2020年10月、ファストファッション産業を代表するブランドH&Mが、スウェーデン・ストックホルムの店舗内にリサイクル施設「Looop」(ループ)をオープンした。古い衣服が新しい衣服に生まれ変わるリサイクルシステムが小売業者の店頭に置かれるのは、世界初の事例だという。

地球規模で環境保護が叫ばれているなか、大量の廃棄物の排出が指摘されているファストファッション産業だが、同社は持続可能なファッション業界への変革をリードしたいと意欲を見せる。

本記事では、ファッション産業が抱える課題、そしてH&Mのリサイクル施設をはじめとした課題解決の取り組みに焦点を当てた。

ファストファッションは「巨大な使い捨て産業」に

1980年代以降、衣類の総量は400%も増加しており、そのうち85%が焼却、あるいは埋め立て処分されている。国民1人あたりの衣類の購入がヨーロッパでもっとも多いとされるイギリスでは、毎年100万トン以上の衣類が購入され、そのうち約30万トンが処分される。

そんな課題意識から、2013年、H&Mは世界的な衣類回収プログラムをファッション小売企業として初めて導入。店頭にリサイクルボックスを設置し、不要になった衣類を消費者から回収して再活用するもので、同ブランドのみならず他ブランドの衣類も回収する。

ナイキ、リーバイス、アディダス、ZARAといった有名ブランドも、ここ数年の内にリサイクルボックスの設置を開始した。リサイクルボックスに集まった衣類の一部は、販売用の古着としてアフリカに送られる。ただし、現地で買い手がいなければ、同様に埋め立て処分されるという。

カナダの公共放送チャンネル「CBC News」のYouTubeより

カナダの公共放送チャンネル「CBC News」の報道によれば、新しい繊維としてリサイクルされる衣類は、全世界のたった1%のみ。多くの衣類は2つ以上の異なる繊維でできた繊維混合物であり、それらをリサイクルするには膨大な費用と時間を要してしまうのだ。

H&Mとその慈善財団は有望なリサイクル技術に投資しているが、規模としてはまだ小さく、2018年時点では同社が使用したリサイクル素材はわずか1.4%だった。これには、コットン、ペットボトルをリサイクルしたポリエステル、ナイロン、ウール、シルバー、ダウンなどが含まれる。

このような実情から、ファストファッションは「巨大な使い捨て産業」と言われるまでにその課題が膨れ上がっている。それでもなお、店頭には毎日のように新しい衣類が並ぶのだ。

業界の変革をリードするH&Mの取り組み

そんななかH&Mが公開したのが、ストックホルムのドロットニンガータン(Drottninggatan)店に置かれたリサイクル施設「Looop」だ。「ファッションのループを閉じる(ゴミや有害物質を外に出さない)」ことを目標に掲げている同社は、「古着にも価値があり廃棄されるべきではない」というメッセージを顧客に視覚的に訴求するため、この施設を導入したという。

これは複数の古着を分解して新しい衣服に組み立てる技術を使用しており、投入された古着は洗浄された後、裁断され新たな糸となり、衣服として再び編み込まれる。強度を保つために純資源もある程度追加されるものの、可能な限り、その使用量を最小限にすることを目指しているそうだ。同システムでは水も化学薬品も一切使用しないことから、ゼロから衣服を製造するよりも大幅に環境への負荷を抑えられるメリットもある。

店舗を訪れた顧客は、コンテナほどの大きさの機械が古着から新しい衣服にリサイクルされる様子を間近で見ることができる。

この革新的なテクノロジーは、HKRITA(香港繊維アパレル研究開発センター)が非営利財団であるH&M Foundationと協力して開発。HKRITAは業界全体の発展のため、広くライセンスを供与すると話す。

同施設の利用料は、H&Mのロイヤリティプログラムのメンバーは100スウェーデン・クローナ(約1,200円)、メンバー登録をしていない場合は150スウェーデン・クローナ(約1,700円)。すべての収益は、素材に関する研究費用にあてられる。

H&Mは、循環型でポジティブなファッション業界の実現に向けて、使用素材をリサイクル、またはサステナブルに調達された素材への切り替えを進めている。2019年には57%を達成し、2030年までには100%の切り替えを目指す。

私たち一人ひとりができることは?

資源の持続可能なソリューションを提供するイギリスの慈善団体WRAPによれば、衣服のサプライチェーンに関わるすべての企業で衣服の寿命が3ヶ月長くなった場合、二酸化炭素、水、廃棄物への影響を3%削減でき、9ヶ月になると最大10%改善するという。

近年、ファッション業界では古着市場が世界的な盛り上がりを見せている。米国の古着売買プラットフォーム「thredUp」では、2014年に北米全域から400万点のリサイクル衣類が集まったのに対し、昨年は2100万点に増加。同社の調査によれば、北米のすべての人が新品の代わりに中古品を1点購入した場合、20万トン以上の廃棄物と260万トンの二酸化炭素を節約することができ、これは50万台の車が1年間道路から消えることと同等なのだとか。

また、オランダのデニムブランド「Mud Jeans」では、リサイクルを前提としたビジネスモデルが採用されており、顧客はアイテムを購入するのではなくレンタルする。毎月9.95ユーロ(翌月からは8.95ユーロ)の支払いを12ヶ月継続すると、その後はレンタルしたデニムを「引き取る」「新しいものと交換する」「返却する」の3つのオプションから選択できる。

流行の移り変わりがダイレクトに反映されるファッションアイテムは、つい今季のトレンドや新商品ばかりが注目されがちだが、持続可能な未来を望むならば、古着やレンタルの活用を当たり前の選択肢として浸透させていく必要がありそうだ。そして、地道ではあるが誰もが手元の衣類をできるだけ長く活用し廃棄の総量を減らしていくことが、一番のインパクトになるのかもしれない。

取材・文:小林香織
企画・編集:岡徳之(Livit