「オンライン演劇」でエンタメはどう変わる? リアル脱出ゲームの運営会社が仕掛けるZoomを活用した「SECRET CASINO」の可能性とは

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誰かと気軽に対面することが難しくなった昨今、オンラインライブ・フィットネスなど、オンラインでエンタメを楽しむ動きが加速している。そんな環境下で好評を得ているのが物語の中に入り込んで没入体験が味わえる「オンライン演劇」だ。

今回取り上げるのは、「リアル脱出ゲーム」を企画運営する「株式会社SCRAP」が手掛けるオンライン演劇『SECRET CASINO』。好評につき8月28日から9月27日まで再演が決定、堀江貴文氏も「おもしろかったし感動した」とツイートするなど、気になる要素が多いこの作品について、ネタバレを含まない体験談と株式会社SCRAP 執行役員であり、『SECRET CASINO』のコンテンツプランナーでもある、きださおりさんの取材を交えてお届けしよう。

参加者の「言動」によって物語の結末が変わる

本公演で使われているツールは、オンラインミーティングやイベントなどでおなじみの「Zoom」。指定のリンクをクリックすると、YouTubeの映像が現れ、映像内で表示された秘密のパスワードを入力すると、オンラインナイトパーティの会場に移動できる。

この演劇には、以下のコンセプトが存在する。

「あなたは、とある依頼を受けてこのパーティに潜入することになった。依頼主の正体は不明。依頼の内容、それは「このパーティの秘密を探り当て、誰も死なせないこと」だった」

なんだかミステリアスな雰囲気が漂うが、これだけ聞いてもよくわからない。物語が後半に差し掛かるにつれて、このミッションの意味がつかめてくるはずだ。

オンラインナイトパーティ会場ではディーラーの女性が待機していて、場を盛り上げている。参加者は最初の時点ではミュート状態が求められるが、ディーラーが参加者に話しかけたタイミングで、ミュートを解除して会話することが可能になる。

通常のオンラインイベントでは、一度画面に入ると基本的にそこから抜けることはないが、『SECRET CASINO』の場合は、カジノルーム、BAR、ライブルーム、マジックルームがあり、気分によって場所を変えながら空間を楽しむことができる。

この「空間を移動する操作」に慣れるまで、最初は少し戸惑うかもしれないが、一度要領をつかめればスムーズになるはずだ。

しばらくは、この4つのルームを移動しながらパーティーを過ごすことになり、すっかり与えられたミッションを忘れそうになるものの、物語が動くのは中盤から。

ここからの展開はネタバレになるため触れることはできないが、それまでの和気あいあいとした空気感から一転して、猛スピードで展開していく。物語の結末は、その公演の参加者に委ねられるため、ぜひ画面越しの世界に没入しながらストーリーを引っ張る体験をしてみてほしい。

どうしたら画面越しに没入体験を得られる?

今回、筆者自身がイベントに体験してみて感じた「オンライン演劇」を楽しむヒントをあわせてお伝えしたい。

1. 部屋を薄暗くして、お酒を片手に参加しよう

劇場で上映される演劇では音声や照明などを含めて空間に丸ごと浸ることができるが、オンラインの場合、画面以外の空間は自分で調整することになる。少々ミステリアスな演劇なので、それにあわせて部屋の照明を落とすと共に、お気に入りのお酒やおつまみを用意して、ほろ酔いぐらいで楽しんでみては。友達、恋人、家族と一緒に参加しても良さそうだ。

2. ビデオをオンにしてコミュニケーションを取ろう

ビデオはオフの状態でも参加できるが、主催者は「ドレスアップしてビデオをオンにして参加すること」を推奨しており、実際にそのほうが物語に入り込みやすい気がした。素顔を出すのに抵抗がある場合は、仮面やサングラスを付けてみるのもアリ。実際、そういった参加者もチラホラ見かけた。

3. 仕込まれた「小ネタ」に注目しよう

ネタバレになってしまうのでくわしくは書けないが、イベント終了後にアクセスできる「分析ページ」を読むと、実はいたるところに小ネタが仕込まれていたことが判明。注意していないと見過ごしてしまうが、ストーリーや演出に集中して観ていると、ふと違和感が湧き起こり、その違和感こそが秘密を解き明かすカギになるはずだ。

制作者が語る「オンライン公演」の可能性

きださんが手掛けた東京ミステリーサーカスでのイベント「不思議な晩餐会へようこそ」のイメージ

執行役員、兼コンテンツプランナーとして『SECRET CASINO』を引っ張るきださんは、リアル脱出ゲームなどの体験型イベントを多数手掛けており、日本のみならずアメリカやシンガポールといった海外でもイベントを開催してきた人物だ。

「学生時代から音楽やライブイベントが好きで、特に“予測しないことが起こる”ライブ感と、演者と観客の境目がなくなって、みんなが混ざり合って一つの熱狂を楽しんでいる瞬間に魅力を感じました。アリスが迷い込んだ世界のような、隠し扉の先にあるBARを探すみたいな行動にテンションがあがる人間で、自分もそのような体験を作ってみたい!との思いが、今の仕事につながっていきました」(きださん)

きださんが手掛けた東京ミステリーサーカスでのイベント「不思議な晩餐会へようこそ」のイメージ

これまで劇場や街、テーマパークといった“現場”中心にイベントや没入体験を展開してきたきださんだが、舞台をオンラインに移したことで、どのような発見があったのか尋ねてみた。

「お客様に楽しんでいただくための『地面が広がった』ことは、大きな可能性でした。時間や交通費をかけて現場に来てもらう必要がなくなり、世界中どこにいても参加できる。加えて、リアルでやるよりおもしろいギミックや企画を実現できて、没入体験を考える際の幅が広がったなと思っています。

一方で、難しさとしては、その場に人が集まることで生まれる熱気のようなものをオンライン公演でも維持できるか。現場なら薄暗い空間にカジノ台を置いて、生演奏で盛り上げて、と一歩入った先から世界観を作れるのですが、オンラインでは少し目をそらせばデスクに置かれた本が目に入ったり、公演とは関係ないメールが来たりもします。

様々な現実が見えてしまう空間だからこそ、“そういった状況も全部ひっくるめて自然なシチュエーション”を考える難しさもありました。けれど、現実と地続きという空間を味方につけられれば、会場にお越しいただく以上の効果を発揮する。そこはオンラインならではのおもしろさだと感じます」(きださん)

きださんは実際のホテルに泊まりながら体験できるイマーシブシアター「泊まれる演劇」の脚本・演出も手掛け、SNSを中心に話題を呼んだ。オンラインで楽しめる演劇に加え、宿泊施設、レストラン、交通機関など、日常で触れている場所から地続きではじまる体験をもっと作っていきたいと意欲を見せている。

エンターテイメントは不要不急ではないかもしれないが、私たちの人生を豊かにしてくれるものであり、誰かにとっては生きがいにもなりえる。演劇や体験型イベントが今後どんな進化を見せるのか期待したい。

取材・文:小林 香織

<取材協力>
株式会社SCRAP
SECRET CASINO

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