ネット利用率11%のパプアニューギニアも変革へ「南国のデジタルトランスフォーメーション」最新動向

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日本や欧米諸国では当たり前となったインターネット利用。これらの国々で今注目されている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、この当たり前となったインターネットを「よりスマート」に活用しようとする試みといえる。

しかし、世界にはインターネットがまだ「当たり前」になっていない国が多数存在する。この問題は「デジタルデバイド」と呼ばれ、持続可能な開発目標(SDGs)の議論の活発化にともない、注目されるようになってきている。

たとえば、現在オンラインで質の高い学習コンテンツが無料で配信されているが、インターネットにアクセスできない人々はその学習機会を得ることができず、SDG1の「貧困解消」やSDG4の「教育の平等」といった観点から問題視されているのだ。

こうした中、いま太平洋の島国で、デジタル化の取り組みが加速しており、デジタルデバイドを解消し、観光産業に依存しない経済構造を実現する動きとして関心を集めている。

日本や欧米諸国とは異なる視点のデジタルトランスフォーメーション。その最新動向をお伝えしたい。

ネット利用率80%以上は60カ国未満、デジタルデバイドの現状

本題に入る前に、世界のネット利用状況について俯瞰したい。日本では、インターネットが生活の一部となっているが、インターネットを好きなときに好きな場所で利用できる環境がある国は実は少数派ということはあまり知られていない。

国際電気通信連合(ITU)のデータによると、2019年時点でインターネット利用率が80%を超える国は世界で57カ国にとどまる。残りの150カ国ほどはネット利用率が80%に満たない状況となっている。

ネット利用率80%未満の国々においても状況は様々。アゼルバイジャン、スロベニア、リトアニア、チェコなど78〜79%と80%に近い国々もあれば、チャド、ブルンジ、ソマリアなど10%未満の国々もあるのだ。

太平洋諸島諸国はどのような状況になっているのか。

日本人に人気のフィジーのネット利用率は50%で世界128位、このほかツバル49%(130位)、バヌアツ26%(171位)、キリバス14%(188位)、パプアニューギニア11%(200位)となっている。

海底ケーブル敷設に電子商取引法でデジタル化促進、南国パプアニューギニアの取り組み

ネット利用率11%のパプアニューギニア。同国の人口は約900万人。ネットにアクセスできる人は100万人ほどしかいない計算となる。

パプアニューギニア首都ポートモレスビー

このパプアニューギニアでは今、デジタル経済促進のためのインフラ/法整備の取り組みが本格化、デジタルトランスフォーメーションのための基盤が醸成されている。

1つは、大容量データ通信を可能にする海底ケーブルの敷設だ。オーストラリアの支援によって昨年8月頃に敷設が完了。もともと中国ファーウェイがパプアニューギニアにおける海底ケーブル敷設を計画していたようだが、不信感の高まりからプロジェクトは頓挫。パプアニューギニアの最大援助国であるオーストラリアが敷設コストの大半をカバーした。同プロジェクトは隣国のソロモン諸島でも実施された。

海底ケーブルの敷設によって、パプアニューギニアの通信量とスピードは大幅に高まることが期待されている。デロイトのまとめによると、通信能力は既存のネットワークに比べ1,000倍増になるという。

法整備に関しては、電子取り引きを可能にする「Electronic Transaction Act(電子取り引き法)」が2020年11月の国会までに可決される見込みだ。これにより、オンライン上での取り引き契約が可能となり、世界のデジタル経済に参加できるようになる。また同時に同国政府は、デジタルバンキングやオンライン支払いの仕組み構築を促進しようとしている。

南国の島国、世界のデジタル経済参加で経済発展

太平洋の多くの島国は、鉱業、農業、観光産業に過度に依存する経済構造。どれも労働者の密集や移動をともなうもので、今回のパンデミックでは大打撃を被った。この経験によって、経済構造変革への意識が高まったことが考えられる。

もともと島国においても経済成長におけるデジタル化の重要性は議論されていたが、ここにきて本格的に動き出す気配を見せている。

世界銀行の推計によると、太平洋諸島諸国はデジタル化を進め、世界のデジタル経済に参加することで、2040年には約30億ドル(約3,200億円)を生み出せる可能性があるという。パプアニューギニアは、太平洋諸島諸国の中で最大の経済規模を誇っており、30億ドルのうち24億ドルを占める。

またこの2040年のシナリオでは、太平洋諸島諸国のデジタル産業で約4万5,000人の雇用が創出される見込みだ。また鉱業、農業、観光産業への過度依存から、BPOなどのグローバル・アウトソーシング・サービス(GOS)の比重を増やし、リスクを低減することが可能となる。

フィジー首都スバ

実際、フィジーに拠点を置くグローバルなアウトソーシング企業もあり、今後デジタルインフラの整備にともない、太平洋諸島諸国への関心はますます高まっていくことが予想される。

これまで経済成長といえば、製造業や重厚長大産業が必須と思われてきた節がある。しかし、こうした産業は環境負荷が大きく、小さな島国には不向き。デジタル経済を通じた別の経済成長モデルを示すことができるのか、南国のデジタルトランスフォーメーションから目が離せない。

[文] 細谷元(Livit

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