三菱総合研究所、経済対策提言や世界・日本経済の見通しの最新版を公表

三菱総合研究所は、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を踏まえ、経済対策提言や世界・日本経済の見通しを随時発表している。

今回は11月半ばまでの世界経済・政治の状況および2020年7-9月期GDP速報の公表を踏まえ、世界・日本経済見通しの最新版を公表した。

各概要は以下となる。

世界経済

米国の大統領選では、民主党のバイデン候補が選挙人の過半数を獲得。

バイデン政権が誕生すれば、①新型コロナ感染症対策と経済再生、②大統領選を通じてあらわになった米国内の深刻な分断への対応、③経済再生の柱としての気候変動対策、が重点的に進められる方針であるという。

また、外交政策では、欧州など同盟国との関係修復とともに、対中国ではアプローチは変化しつつも強硬路線の継続が見込まれるとのことだ。

世界経済は4-6月の大幅な落ち込みから持ち直しの動きをみせており、7-9月期の回復は、全体としては前回8月見通し時点の予測を上回るペースであるが、回復のばらつきが鮮明化してきたという。

国レベルでは、中国が既にコロナ前のGDP水準を回復した一方で、感染拡大が高水準で続く欧米のGDPはコロナ前の水準を依然下回っているとし、業況や雇用・所得環境をみても、特定の層に影響が偏在しているとのことだ。

10-12月期以降は、世界経済の持ち直しペースが鈍化すると予測。欧米を中心とする感染拡大の加速に加え、雇用・所得環境の悪化や債務返済負担の増加が景気回復の重しとなるためであるとしている。

今後の感染拡大ペースやワクチン/治療薬の普及時期等が不透明なことから、世界経済・日本経済の見通しは、3つのシナリオで提示。引き続き先行きの不確実性は高く、世界経済の見通しは幅をもってみる必要があるとのことだ。

最も蓋然性が高いシナリオ:
中国以外の国々では、21年春以降も感染拡大が継続し、感染リスクの高い地域や活動への重点規制と緩和を繰り返しながら、22年にかけて一定の防疫措置を継続。
特に、高水準での感染拡大が続く欧州や米国では、季節的に感染リスクが高まる冬場を中心に、7-9月期に比べて経済活動の抑制度を再強化。
— 20年の世界経済成長率は前年比▲3.0%、21年は同+4.1%
— 世界の実質GDPが、コロナ前(19年末)の水準を回復するのは21年後半

下振れシナリオ:
新型コロナ感染者の重症化を防ぐ治療法の確立、ワクチンや特効薬の一般普及により、重症化・死亡リスクが低下する。
21 年半ば以降、先進国を中心に経済活動への制約がより緩和され、22 年以降にかけて徐々に平常化に向かう。
— 20年の世界経済成長率は前年比▲3.0%、21年は同+4.5%
— 世界の実質GDPがコロナ前の水準を回復するのは21年後半

感染拡大の影響以外にも、注意すべき下振れリスクが3つあるという。

第一に金融市場・不動産市場の調整。大規模な金融緩和により、株価や不動産価格には一部で過熱感がみられる。過剰流動性がもたらした資産価格の歪みには注意が必要とのことだ。

第二に債務拡大による中長期的な成長停滞。コロナ危機下で流動性リスクを抑え込んだ代償として債務は大幅に拡大。今後、債務返済負担が重しとなり投資が停滞すれば、中長期的な成長力を損なう可能性があるという。

第三に米中の選択的デカップリングの強まり。米新政権でも対中圧力の中身は変化しつつも強硬姿勢は変わらないとみられ、貿易や投資の米中デカップリングが進めば世界経済の下振れ要因となるとしている。

日本経済

日本経済は、4-5月を底に持ち直しの動きがみられるとのことだ。Go Toキャンペーンなど政策面での後押しもあり、防疫措置を講じつつも経済活動が再開。雇用・所得環境も最悪期は脱したとみられるが、先行きの不透明感は強いという。

これまでは雇用調整助成金などの支援策もあり失業の急増は回避されてきたが、今後は雇用調整圧力が強まる可能性があるとのことだ。

また、21年度にかけて消費下支え策の段階的縮小が予想されるなか、雇用・所得環境の回復の足取りは極めて鈍いものとなると予想されており、設備投資も業績悪化や先行きの不透明感を背景に慎重化が予想されるという。

20年度の実質GDP成長率は、前年比▲5%台半ばの大幅なマイナス成長を予測する。21年度は、シナリオ①で同+3%台前半の回復を見込むが、コロナ前の水準を回復するのは23年以降となると予測されている。

米国経済

米国経済は、4月末以降に持ち直しの動きを続けてきたが、今後は回復ペースの鈍化が予想されるという。新型コロナの感染拡大が継続しているほか、既往の各種経済対策の段階的な縮小が背景にあるとのことだ。

また、バイデン新政権が誕生すれば、課税強化や再生可能エネルギーの推進など大幅な政策転換が予想されるが、上院では共和党が多数党を維持する「ねじれ」状態に陥る可能性が高いとみられ、その場合、公約通りの政策は実現が困難だという。

20年の実質GDP成長率は、前年比▲3%台半ばのマイナス成長を予測。21年は、シナリオ①の下で同+2%台半ばの回復を見込むが、コロナ前の水準を回復するのは22年後半となるとのことだ。

欧州経済

欧州経済は、7-9月期は前期比+10%を超える大幅なリバウンドとなったが、10-12月期は一転して小幅マイナスに転じる見込みであるという。10月に入り各国の感染拡大ペースが一段と加速しており、複数の国・地域が再ロックダウンに踏み切ったという。

政府の支援策によりこれまでは解雇よりも労働時間の調整が先行してきたが、今後は雇用削減の動きが進む可能性がある。欧州5か国の20年の実質GDP成長率は、前年比▲9%程度を予測。

21年はシナリオ①の下で同+4%台半ばの回復を予想するも、コロナ前の水準を回復するのは23年以降となる見込みであるとのことだ。

中国経済

中国の国内感染はほぼ終息しており、7-9月期は前年比+4.9%と成長が加速、世界に先駆けてコロナ前のGDP水準を既に回復しているという。

ただし、4-6月期と同様、政策の後押しによる投資増加の影響が大きく、消費の回復ペースは鈍いとのことだ。政府による投資増加が、非効率分野での過剰投資につながれば、コロナ前からの不良債権問題をさらに悪化させかねないとしている。

不動産市場をはじめ過剰投資への対応が今後の中国経済の重しとなるとし、20年の実質GDP成長率は、前年比+2%程度とマイナス成長は回避すると予想。21年はシナリオ①の下で同+8%程度の成長が予想されるとのことだ。

新興国経済

その他の新興国・途上国では感染が総じて拡大傾向にあるという。

先進国に比べて医療体制や衛生状態に課題が多く、一部業種での事業所封鎖指示など経済活動への一定の制約は長期化する見込みとのことだ。

国際金融市場における新興国からの資金流出圧力は、6月以降は落ち着いているものの、感染拡大などにより新興国の成長が一段と下振れれば、資金流出圧力が再び強まるという。

新興国経済の成長率は、内外需の下振れを背景に、軒並み世界金融危機時を超える落ち込みを予想するとのことだ。

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