世界的な環境意識の高まりに伴い、二酸化炭素の排出量を抑えるべく、普段の行動を見直す企業や個人が増えている昨今。シューズブランドの「オールバーズ」など、環境に配慮されたブランドの存在価値も高まっている。

そんな背景を踏まえ誕生したのが、遠隔での植林で森林を復元できるデジタルプラットフォーム「Reforestum」。これは、個人や企業が予算や排出した二酸化炭素量などに応じて世界各地の森にリモートで植林することで、地球環境の保護を目指すものだ。「Reforestum」の取り組みと、それが将来的に地球環境に与えるインパクトを探ってみたい。

世界各地の森林破壊の現状

まずは、農林水産省の外局・林野庁のレポートをもとに、世界各国の森林破壊の現状を見てみよう。

国際連合食糧農業機関(FAO)の「世界森林資源評価2020:Global Forest Resources Assessment2020(FRA2020)」によれば、2020年の世界の森林面積は約40億ヘクタールであり、これは世界の陸地面積の31%に当たる。その半分以上(54%)はわずか5カ国、ロシア連邦、ブラジル、カナダ、米国、中国に分布している。

1990年以降、世界の森林は1億7800万ヘクタール減少しており、これは北アフリカ・リビアの面積(176万平方キロメートル・日本の約4.6倍)に相当する。

1990年〜2020年の森林面積の年間純変化を見てみると、アジアやヨーロッパ地域では森林面積が増加しているものの、南米やアフリカでは大きく減少。減少している地域は主に開発途上国であり、人口増に対応するために森林から農園や牧場への転換が行われている。

長期的な管理経営のための計画を有する森林は世界的に増加しているものの、アフリカでは24%、南米では17%と、森林伐採が目立つ地域は長期的な管理計画を有していないことも明らかになっている。

これらのデータを見ると、失われつつある森林を守るために、個人レベルでも何かしらの努力が求められることは明らかだろう。

リモート植林で「森」をつくり、カーボンニュートラルへ

環境保護デジタルプラットフォーム「Reforestum」は、エコの取り組みを促進したい個人や組織に向けて、リモート植林で自分自身の森林をつくるサービスを提供している。運営するのは欧州投資銀行などから投資を受ける環境団体「Ecosphere+」と「Reforestum」で、このサービスによりカーボンニュートラル(※)を達成することが目的だ。

※カーボンニュートラル…商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して、二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量とがプラスマイナスゼロの状態になること

このサービスを利用する場合、まず「使いたい予算」「毎日の二酸化炭素排出の目安量」「所有したい表面積」の3つのオプションから選択して、選択した項目に応じて植林ができる。

自身の二酸化炭素排出量の目安を知りたい場合は、車・飛行機といった移動手段や何を食べたかなど、いくつかの選択肢から選ぶだけで、プラットフォーム上で瞬時に算出される。

その後、与えられた選択肢から支援したい森を選ぶと、遠隔で植林ができる仕組みだ。現状は、スペイン、インドネシア、ペルーの3地域となっている。例えば、3,135kgの二酸化炭排出量に応じた森を購入する場合、スペインの森が17.63平方米平方メートルで52.9ユーロ(約6,600円)、インドネシアとペルーの森が3.14VCUsで29.63ユーロ(約3,700円)だった。VCUsとは、EU諸国などでカーボン・オフセットに取り組む際に用いられる法制度に基づかない任意的な排出権を指す。

プラットフォーム上では、各森林の雰囲気やそこに住む人々、生息する野生動物の写真などを見ることができるため、森を選ぶ際の参考にすると良さそうだ。

同サービスでは、衛星やレーダー画像のようなリモートセンシングの結果を分析し、二酸化炭素の吸収量を定量化して監視することができるディープラーニングモデルを使用して、数値の検証を行っているとのこと。

また、影響のモニタリングとその結果、保護された樹木、復元されたヘクタール、支援された雇用など、現地での定量化可能な影響を追跡し、支援者に報告しているそうだ。

植林後は、ダッシュボード上で植林した森林や自身の二酸化炭素排出量が可視化できるほか、森林の成長を公にシェアしたり、「Reforestum」内のコミュニティで公開したりして、自身の環境保護への貢献を表明することも可能。企業の場合、社会貢献やSDGsにおける自社の取り組みを世の中にアピールする良い材料にもなりえるだろう。

団体が描く地球環境の未来地図とは

地球の大規模な再植林を通じて気候変動を食い止め、既存の森林を保護する使命のもとに誕生した「Reforestum」。地球上の人口75億人のうち、ごく一部の支援があれば「歴史の流れを変えることができる」と運営者は主張する。

今後、同団体は企業、特に中小企業に向けて、企業が化石燃料に含まれる炭素の価格を会計化し、既存のeコマースシステムに組み込むためのソリューションを開発しており、それにより消費者一人ひとりの炭素価格の設定が実現できる。

顧客に購入の影響について行動を起こす機会を提供することで、各企業が炭素の量に応じて価格を上乗せするカーボンプライシングをスケールアップさせるのが目的だ。これが成功すれば、気候変動を緩和するために必要な規模までの森林保護・再生に到達することができると彼らは話す。

また、彼らは森林の保護と回復だけでなく、地元や先住民のコミュニティに向けて、これまでの生計維持方法に代わる持続可能な生計の開発に取り組むことで、世界中の絶滅の危機に瀕している生態系の森林破壊と劣化の根本的な要因に対処しているそうだ。

2025年までに「Ecosphere+」と「Reforestum」の共同プロジェクトが目指す数値目標は、以下のとおりだ。

  • 200万ヘクタールの森林が保護または復元される
  • 最大20億本の樹木が植林または保護される
  • 3,000万トンの炭素排出を防止または貯蔵
  • 10万~100万人以上の個人ユーザーの獲得
  • 1,000~1万人のビジネスユーザーの獲得

今、多くの個人や企業が地球環境保護を目的に、デジタル化やマイボトル・エコバッグ・自転車の利用等を推し進めていることだろう。それらの活動は保ちつつ、もう一歩踏み込んだ環境保護対策として「Reforestum」の利用が選択肢の一つになるかもしれない。

参照
https://reforestum.com/
https://ecosphere.plus/

取材・文:小林 香織
企画・編集:岡徳之(Livit