ロジスティクス4.0で描かれる新たな成長図。物流業界に与える創造的革新

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ロジスティクスによる大量輸送時代の幕開け

「ロジスティクス」という言葉は、元々は「兵站(へいたん)」を示す軍事用語だった。

即ち、軍事活動を展開するために必要な人員、兵器、装備、食糧などを管理し、必要な場所に補給・輸送する機能と捉えられる。古代から現代に至るまで、軍事活動におけるロジスティクスの重要性は些かも変わりがないといえよう。

19世紀後半になって、ロジスティクスという言葉が経済活動でも用いられるようになった。ロジスティクスにおいての第1の革新である「輸送の機械化」が世界経済に大きなインパクトをもたらした結果だ。

古来、大量・長距離輸送の要は海運を中心とする船舶に委ねられてきたが、鉄道網の整備、トラックの実用化により、陸上での輸送力が格段に強化された。一方で、船舶に関しても汽船/機船の普及により、運航の安定性が大きく向上した。ロジスティクスにおける20世紀は、大量輸送時代の幕開けであったといえる。

第2の革新は、1950年代からの「荷役の自動化」である。第二次世界大戦中、まさに兵站を支える荷役車両として活用されたフォークリフトは、戦後、荷役資材であるパレットとともに、物流の現場に普及していった。

1960年代に普及した海上コンテナも荷役作業の効率化に大きなインパクトをもたらした。船舶への荷物の積み込みに要する時間は10分の1に、必要な人員数は5分の1にまで減少したのである。1960年代後半には、自動倉庫やマテハン機器といった物流センターでの荷役作業を自動化する機械・システムの活用も進んだ。

第3の革新は、1970年代からの「管理・処理のシステム化」である。WMS(Warehouse Management System/倉庫管理システム)やTMS(Transport Management System/輸配送管理システム)といったITシステムの活用が広がることで、在庫や配車などの物流管理の自動化・効率化が大きく進展した。NACCS(Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System/輸出入・港湾関連情報処理システム)を始めとするインフラシステムの整備が進んだのもこの時代である。

このようにロジスティクスは「兵站」から時代の変化・進化と共にアップデートをし続け、現代に至る形となった。

Logistics 4.0がもたらす「省人化」と「標準化」

そして、現下、進みつつある第4の革新こそ、「Logistics 4.0」である。IoT、AI、ロボティクスといった次世代テクノロジーの進化と、活用の拡大は、ロジスティクスの根幹を変えようとしている。

「省人化」と「標準化」による「物流の装置産業化」が起きつつあるのだ。

「省人化」とは、ロジスティクスの各領域において「人の操作や判断」を必要とするプロセスが大きく減少することを指す。

例えば、自動運転が実用化すれば、ドライバーがいなくても荷物を届けられるようになる。小口の宅配物はドローンで運ばれるようになるかもしれない。ロボットの性能が向上すれば、倉庫の中で荷物を棚から取り出したり、梱包したりする作業は、「人の仕事」ではなくなる。

つまるところ、物流オペレーションの主体が人から機械・システムに置き換わるわけだ。その機械・システムを購入しさえすれば、誰でも同じことができるようになる。「人や会社によるオペレーションの差」は限りなく小さくなるはずである。

「標準化」とは、ロジスティクスに関するさまざまな機能・情報がつながることで、物流会社や輸送ルート、手段などをより柔軟に組み替えられるようになることを指す。例えば、トラックや倉庫を複数の荷主が共用することも遙かに容易となる。サプライチェーンの上流から下流までの情報がつながれば、在庫や機会損失を極限まで減らせるはずだ。多様な選択肢の中から最適なルート、輸送手段を選び出す役割はAIが担うようになる。

物流会社としては、この機能・情報のネットワークにつながっていることが必須となる。つながっていなければ、選ばれなくなるからだ。より多くの荷主、物流会社と機能・情報を共有できる「オペレーションの均質性・柔軟性」が問われるようになるだろう。

「省人化」と「標準化」が進むと、物流は装置産業化していく。「新しいサービスを設計する」、「対面でのコミュニケーションを必要とする」、「不測の事態に対応する」といった、人の英知や存在が重要であり続ける領域もあるが、「運ぶ」、「荷役する」、「梱包する」、「手配する」といった基本オペレーションは、「人の介在をほとんど必要としないインフラ的機能」となるからだ。

「Logistics 3.0」までは、特定の作業、プロセスを対象とした機械化であり、自動化であり、システム化だった。結果として、物流がより便利な存在となり、その機能が増強されることで、経済成長にも貢献してきたといえる。しかし、結局のところ「動かすのは人」だった。第3の革新を経ても、物流は労働集約的なビジネスであり続けたわけだ。

次なるGAFAも夢ではない

「Logistics 4.0」も、物流をより便利にするイノベーションであることに相違はない。だが、装置産業化が進むということは、従来の労働集約的なビジネスでは立ち行かなくなることを意味する。人的リソースに依存しないビジネスモデルへの進化を果たそうとしているのだ。その非連続な変化の先にある未来をいち早く創造できれば、次なるGAFAとなることも決して夢物語ではない。

GAFAを構成する、Google、Apple、Facebook、Amazonの4社は、ITの進化を見据えたビジネスモデルを先んじて構築し、現在の支配的地位を得ることに成功した。ロジスティクスの世界でも、かつてのITの進化に匹敵するイノベーションが起きようとしているのである。

「Logistics 4.0」は、物流会社にとって、いままでのビジネスモデルに対する「破壊的脅威」であると同時に、いままでにはない飛躍的成長の実現に向けた「創造的革新」の契機ともなるはずだ。物流ビジネスへの参入を企図する荷主やメーカーからすれば、またとない好機になる。物流の世界において過去にはなかった「破壊と創造による非連続な成長」が現実化しつつあるのだ。

「Logistics 4.0」の本質と展望を的確に理解し、パラダイムシフトをビジネスチャンスと捉えて新たな成長の絵姿を描いていくことが枢要といえるだろう。

文:小野塚 征志

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