グーグルやマッキンゼー主催の欧州スタートアップアワード、ヘルステックとクリーンテックが賞を独占

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世界のスタートアップトレンドはどのようになっているのか。その状況を概観するのに、世界各地で開催されているスタートアップアワードは、重要なヒントを得る手段の1つとなる。受賞企業は、起業家、投資家、メディアの関心を反映するものでもあるからだ。

グーグルやマッキンゼーなどが開催者として名を連ねる欧州のスタートアップアワード「Digital Top 50(DT50)」の受賞企業がこのほど発表された。同アワードは5部門あるが、今年はヘルステックとクリーンテックのスタートアップが賞を独占、テックスタートアップで関心が高い分野が明確にあぶり出された結果となった。

どのようなスタートアップが選出されたのだろうか。

パーソナライズド医療の担い手、オックスフォード大学発のスタートアップ「iLoF」

DT50の5つある部門の1つ「Best Technology」で受賞したのは英国のヘルステック企業iLoFだ。

DT50だけでなく、他にも多数のアワードを受賞しており、欧州ではかなり注目度の高い企業となっている。

英オックスフォード大学の学生や卒業生らのためのビジネスインキュベーションスペース「Oxford Foundry」を拠点とする同社、AIと光工学を活用したパーソナライズド・メディシンに関する技術を開発している。

パーソナライズド・メディシンとは、患者個人のバイオロジカルな特性に合わせた治療のこと。これを実現するためには、まず患者個人のバイオロジカル特性がどのようなものであるのか分析する必要がある。iLoFの技術は、この分析フェーズにおける効率向上、コスト削減で大きな期待が寄せられている。

まず血液サンプルの分析において同社が特許を保有する光工学分析が実施される。そのデータはAIによって処理され、ユニークな光学指紋(optical fingerprint)が付与される。次にこの光学指紋を、同社が保有する光学指紋ライブラリのデータと比較・マッチングし、患者のバイオロジカル特性を把握するという流れになる。

現在、同社技術はアルツハイマー病のパーソナライズド・メディシンの開発に向け応用されている。同社によると、アルツハイマー病患者は世界に4,400万人いる。過去14年間で400件の臨床試験が実施されたが、失敗に終わったという。アルツハイマー病臨床試験の課題として、その過程の侵襲性、非効率、高コストが挙げられる。新しい光工学とAIの活用で、こうした課題を払拭できる可能性が期待されている。

iLoFは、将来的にアルツハイマー病だけでなく、新型コロナの症状予測、胃がんや脳卒中の治療などにも同社技術を応用する計画だ。

「臨床試験の民主化」目指すAncora.ai

DT50「Best Enterprise Business Model Innovation」部門でもヘルステック企業が受賞した。

同部門受賞企業のAncora.aiは、臨床試験検索のオンラインプラットフォームを提供するスタートアップだ。このプラットフォームは、世界各地の臨床試験情報を掲載し、ユーザーの臨床試験参加のハードルを下げることを目的としている。

一般的に、新薬開発にかかる臨床試験に関して信頼できる情報を探し出すのは困難。そのような臨床試験情報は、知り合いが医者や研究者、病院勤務でない限り取得するのは難しい状況だ。

2017年に創業したAncora.aiだが、創業者のダニエル・レリックCEOがこのビジネスアイデアを得たのは、ハイキング時に出会った人物との会話だったという。

同社ウェブサイトによると、当時PD-L1と呼ばれるたんぱく質を使った新しいがん治療プロジェクトに携わっていたレリック氏。ハイキング中に出会ったとある男性と会話していたところ、その男性がステージ4の肺がん患者で、余命1年とされていたところ、PD-L1を使った臨床試験に参加し、ハイキングできるまで症状が改善したと語り、PD-L1で話が盛り上がったという。

この男性が臨床試験に参加できた理由が「男性の妻の従兄弟の叔父の姪の友人」が、PD-L1を使った臨床試験を実施している病院に勤務しており、その伝手で、臨床試験に参加できたという。

この話を聞いて、レリック氏が立ち上げたのがAncora.aiだ。同プラットフォームでは、ユーザーが在住する国や隣国の病院で実施されている臨床試験情報を網羅。またAIを活用し、検索のシームレス化に努めている。

メンタルヘルスの本格的トレーニングを提供するHelloBetter

DT50の3つ目の部門「Tech for Good」でもヘルスケア企業が受賞。

この部門で受賞したのが、ドイツ発のデジタル・メンタルセラピー企業HelloBetter。研究で実証された科学的手法を取り入れたメンタルセラピーのオンライントレーニングを提供。コロナ禍で、メンタルヘルスの重要性に関心が注がれる中の受賞となった。

トレーニング分野は、コロナ対策、ストレスマネジメント、うつ予防などの予防系から、不眠症治療、慢性疲労改善、急性うつ治療、アルコール依存治療、パニック障害治療など治療系のものまで様々。

たとえば不眠症改善オンラインコースでは、8週間の間で科学的な研究をもとにした睡眠改善方法を、臨床心理士やメンタルセラピストの指導のもと行っていく。価格は799ユーロ(約9万7,000円)。

クリーンテックにも期待

DT50アワード、4つ目と5つ目はクリーンテック企業のLitionとEnapterが受賞。

Litionはブロックチェーン技術を活用したクリーンエネルギー・マーケットプレイスを提供するドイツのスタートアップ。一方、Eanapterは、モジュラー型水素生成装置を開発する企業。欧州で進むクリーンエネルギー政策、その中心的な役割を担う可能性を秘めるスタートアップといえるだろう。

ヘルステックとクリーンテックは他の国・地域でも関心が高まる領域。欧州以外のスタートアップ動向も気になるところだ。

文:細谷元(Livit

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