AI導入がうまくいっている企業の割合、世界トップは日本?米リサーチ企業が示す意外な傾向

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AIに関する先入観

ビジネスメディア/ニュースでしばしば「世界で最もAI(人工知能)が普及/発展している国はどこか?」というトピックを目にすることがある。その答えは大抵、米国と中国が他国を大差でリードしているというもの。

しかし、ダイナミックに変化するAIの世界、比較する指標/メトリックやタイミングによって見える景色は大きく異なる。

たとえば、英国のAI投資家らがまとめたAI世界動向レポート「State of AI(2020年版)」では、AI研究においては「米国一強」の状況が示されたところ。

米国リサーチ企業ESI ThoughtLabが2020年9月に発表した調査レポート「Driving ROI Through AI」でも、一般的な認識とは異なるAI世界動向が浮き彫りとなった。

それは、企業におけるAIの導入/成熟度という切り口で見た場合、世界で最も進んでいるのは、米国でも中国でもなく、日本であるということ。一般的な認識は「日本はAI分野で他国の後塵を拝している」というものだが、企業のAIプロジェクトの活発度合いは、日本がどの国よりも高いということが示されたのだ。

AIに関して、米国と中国が圧倒的に先を行くというイメージが刷り込まれているため、なかなか実感がわかない調査結果かもしれない。

以下では、同調査がどのように実施され、どのようなことが明らかになったのか、その詳細を見ていきたい。

米リサーチ企業とAI企業連合があぶり出す意外な傾向

「Driving ROI Through AI」は、ESI ThoughtLabがデロイト、ピュブリシス・サピエント、DataRobot、data iku、CognizantなどAI企業やコンサルティング企業の支援を受け制作した調査レポート。

調査範囲は15カ国・12産業、調査対象企業数は計1,200社、合算売上高は15兆5,000億ドル(約1,600兆円)。調査時期は2020年3〜4月で、企業経営者や役員に対し電話でAIプロジェクトの実施状況などについて聞いた。

同調査でAIの定義に含まれるのは、ロボットプロセスオートメーション、ディープラーニング、自然言語処理、データマネジメント、機械学習、コンピュータビジョン、デジタルアシスタント(チャットボットなど)。

調査の主目的は、企業のAI取り組みの成熟度を4段階に分け、成熟度ごとの企業比率を割り出すこと。成熟度が最も高いグループを「Leader(リーダー)」、それに「Advancer」「Implementer」「Beginner」が続く構図だ。

成熟度を構成するのは「AI Implementation(AI取り組み状況)」と「AI Effectiveness(AI有効性)」の2つの要素。AI取り組み状況に関しては、各企業におけるAI人材育成やマーケティングなど部門別のAI取り組み状況が評価された。一方、AI有効性では文字通り、AI取り組みによるコスト削減/生産性向上などが評価対象となった。

冒頭で述べた日本が米国や中国を超えたというのは、この「リーダー比率」でのこと。つまり、AI取り組み成熟度が最も高いと分類される企業比率が調査対象国の中で最大となったのだ。その比率は24%。

他の国のAIリーダー比率は以下のようになった。

米国(18%)、英国(18%)、シンガポール(18%)、ブラジル(16%)、ドイツ(16%)、カナダ(15%)、インド(15%)、5位メキシコ(14%)、オーストラリア(13%)、中国(12%)、フランス(12%)、オランダ(10%)、北欧諸国(7%)、スイス(6%)。

ESI ThoughtLabは、日本が他国を上回った理由について、「Society5.0」関連の取り組み、少子高齢化/労働力不足懸念などが背景にあると指摘。また、企業規模が大きく、資金力があることも、リーダー比率の高さにつながったと分析している。

日本企業の人材育成文化とAI取り組みの相性

この調査では各国のAIリーダー企業を割り出し、非リーダー企業との比較で、それぞれの傾向をあぶり出している。

AI人材育成に関して、興味深い特徴がいくつか浮き彫りになった。

1つはAI人材の社内育成に関して。

日本を含め調査対象国すべてのAIリーダー企業で70%近い割合が自社でAI人材を育成していると回答したのに対し、成熟度が最も浅いBeginner(ビギナー)企業の回答率は30%以下となった。

AI人材に育成するビギナー企業とリーダー企業違い(「Driving ROI Through AI」より)

これは、AI取り組みのアウトソーシング割合の傾向に合致する。リーダー企業におけるAI取り組みの外注率は30%と低い値だったのに対し、ビギナー企業では70%と高い数値となった。

一方で、新たにAI人材を雇用するという回答選択肢もあったが、リーダー企業では20%台、ビギナー企業でも10%ほどと両者ともに低い値にとどまる結果となった。

産業ごとに違いはあるようだが、総じてリーダー企業ではAI取り組みを進めるために、アウトソーシングでも、新規人材雇用でもなく、社内での人材育成を選ぶ傾向が強いことが示唆されている。

ダイキンのAI人材育成取り組み「ダイキン情報技術大学」は、上記の傾向を端的に示す事例といえるだろう。

即戦力重視の欧米企業とは異なり、日本企業は社内で人材育成する文化を持っている。この文化には一長一短があり賛否も様々だが、企業のAI取り組みの普及/促進においては、好条件になっているようだ。

海外に目を向けて見ると、ダイソンが社内でAI人材やエンジニアを育成するプログラムを開始しており、同様の取り組みが増えてくることが見込まれる。AIリーダー企業比率で、日本は現在のリードを維持できるのか、今後の展開に注目が集まるところだ。

文:細谷元(Livit

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