スウェーデンは地球環境保護に対し、高い技術や意識を持つ「環境先進国」として知られている。そのスウェーデンが現在取り組んでいるのが「Viable Cities」と呼ばれるプロジェクト。
2030年までに気候ニュートラル(カーボンニュートラル)な都市、つまり二酸化炭素の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロになる都市活動を実現することをミッションに掲げ、自治体や産業界、教育・研究機関、そして市民が一体となり、人間にも地球にも優しい都市の在り方を追求している。
このViable Citiesのミッションを達成するための重要なキーワードが「シェア」だ。今スウェーデンが国を挙げて取り組んでいる本気のシェアリングエコノミー推進策と、その最新事例について見てみよう。
都市全体をシェアリングエコノミー化するスウェーデンの取り組み
スウェーデンで進行中のシェアリングエコノミー推進プロジェクト「Sharing Cities Sweden」は、2021年までの4年間で約15億円の予算が投入されている国家プロジェクトだ。
モノやインフラ、サービスなど都市のさまざまな資源をシェアすることで、無駄や過剰を減らし、環境への負荷を抑えることが狙いとなっている。ストックホルム、ヨーテボリ、マルメ、ウメオの4都市では、実際の街を舞台に、都市の構造自体にシェアリングエコノミーを埋め込むための大規模な実証実験が行われている。
その中のひとつ、ストックホルム南部の街Hammarby Sjöstadでは、都市生活の中で資源をシェアしやすくする仕組み作りのトライアルが進行中だ。
例えば、通勤や子どもの送り迎えに無料で使える電動自転車のシェアサービスを整備して、自家用車の保有・利用の必要性を減らす。地域や集合住宅に「エネルギーマネージャー」のポジションを作り、電気やガスなどを最も効率的に使えるような集中購買の契約を電力会社と結びなおす(スウェーデンには100以上の電力事業者が存在し、契約や料金形態も複雑になっている)。デジタル技術を活用して地域の情報プラットフォームサービスを開発し、リアルタイムで街の情報をシェアできたり、ご近所同士で物の貸し借りが簡単にできるようにする。
このようにHammarby Sjöstadでは、50以上の企業や団体が参加し、SDGs(持続可能な開発目標)の実現へ向けて、約30ものプロジェクトが同時並行で進行中だ。「シェア自転車を整備する」といった単発の施策ではなく、あらゆる面から環境負荷を考えたアプローチをすることで、都市全体を「シェアラブル化」しようという取り組み方が、スウェーデンのシェアリングエコノミー推進策の特徴だ。
シェアできるあらゆるものが地図上に表示される「Smarta Kartan」
都市のさまざまな資源を多くの人がシェアしやすくする仕組みとして、ヨーテボリでは「Smart Kartan(スマートマップ)」というプラットフォームアプリが開発された。
このアプリでは、レンタルスペースやカーシェアのサービスから公共の水飲み場に至るまで、市民が「シェア」できるあらゆる情報がマップ上に掲載されている。モノやサービスだけでなく、経験やアイディアをシェアするソーシャルグループの活動情報も載っている。
さらにこのSmart Kartanアプリはオープンソースになっており、他の都市も無料で自分たちのローカル版を作ることができる。アプリという資源もシェアするのがスウェーデン流だ。
おもちゃや子ども用品をシェアするおもちゃ図書館「Leksaksbiblioteket」
もう一つヨーテボリ発のサービスで注目を集めているのが「Leksaksbiblioteket(おもちゃ図書館)」だ。2018年にオープンしたスウェーデン初のおもちゃライブラリーで、0〜7歳までの子ども用おもちゃや自転車・コスチュームといった子ども用品を取りそろえる。
おもちゃ図書館の会員になると、子ども一人につき2点までのおもちゃを4週間借りることができる。子どもの成長と共に遊ぶおもちゃもどんどん変わっていくが、それを毎回買うのではなくシェアしていこうという取り組みだ。もちろん取り扱うおもちゃは、環境への配慮がされたメーカーのものが選ばれている。
おもちゃ図書館の会員は、おもちゃ図書館の運営作業やイベントの手伝いなどのボランティアを行い、決められた時間分を貢献することが求められる。作業だけでなく、専門的な知識を提供したり、自らイベントを企画開催する形での貢献も認められている。おもちゃを借りる対価として、親の時間やスキルといったリソースをシェアするのがおもちゃ図書館の仕組みだ。もしボランティアとしての貢献が難しい場合は、年会費を払う形での利用も可能になっている。
オフィスだけでなく作業の場もシェアできるコミュニティスペース「Stpln」
オフィスをシェアするコワーキングスペースは、日本も含め世界各地に定着しているが、マルメにある「Stpln」は、作業の場もシェアできる一風変わったコミュニティスペースだ。
例えば「バイクキッチン」では、誰でも無料で自転車を修理したり、組み立てたり、リノベーションしたりできる。用意された工具で自分の自転車のちょっとした不具合を直したり、分からないことがあれば詳しそうなまわりの人に聞いてみたりと、「自転車修理」という特定の場をシェアすることで、不便が解決するだけでなく新たなコミュニケーションも生まれるようになっている。
他にも暗室などの設備がシェアできるカメラ好きのためのラボや、壊れた電化製品を持ってきて修理に挑戦してみる修理カフェなども設けられている。特定の場を作ることで、これまでお金を払って専門業者に依頼するか、諦めて捨てていた状態のモノを、まわりの人と知識や経験をシェアしながら、自分の力で再生にトライできる仕掛けだ。
Sharing Cities Swedenの関係者は「気候ニュートラルなゴールを目指すことは、同時に人びとの信頼や協調を強め、健康やウェルビーイングにも貢献する」と、その効用を強調する。
たしかにモノやサービスなどの資源をシェアすることで、新たなコミュニケーションや地域での一体感が生まれやすくなるだろう。さらに日常生活の中で環境負荷を意識することで、一つ一つの行動と丁寧に向き合うことになり、自分の価値観やあるべき姿を見つめなおすきっかけになるのかもしれない。
環境先進国スウェーデンが、シェアリングエコノミーを通して、人間にも地球にも優しい都市をどのように実現させていくのか、世界の注目が集まっている。
文:平島聡子
企画・編集:岡徳之(Livit)