コロナ禍で伸びる物流と雇用
自宅まで商品を届けてくれるさまざまなサービスは、もはや生活に欠かせない存在になっている。大きな家電から小さな生活用品まで、インターネット上で注文してしまえばなんでも家に届けてくれる時代だ。
そしてそれは、コロナ禍での巣篭もり需要の影響からますます加速している。国土交通省のトラック輸送情報によると、2020年6月の宅配貨物の取り扱い個数は3億9,972万7,000個で、前年同月比で17.6%の伸びを示した。
また下記グラフからわかる通り、トラックドライバーの求人数はコロナ禍に入ってから右肩上がりと、雇用の側面から見てもその変化は著しい。
今回はいま大注目の業界である「物流」と、「ギグワーク」をテーマにお話しする。「人手不足の解消」という点以外に、ギグワークが業界にもたらしうる価値について考えていきたい。
シャワーやカフェまで。働きやすい環境に変わった物流倉庫
物流倉庫と聞くと、狭い、暗い、汚い…といったイメージを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。これまで物流倉庫での勤務といえば、「3K」の現場である印象は否めなかった。
帝国バンクによる2020年1月時点での調査では7割近くの運輸・倉庫企業が「従業員が不足している」と回答した。コロナ禍のいまでこそ人手不足感は落ち着いているものの、昨今のEC需要の高まりから、物流業界では人手不足が深刻な課題であった。物流業界へのイメージが、ひとつの要因であることは否定できないだろう。
そんなイメージの刷新と働きやすい環境作りのために、企業は職場改善の努力を惜んでこなかった。カフェやパウダールーム、無料のソフトドリンクなどを完備した倉庫。
シャワー室やコインランドリーを設け、宿泊施設こそないもののまるでホテルのような設備の倉庫。子供のいる方にも働いてもらえるように託児所を併設した倉庫など、働きやすい環境づくりに邁進する企業は多い。(日本経済新聞「カフェや託児所併設、『働きたくなる』物流施設が続々」)
先日、スキマバイトアプリ「タイミー」を通して物流倉庫で働いた際に、企業による環境整備の実態を実感した。清潔な倉庫内に完璧に管理された空調と、なにより優しく迎えてくれる現場の方々。自分の「物流倉庫へのイメージ」がアップデートされていなかったことを痛感させられ、物流倉庫に対するイメージが完全に変わった経験だった。
長期採用の前の「お試しバイトに」
一方で、こうした企業努力を対外に知ってもらえる機会は少ない。企業側が自ら発信しても、その情報に触れてもらえるのは、もともと物流業界に興味がある人にとどまってしまう。物流企業で働くことが選択肢にないない人や、自分がどの業界で働きたいのかまだ定まっていない学生には届きにくい。
こうした企業の取り組みについて知ってもらえるきっかけになるのが、ギグワークである。ギグワークとは、一回一回の契約に基づく単発の仕事のことで、好きなタイミングに好きな時間だけ勤務できる形態のことを指す。
ウーバーイーツ配達員が、ギグワーカー(ギグワークに携わる労働者のこと)の一例として挙げられる。ギグワークにおける労働者の利点は、好きなときに好きなだけ働ける点だけではなく、さまざまな業種・職場での仕事を体験できる点もそのひとつだ。
ギグワーカーが使用するのは、スマートフォンアプリが多い。例えば、アプリ上に飲食店やコンビニエンスストア、物流倉庫などのさまざまな業種の仕事が表示され、アプリユーザーはその中から自由にアルバイトを選べる仕組みだ。
従来の派遣企業のように、面接や登録会への参加が必要ないぶん、手軽に働くことができるので、物流倉庫での仕事も「数時間だけ試してみよう」と勤務までのハードルがかなり低くなっている。
自社の取り組みを情報として発信するよりも、実際に働いてもらった方が職場の魅力も伝わりやすく、ギグワーカーとの一回一回の出会いは自社をアピールするチャンスとなりうる。魅力的な職場環境作りを押し進める企業にとって、ギグワークの導入は新しい人材を確保するチャンスになるかもしれない。
文:小川 嶺