九州サイズなのに食料輸出世界No.2?オランダがたどり着いた「超効率戦略」

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豊かな大地と資源に恵まれたアメリカが食料輸出世界第1位というのは誰が聞いても納得感があるだろう。しかし、アメリカに次ぐ第2位は意外にも、北の小国オランダだ。

なぜオランダ?と疑問に思う人も多いだろう。それもそのはず、国土はアメリカの270分の1程度、日本の九州ほどの面積の小さな国だ。加えて北海道よりも北にあるため冬の日照時間は短く、決して温暖な気候とは言えない。

しかしながら近年、オランダで行われているサステナブル農業が、今後世界を食料危機から救う存在になるかもしれないといわれている。

決して温暖な土地ではない、国土も限られているオランダがどのように世界の農業輸出大国となり、さらには世界の食料危機を救うほどのサステナブルな農業の仕組みを生み出すことができたのだろうか。

サステナブルで高い生産性を誇るオランダ農業の最新動向をレポートする。

「半分の資源で2倍の食料を」

そもそもオランダ農業の最大の特徴は、少ない資源からより高い生産性で野菜を栽培する点にある。

厳しい寒さの中でも温室があれば安定的に農作物を育てることができるため、オランダの農業には温室が多く用いられる。この温室栽培において、オランダは工夫を重ねることで水・肥料・農薬の使用を最小限に抑えることに成功している。

さらに、肥沃な土壌がなくても野菜を栽培できる水耕栽培によって節水・コスト削減を実現。酪農と畜産においてもイノベーションが進み、生産効率は高い一方、抗生物質の使用は大幅な削減に成功している。

オランダ政府ウェブサイトによると、オランダの農業輸出は園芸・酪農と卵・食肉・野菜の順に輸出金額が多く、作物別に見ると、玉ねぎとじゃがいもの輸出金額・世界第1位を誇る。さらに、オランダのトマト・チリペッパー・きゅうりは世界でもっとも収益率が高いことで知られる。

トマトを例にとっても、通常1キロのトマトを栽培するのに必要とされる水は世界平均214リットルなのに対し、オランダのある農家はたった4リットルでの栽培を可能にしている。

オランダが農業の生産性を高めることに注力したのは、土地が限られていたからに他ならない。

オランダは農業に向く土地も国土も少なかったため、第二次世界大戦で隣国から攻められたとき飢餓に苦しんだ歴史も持つ。オランダ政府は大戦が終わるとすぐに、農業の効率を高めるための施策を国を上げて推奨した。

輪をかけるように1963年、政府は若者に農業ビジネスを始めるための予算を組み、肥料や機械についての調査・研究などに投資。1997年には国が「半分の資源で2倍の食料を」つくれるようにとさらなる農業効率の向上を呼びかけた。

その努力が実を結び、現在では国土の半分を農地が占めるまでに拡大。輸出量・額も年々上昇しており、2019年の輸出額は前年比8%増の99億ユーロに増加している。

産学連携のハブ「フードバレー」が支える農業イノベーション

オランダで農業の効率化と収益率の高さを支えているのは、農業分野における強固な産学連携だ。

オランダ西部に位置するワーニンゲン大学リサーチセンター(WUR)は世界トップの農業研究機関として数々のイノベーションを生み出してきた。WURの周りには、取り巻くようにダノンやハインツなどの世界大手食品企業12社や農業関連のスタートアップ企業が研究拠点を構えている。

この一帯は「フードバレー」と呼ばれ、協業と連携のハブとなっている。「フードバレー」の呼び名はアメリカのシリコンバレーから連想されたもので、学問と起業家をつなぐ中枢としてその役割を担っている。

オランダから生み出される数々の技術や新しい形の農業は世界から注目を集めている。

土を必要としない北国のバナナ栽培

バナナ栽培においてこれまで大きな課題だったのが、フザリウム萎凋病と呼ばれる病気だ。フザリウム萎凋病は土から生まれる真菌性病原体でバナナの木を枯らしてしまうため、これまでバナナ農家を悩ませてきた。

この課題に対し、「土から生まれた病原体を遠ざけたいのなら、土を使わなければいい」と実験を始めたのが先に紹介したワーへニンゲン大学だ。大学構内の実験農場Unifarmの温室で、岩綿(人造鉱物繊維)と、ココピートと呼ばれるココナッツの中果皮からつくる栽培用の苗床を用いることで、土なしのバナナ栽培に成功。バナナが病気にかからないためこの方法で栽培すると生産性が30%向上するという。

さらに、土を必要としないため、これまで栽培には適さないと考えられていた地域や、地域家庭・病院・レストランなど農園意外の場所での栽培も可能になるという。寒いオランダはバナナ栽培に適さない、という常識を覆す結果となった。

ヨーロッパ最大の都市型農場「The New Farm」

オランダのデン・ハーグの市街地にそびえるのは、8階建て・全12,400平米の床面積を誇るヨーロッパ最大のアーバンファーム(都市型農場)、「The New Farm」だ。

この場所は、もともと1950年代に家電大手のフィリップスがテレビと電話を製造するために建てたもの。2013年にThe New Farmが大規模改装を施して入居するまでは市役所校舎として利用されていた歴史を持つ。

屋上には1,200平米のルーフトップ温室があり、トマトなどが栽培されている。農作物に与える肥料として用いられているのは同じ施設内で養殖するティラピアのフンだ。施設内で資源を循環させ、不要なものをつくらないことで生産性を高める。

The New Farmでは、ゆくゆくは年間50トンの野菜とティラピア500匹を収穫できるようにし、地元の家庭900世帯・レストラン・調理学校に十分な量の食料を供給する予定だという。

都市型農業は、今後30年で100億人にまで届くとされる世界人口の多くが居住することになる都市部で必要な食料を供給するために有用だとみられており、オランダの取り組みは世界からも注目を集める。

牛が海に浮かぶフローティングファーム

港町ロッテルダムの海に浮かぶのは、世界初となる水上酪農場「フローティングファーム」だ。

牛40頭が飼育されるこの農場では、一日あたり1,000リットル分ものミルクから牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品がつくられ、地元のホテルや飲食店、スーパーなどで販売されている。都市内で生産・消費されるため輸送距離が短く、環境負荷や輸送コストが少ないことが最大のメリットだ。

それだけでなく、飼育する牛には地元のレストランや食品加工会社などから廃棄される食品を飼料として与えたり、さらには牛の糞尿までも回収して堆肥として販売するなど、都市から発生する廃棄を減らし、有機資源を循環させるという重要な役割を担う。

土地を必要としない水の上に浮かぶ酪農場は、今後立地条件問わず世界の食料供給においてひとつの道筋を示してくれる。

世界初のカーボン・ニュートラルな卵を生産する養鶏場「Kipster」

Image via Kipster website

畜産における大きな課題とは、家畜を育てるのに膨大な量の飼料を必要とすることだ。飼料となる穀物などは、穀物のまま食べられれば全世界人口に行き渡る。しかし家畜に食べさせてしまうとその分人類の食料が足りなくなり、結果2050年までには人口の10%、約10億人が飢餓に苦しむと予測されている。

世界初のカーボン・ニュートラルな卵を生産するオランダの養鶏所「Kipster」は、食品ロスを活用することでこの問題への解決策を見出す。

Kipsterがニワトリに食べさせるのは、スーパーや大規模なパン生産ラインで発生する、形が悪いなどの理由で売り物にならなかったパンと、地元の農家などで余った食材だ。これにより街の食品ロスが削減されるだけでなく、通常の飼料よりも栄養価の高い食事を与えられたニワトリはより多くの卵を産むという。

養鶏場の建物自体も太陽光パネルから電力を賄うなど、サステナブルな仕組みが徹底されている。また、通常売り物にならないためガスで殺されてしまうという雄鶏も、Kipsterはチキンソーセージなどの食品に加工して販売する。

オランダが世界第2位の農業大国になれたのは、地理的・気候条件などから効率化を追求せざるをえなかったからに他ならない。しかし、オランダが産学連携して知恵を出し合い、工夫を重ねた結果たどり着いたサステナブルな農業は、今後爆発的に増える人口を支える大きなヒントとなるだろう。

地域によっては、今後温暖化の影響でこれまでの農業を行えなくなるとされるが、寒い気候のなか国土が限られているオランダが生み出してきた新しい形の農業は、必ずしや今後世界各地で食料問題解決の手がかりとなるだろう。

文:西崎こずえ
企画・編集:岡徳之(Livit

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