腸内細菌の民族差を示唆 森永乳業ら、日本人の腸内細菌に対する網羅的なヒトゲノム解析を実施

森永乳業とDeNA ライフサイエンスは、東京大学医科学研究所 附属ヒトゲノム解析センターと、2016 年から共同研究を実施している。今回、初めて日本人の腸内細菌に対する網羅的なヒトゲノム解析を行い、遺伝要因の影響を確認したと発表した。

DeNAライフサイエンスが推進するユーザー参加型のゲノム研究プロジェクト「MYCODE Research(マイコード・リサーチ)」のもと、インターネットを活用した研究参加者リクルートを行い、4日間という短い期間で2,000名近くの応募を集めた。

その中から、健康な日本人の成人(20歳~64歳)、1,068名の腸内細菌解析を行ない、日本人の腸内に主要な21の菌や菌の多様性について、既に解析済みの55万以上のSNPデータと併せてGWASを実施。

食習慣や生活習慣等138の外的要因についても新たに調査し、腸内細菌との関連がみられた要因については、その影響を調整したうえで関連SNPの探索を精緻に行ったという。

さらに、複数のSNPによる複合的な遺伝要因の影響を調べるために、ゲノム全体のSNPを用いた遺伝率の算出を実施。

研究によると、腸内細菌と関連する5つのゲノム領域を新規に同定することに成功したという。

HS3ST4遺伝子領域のSNPは男性でのFaecalibacterium属という菌の割合と、C2CD2遺伝子領域上のSNPは女性でのErysipelotrichaceae科という菌の割合との関連が示されたとのことだ。

他5つのSNPは2番、10番、18番染色体上の遺伝子間領域に位置し、それぞれ男性でのPrevotella属という菌の割合、女性でのOscillospira属という菌の割合、女性での腸内細菌の多様性指標との関連を示したという。

一方で、同定したゲノム領域個々の影響はそれほど大きなものではなかったとのことだ。

これらの結果から、日本人腸内細菌の遺伝要因は、特定の寄与度の高い遺伝子多型ではなく、寄与度はそれほど高くない遺伝子多型が多数集積して影響を与える、「多遺伝子構造(polygenic architecture)」を取ることを示したという。

また、今回同定した日本人腸内細菌と関連を示すゲノム領域は、これまでに欧米人を対象としたGWASから報告されたゲノム領域とは異なる領域であったことから、人種特異的な遺伝要因の存在が示唆されたとのことだ。

今回の研究で得られた成果は、腸内細菌の民族差を理解する上で基礎的なデータとなることが期待されるという。

今後、宿主の遺伝的背景を考慮することで、疾患や体質などの個々人の健康状態などと腸内細菌との関連性、更には民族性との繋がりに関して、より精緻に評価できる可能性が示唆されるとのことだ。

また、研究の成果は、インターネットを活用することで、ユーザーコミュニティの個人が自らの同意の下で研究に参加して科学の発展に寄与できる、“Community-derived science”の実現により得られたという。

この新しい研究形態は、研究参加者リクルートやデータ収集に膨大な時間とコストがかかる従来型の研究の困難を解決し、研究成果の社会への還元を加速させることが期待されるとしている。

日本人の腸内細菌は、酒の強さや単一遺伝子疾患のような、特定の遺伝子が大きく影響しているのではなく、ゲノム全体の複数の遺伝子多型が影響することが明らかになったとのことだ。

ヒトの腸管内には多種多様な細菌が生息しており、腸内細菌の種類や割合には個人差が大きいことが知られている。

腸内細菌は食事などの生活習慣(外的要因)や宿主であるヒトの遺伝要因(内的要因)の影響を受けることが知られてたが、遺伝要因についての研究はまだ少なく、不明点が多く残されていた。

遺伝要因の関与を調べる手法として、ゲノムワイド関連解析(GWAS)による網羅的な探索が報告されているが、これまでは欧米人を対象とした報告に限られていた。

しかし、腸内細菌は民族など集団で異なることが知られており、欧米人に加えて、他の民族集団を対象とした遺伝要因の探索が求められている。

同研究では、初の日本人の腸内細菌に対する網羅的なヒトゲノム解析を行い、遺伝要因の影響を評価した。

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