米国では9月が新学期が始まる時期。しかし、コロナの影響でほとんどの大学はオンライン授業が主流になる見込み。教室で対面授業を行うことを計画している大学の割合は全体の2.5%にとどまるといわれている。
一方、オンライン授業を望む学生は少なく、オンライン授業が続くのであれば、「ギャップイヤー」、つまり休学を選択する学生が増えているようだ。このギャップイヤーを選択する学生の獲得競争がスタートアップの間で激化しているといわれている。
ギャップイヤーとは
米国や欧州では高校や大学を卒業したあとに、「Gap Year(ギャップイヤー)」、一定の自由に動ける期間を設けたり、休学期間を持ったりすることが一般的である。
その期間、学生はただ次のキャリアへとすぐに進んで、進学や就職するのではなく、自分のやりたいことを見つけたり、経験を積むことを目的に海外に短期留学したり、1年休学して長期留学やボランティア、バックパッカーとして長期旅行をしたり、アルバイトや企業インターンをしたりして過ごすのである。今までは国外に移動し主に語学習得目的の留学などをする学生が一般的であった。
留学エージェントのEFの調査した2018年のデータによると、米国で学生一人当たりにかかる学費は、州立大学で平均25,546USドル(約270万円)、私立大学で34,636USドル(約367万円)かかったとされている。地方差もあるが、これらの気が遠くなるような金額を果たしてオンライン授業を受けるために使う意味があるのだろうか。
そこでこのコロナ禍で学生の選択肢として浮上したのが、ギャップイヤーだ。
海外に留学やボランティアなどに行けるわけでもなく、そしてオンライン授業を強いられる現実。
日本とは比べものにならないほど学費が高い米国。そして、健康上の問題を危惧して対面授業を希望しない学生も多く、ギャップイヤーをとって家から在宅インターンとして働く学生が増えてきているのだという。
ギャップイヤーの学生を狙うスタートアップ
その学生獲得にシリコンバレーのスタートアップが躍起となっているというから、驚きだ。夏前からオンライン授業を受けたくないと考えている大学生を視野にいれて在宅インターンを募集にかける企業もいるほどだ。
スタートアップ・アクセラレーター(スタートアップのビジネス拡大に焦点を当てた資金投資やノウハウなどのサポートを短期で行う組織)のY Combinatorがまとめた資料によると、シリコンバレーの多数のスタートアップが秋のインターンの採用を検討しているという。
たとえば、サンフランシスコのベンチャー企業のNeoが主催したオンライン企業フェアには、120人の在宅インターンの学生の候補を求めて多分野にわたる企業が参加するという。また別のベンチャー企業であるContrary Capitalは学校を休学して起業する若者たち、計5チームに10万USドルを投資すると発表している。
この厳しい状況下で人とコネがあって自発的に動くことができる優秀な若者を他の企業が見つける前に自分たちが見つけたいと思う企業が多い、ということなのだ。
NeoのAli Partovi氏によると、Neoのインターン・プログラムに参加する120人の学生にアンケートをとった結果、全体のうちの46%がギャップセメスターをとり(学期単位で休学する)21%がギャップイヤーをとる(1年単位で休学する)ことに興味があると答えたという。
ちなみに、Ali Partovi氏はイラン系アメリカ人。ハーバード大学でコンピューター・サイエンスを学び1994年に卒業。
9歳のときに父親にパソコンを与えられ、ゲームで遊ぶためにゲームをプログラミングをするところから始めていたという彼は1998年から2017年の19年間にAirbnb、Dropbox、Facebook、Uber、Zapposなどに勤務。Dropboxでは
2006年から2018年までの12年間、顧問として尽力。さらには2013年1月には双子の兄弟であるHadi Partovi氏とCode.orgを創業した。
そして、2017年7月にメンターシッププログラムを提供するNeoを立ち上げたのだ。
「シリコンバレー最新のユニコーン」と呼ばれるScale AI Inc
同じくスタートアップのScale AIの創業者兼CEO、Alexandr Wang氏は在宅インターンについて、「現在大きな変化が起きているかもしれない。もし自分たちが求めるぴったりな人材を見つけたら、ギャップイヤーの学生を最大10人雇うだろう」と発言している。
Alexandr Wang氏は、ニューメキシコ州出身の中国系アメリカ人。誰もやりたがらないタグ付けの単純労働をコーディングの技術で数時間から数分に短縮し、1億ドル(約106憶円)の大型投資を手にしたという、注目企業だ。
Wang氏は、高校在学中からコーディングコンペでその才能はすでに見いだされ、企業から採用オファーが舞い込んだという。その後、マサチューセッツ工科大学に入学したものの中退し、カリフォルニア州のQ&Aのプラットフォーム「Quora」に入社、2年間リードエンジニアと活躍したのち、2016年6月に19歳で「Scale AI」をサンフランシスコで立ち上げた。22歳で評価額が10億USドルを超え、シリーズC(スタートアップにおける最終投資ラウンド)調達完了した。
そんなWang氏は、今回在宅インターンのオファーをした学生と話した結果、今年度の大学に残り学生生活を送ることは「Sub-optimal」、つまり最善の策ではないと判断している。
「多くの学生がギャップイヤーをとることを考えている一方、企業もそれに応えたいと思っている。もし1年後に採用したいと思う人物なら、今すぐに採用するべきなのだ」とも語っている。
このコロナ禍は誰も経験したことのない世界だ。それは学生にとっても同じ。「普通」が「普通」でなくなるすべての価値観が壊れた時代の中で、学生と企業がどのような選択をしていくのか、今後の展開に注目したい。
文:中森有紀
企画・編集:岡徳之(Livit)