拡大のリスクを低下させられるかもしれない。

日本における自動運転実用化の課題は?

もちろん、日本でも自動運転および自動運転車両を活用した無人配送に関する実証実験は数多く行われている。

大きなところで言えば、トヨタが今年初頭に発表したコネクテッドシティプロジェクト「Woven City」では、トヨタオリジナルの完全自動運転モビリティ「e-Palette」が走行することを前提とした街づくりを行うことを宣言している。

トヨタ自動車株式会社 YouTubeチャンネルより

Toyota Motor Corporation YouTubeチャンネルより

このプロジェクト自体も、新しい街を丸ごと生み出す壮大な実証実験だ。そのため、法規制の面では、自動運転車両を走行させることに対するハードルは比較的低いかもしれない。

しかし、米国に比べ道幅が狭く、人口密度の高さに比例して交通量も多くなる公道での自動運転車両実用化には、まだまだ多くの壁がある。

一つは、やはり前述したSAEの「自動運転レベル4」の基準をクリアすることだろう。

レベル4とは、詳述すると次のようになる。

「運転自動化システムが全ての能動的運転タスクおよび作動継続が困難な場合への応答を限定領域的に持続的に実行すること、作業継続が困難な場合でも利用者が介入の要求に応答することは期待されない」

——この状態を技術的に達成しつつ、その車両をもって、走行難易度の高い日本の都市部公道での走行が法的に認可されるまでには、今しばらくの時間がかかりそうだ。

現状の日本政府のロードマップによれば、自動運転レベル4の実現は2025年ごろがターゲット、という状況である。

しかし、COVID-19によって変化を強いられた生活様式と、世の中に浸透した感染リスク回避の常識、そして日本を一歩リードする米国を含む他国の自動運転車市場の動向が、日本における技術開発や法整備のスピードを加速させる可能性は充分にあるのではないだろうか。

文:池有生
企画・編集:岡徳之(Livit

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