今、ドローン物流が超えるべき課題とは。「Amazon Prime Air」など世界で動き出すサービスの現在地

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AmazonやWalmart、世界で動き出す「ドローン宅配」

日本をはじめ世界各地で実証実験の段階で停滞していたドローン物流(drone logistics)がコロナ禍で需要が一気に高まり、次々と実用段階に突入している。

ドローン物流はこれまで、主に山間部や離島など通常の方法では時間がかかる場所へ商品を短時間で運ぶことを目的にサービスの開発が進められていた。荷物を運べるようなサイズのドローンを飛ばすには、高度や目視内での飛行など様々な規制があるが、医薬品や緊急必需品の配送に目的を絞り込む建て前で特別に飛行許可を得るケースが多い。

例えばスイスの公共機関であるSwiss Postは、2015年から血液サンプルなど医薬関連物資を対象にしたドローン配送に取り組んでいる。配送エリアは制限があるものの、車で45分かかる場所へ数分で荷物を届けるシステムを実現している。

サンフランシスコに本社があるZiplineは、カタパルト発射させるユニークなドローンで医薬品を届けるサービスをルワンダをはじめとするアフリカ国内で展開している。並行して進めていた米国内での展開は2018年から試験を開始したもののなかなか許可が下りなかったが、今年10月から米ノースカロライナ州で医療品の配達事業を開始する。コロナ禍の影響で当初の予定より半年も前倒しになった形だ。

しかも、米国の大手小売店のWalmartと組んで医療品以外の配達も開始する。Walmartはそれまで自社倉庫内でドローン運搬を活用していたが、いきなり宅配ドローン市場に参入したのはやはりコロナの影響だろう。

ドローンによる配送プログラム「Amazon Prime Air」を2013年から発表していたAmazonも、米国内でいよいよサービスを開始する。専用の宅配ドローンを複数開発するなど早くから力を入れており、2016年末に英国で初サービスを開始したものの、米国内ではなかなか計画は進んでいなかった。

この9月にようやくFAA(米国連邦航空局)から航空運送業者証が発行された。米国内ではスタートアップのWingと宅配サービスのUPSに続く3つ目の業者となる。

宅配ポストで全自動の配達システムも登場

米国内で日用品をドローンで配送するサービスは、Googleが2014年にプロジェクトを開始し、現在はAlphabet傘下で独立しているWingが2019年からすでに運用を始めている。だが、一度に運べる荷物が少なく、利用できるエリアも限られるため採算をとるのは難しいだろうと言われていた。

しかし、コロナ禍で需要が大幅に増え、今後は人材不足のカバーと非接触(コンタクトレス)の両面からドローン物流ビジネスの動きはますます加速すると見られている。

調査会社のガートナーによると、ドローンは宅配バンより70%低いコストで荷物を配送できるとしている。課題は目的地へ荷物を届ける方法で、空中から荷物にパラシュートを付けて落とすZiplineや、ロープで吊り降ろすWingの他に、いろいろな手法が開発されている。

Workhorseは荷物を運ぶ電動トラックとラストワンマイルで空から荷物を届けるドローンを組み合わせた自動物流システムで特許を取得している。将来的には自動運転車を利用し、環境へも配慮する物流を進めようとしている。

サービスを利用しやすくするアイデアとしては、荷物を預けるとその中に待機しているドローンが自動配送するシステムも開発が始まっている。シカゴのValquriはコンテナのような宅配用ドローンステーションによる新たな物流サービスの提供を目指している。前述のSwiss Postが採用しているドローン物流プラットフォームのMatternetは、デザイン性にも配慮した「Smart Drone Delivery Mailbox」を発表し、注目されている。

ラストワンマイルは空と陸の両方で競争がはじまる

これまでドローン物流の許可がなかなか下りない理由としては、悪天候や落下事故への懸念があった。人口が密集する住宅地へ空から荷物を届けるにはリスクが高いため、配達所から顧客へ荷物を届けるラストワンマイルをロボットで運ぶというアイデアが先行して始まっている。

人の手を介さず自律移動するという点はドローンもロボットも同じだ。道路を横断したり自動車や歩行者を避けたりして、安全に商品を届けるロボットはフードデリバリーを中心にすでに数多く登場している。

Amazonの「Scout」は、Googleらが実証実験に参加して進めていた6輪式の自走式宅配ロボット「Robby 2」をベースに米国内でサービスを始めている。大手宅配企業のFedExがAmazonと競って開発する「Roxo」は、もう少し背が高く、機動性や耐久性も優れているように見える。

元Googleの社員が立ち上げたnuroはまだ実証実験中だが、使用されている技術は自動運転車そのものだ。中国でもコロナ禍で自動配達ロボットの普及があちこちで進んでいる。日本でも宅配ロボットの「Deliro(デリロ)」など全国各地でスタートアップが参入し、実証実験が行われている。

Continental AG

ドローンとロボットと全自動運転車の3つを組み合わせた、究極ともいえる全自動配送サービスのアイデアもすでに発表されている。ドイツの自動車部品製造メーカーのContinentalは、ソフトバンクが販売する四つ足ロボットの「Spot」を宅配に活用する技術を2019年のCESで発表し、話題になった。

物流の新たな手段になる日も近い

ドローン物流は輸送会社も主要手段としてドローンの開発とあわせて力を入れはじめている。人を乗せるパッセンジャードローンを開発するBELLは、大容量輸送ドローンをクロネコヤマトと開発している。以前にも紹介したUberも宅配ドローンを開発しており、今後も多くの企業が参入すると見られている。

最大6000ポンド(約2700kg)の積載量を持つヘリコプタードローン「Nuuva V300」は、電気エンジンで低燃費な完全自飛行が可能で、輸送手段としては現在のヘリコプターよりも10倍も経済的だという。安全性と信頼性も高く滑走路を必要とせずどこでも飛ばせることから、次の物流手段として期待されている。

カーゴタイプの大型航空機を無人で飛ばす長距離無人ロジスティクスは、二酸化炭素排出量、リスク、およびコストの削減といった面からも、今後重要な市場になると予想されている。そうした動きを見据えてか、空港が物流ドローンの離着陸を受け入れるという話も出ている。

技術は揃った。あとの課題は航空法の規制緩和だろう。日本の場合は自治体が特区を利用して実証実験を行うケースがあちこちで見られる。今夏には神戸市が中心街のすぐ裏にある六甲山頂へ荷物を届ける手段として、麓から山頂までの空の道を確保し、複数の商品も混載して効率良く運ぶという実証実験を成功させ、サービスの実用化に一歩近付けた。

民間ではKDDI、楽天、ANAなど数多くの企業がドローン物流の実用化に向けて実証実験を積極的に進めている。コロナや人手不足、買い物難民といった問題を解決する一手段として、ドローンを活用しようとする動きは国内でもまちがいなく進んでいる。

いずれにしても、ドローンが物流手段のひとつとして定着するのはそう遠い話ではなさそうだ。

文:野々下裕子

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