職場以外でも起こる「デジタル・トランスフォーメーション」

最近ビジネスメディアでよく見かけるようになった「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」。それらは、職場・働き方の文脈で語られることが多い。

一方、海外に目を向けてみると、デジタル・トランスフォーメーションは職場・働き方以外の様々な分野で起ころうとしていることが見て取れる。

その1つが「教育」だ。

どの国でも教育は、基本的に政府・公共機関の管轄。政府・公共機関は、民間企業に比べデジタル化が遅れていることが多く、それらの組織・機関が管轄する教育もデジタル化の進展速度は遅い場合がほとんど。

しかし、インドではフェイスブックやグーグルなどのテック大手が現地政府と提携し、積極的に教育のデジタル化を推し進めようとしている。インドを含め世界的に、パンデミックの影響でまだ学校に通えない学生の数は非常に多い。インドでの取り組みは、他国にとってのモデルケースになることが期待されるところだ。

フェイスブック、インド教育のデジタル変革プロジェクト開始

UNESCOの10月14日時点のデータによると、新型コロナの影響により、国全体で学校が閉鎖されているところは34カ国。また、学校が再開されたものの一部にとどまる国の数も非常に多い。学校閉鎖の影響を受けている就学者数は、世界全体の33%、5億7,728万人に上る。

インドでは、1日あたりの感染増加のピークは過ぎたものの、依然1日あたり5万人ほどの感染者が出ており、学校閉鎖が続いている状況だ。影響を受けている就学者数は3億2,000万人。多くの学生の学習機会が失われており、早急な対策が求められるところ。

インドで教育を管轄する政府機関The Central Board of Secondary Education(CBSE)は2020年7月、フェイスブックとの提携により、中等教育過程にいる学生向けに新たなデジタルカリキュラムの提供を開始することを明らかにした。

CBSEとフェイスブックの提携カリキュラムページ

この取り組み、学生らのデジタルセーフティー/オンラインウェルビーイングの向上とAR(拡張現実)に関するトレーニングを通じて、将来の労働市場で求められる知識・スキルを習得させようというもの。

第1段階では、まず学校の教師1万人に対しトレーニングを行う。その後、第2段階でトレーニングを受けた教師らが3万人の学生を教える。同プログラムの期間は3週間。

ARに関しては、フェイスブックのARツール「Spark AR Studio」の使い方を学ぶという。

ARといえば、最近話題となった「マリオカート・ライブホーム・サーキット」に見られるように、ゲーム業界で活用されている印象が強いかもしれない。一方、小売り、自動車、医療などでもAR導入は進んでおり、ARの知識・スキルの習得が労働市場での強みとなるのは間違いないだろう。

グーグルもインドの教育をデジタル変革、5〜7年で1兆円投資も

フェイスブックだけでなく、グーグルもインド教育のデジタル変革に乗り出している。

グーグルは2020年7月にCBSEと提携、2020年中にインド国内の2万2,000校、教師1万人に対し、オンライン学習に関するトレーニングを実施することを発表。同社のG Suite for Education、Google Classroom、YouTubeなどのツールを活用したオンライン学習環境の構築やデジタル教育コンテンツ制作に関わるトレーニングを行うという。

また同時に「グーグル・デジタル化ファンド」という取り組みを通じてデジタルデバイドと呼ばれるネットアクセスなどの格差問題にも取り組む意向も明らかにした。同ファンドは今後5〜7年間で、約100億ドル(約1兆円)を投じ、インド国内のデジタルインフラやデジタルエコシステムの構築・強化を目指す。

The Times of Indiaが報じたところでは、同ファンドが注力するのは4分野。

1つ目は、インド国内のネットアクセスをより手頃にし、国民全員がインターネットの恩恵を享受できるようにすること。また英語だけでなく、ヒンディ、タミル、パンジャブなど、国内で使われている様々な言語に対応できるようにする。

2つ目は、インド国内の特定ニーズに沿ったデジタルプロダクト/サービスの開発。3つ目は、インド企業のデジタル・トランスフォーメーションの支援。そして4つ目には、AIなどの先端テクノロジーを、ヘルスケア、教育、農業などの公共性/社会性の高い分野に活用することが挙げられている。

インド・ネットモバイル協会(IAMAI)のデータによると、同国のネット普及率は2019年時点で33%、約4億5,100万人だった。Ciscoは、この数が2023年に9億人と現在の2倍に増加すると予想している。グーグルのデジタル化ファンドの動き次第で、この予測より早いペースでネット利用者が増える可能性が見えてきた。

インドは若年層が多い国。現在の人口は約13億5,000万人と推計されているが、人口は増加傾向にあり、2050年には16億5,000万人に達し、中国を抜き世界最大になるという試算もある(US Census Bureau予測)。

インドの教育デジタル・トランスフォーメーションは、同国の経済・社会をどう変えていくのか、今後の展開が楽しみだ。

文:細谷元(Livit