東北大学学際科学フロンティア研究所の金子沙永助教(兼東北大学電気通信研究所)と、東北大学電気通信研究所、アバディーン大学の研究グループは、見た目の色の鮮やかさと関連した脳活動を人間の脳波計測によって記録することに成功したと発表した。
この研究により、従来考えられていた反対色による色表現よりも進んだ、ピンクや黄緑などの中間色の情報が脳内の比較的初期の段階に存在することを直接的に示すことができたとのことだ。
同研究に用いた脳波測定は、被験者の負担が比較的少ない簡便な脳活動測定方法であるため、他の手法での測定が困難な赤ちゃんや高齢者、患者、言葉の話せない人などの色の見え方を他覚的に可視化できるようになることが期待できるという。
なお、この研究成果は、神経科学分野における国際的なオンラインジャーナル(学術誌)「Cerebral Cortex Communications」にて10月29日付で公開されたとのことだ。
見た目の色に関する脳内での情報処理の詳細は未だに多くのことがわかっておらず、脳に入った後で色の情報がどのような形で表現・処理されているかは明らかではなかったという。
具体的には、色は目から得られる情報の中でも最も重要なものの一つで、主な処理は脳の中で行われているが、脳内での見た目の色に関する情報処理の詳細は未だに多くのことがわかっていない。
色に関する情報が目から脳へ伝達されるまでの経路では赤-緑と青-黄という,2組の反対色の組み合わせで表現されていると考えられており(例え:紫は赤と青、橙は赤と黄のような組み合わせ)、脳に入った後で色の情報がどのような形で表現・処理されているかは明らかではなかったとのことだ。
同研究グループは、点滅させた図形に色をつけて呈示し、この図形を観察中の実験参加者の脳波から定常視覚誘発電位(SSVEP)という成分を計測。
SSVEPには点滅図形に対する脳活動だけをピンポイントで取り出せる利点があるという。点滅図形の色は、実験参加者が観察している間に赤→オレンジ→黄色…のように連続的に変化し、この色の変化に伴ってSSVEPの強さがどのように変化するかに着目。
従来考えられていたように反対色の組み合わせだけで脳の色情報が表現されていたとすれば、SSVEPの強さは、赤−緑および青−黄の2組の反対色を基軸とする色平面内で、基軸に対して線対称な軌跡になると予測される。
しかし実際に計測された軌跡は、基軸から大きくずれた方向(ピンク−黄緑)にピークを示し、予測と一致しなかったという。
最も強いSSVEPが見られた時の図形の色(ピンクまたは黄緑)は、点滅図形で示した色の中で見た目の鮮やかさが最も高い色と対応。そこで研究グループは、反対色応答の信号のみの計算モデルに見た目の色の鮮やかさをシミュレートした信号を加え、それらの混合比を操作して計算モデルと実験結果との一致度を検証。
その結果、得られたデータと最も高い一致度を示した計算モデルでは、見た目の色の鮮やかさの信号の割合は50%を上回ったという。
このことは、研究グループの方法で計測したSSVEPには主観である見た目の色と深く関連する脳活動が多く含まれていたことを意味するとし、この研究により、従来考えられていた反対色による色表現よりも進んだ、ピンクや黄緑などの中間色の情報が脳内の比較的初期の段階に存在することを直接的に示すことができたとしている。
また、同研究に用いた脳波測定は、被験者の負担が比較的少ない簡便な脳活動測定方法。
このような色情報処理の脳活動を記録する方法の確立により、他の手法での測定が困難な赤ちゃんや高齢者、患者、言葉の話せない人などの色の見え方を他覚的に可視化できるようになることが期待できるとのことだ。