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パンデミックによる食料サプライチェーンへのインパクト
パンデミックによって経済・社会の様々な側面が大きく変化した。目に見えるところでは、働き方やメディア消費の変化などが挙げられる。
一方、一般消費者の目に見えない部分でも多大な影響が出ている。その1つが食料サプライチェーン/ロジスティクスだ。
感染予防から人の移動が制限されたため、生産・加工・物流の各フェーズにおいて十分な人員が確保できず、多くの国で生産・物流量が大きく減少したといわれている。
OECDが2020年6月2日に公開したレポート「Food Supply Chains and Covid-19: Impacts and Policy Lessons」では、パンデミックで食料サプライチェーンがどのような影響を受けたのか世界各地の状況をまとめている。
今回特に影響が大きかったのがフルーツと野菜のサプライチェーンだ。この2つは、穀物や食用油植物の生産に比べ労働集約的で、人の移動制限によって生産・収穫できないという状況が多くの国で見られたという。
運搬に関して、4月米国とカナダの陸上輸送量は通常時に比べ20%減。欧州ではスペインでパンデミック当初50%減、フランスで46%減、イタリアで37%減と大幅に落ち込んだ。その後、4月中旬ごろには欧州全体で24%減と幾分か回復したとのこと。
このような状況下起こったのが食料輸出国による食料輸出制限と食料輸入国における食料安全保障議論の活発化だ。
国連食糧農業機関(FAO)によると、パンデミックで小麦輸出国のロシアが通常無制限としている輸出量を4〜6月に700万トンに制限。またセルビアはひまわり油の輸出を一時停止するなどの措置をとった。これに、コメ輸出国のベトナムやカンボジアなどが追随したという。
国連世界食糧計画(WFP)は、この状況に対し早急な対策を取らなければ食料安全保障問題に直面する人々の数は2020年中に、2倍増の2億6,500万人に達すると警鐘を鳴らしている。
スウェーデンの農業テックスタートアップが示す「Farming as a Service」というコンセプト
依然続くソーシャルディスタンス要請や将来の感染再発リスクを考慮しつつ、SDGs(持続可能な開発目標)も包含した新しい食料サプライチェーンが求められる状況。どのような対策が考えられるのか。
環境先進国スウェーデンでは、食料生産のボトルネック解消に加え、環境への影響を大幅に抑え、食料安全保障も確保できるという興味深い取り組みが始まっている。
農業テックスタートアップSweGreenの「Farming as a Service(FaaS)」の取り組みだ。
「SaaS(Software as a Service)」という言葉はよく知られている。これは、ソフトウェアを、開発する必要なく、クラウド上で必要な部分のみを簡単かつ低コストで利用できるサービスを意味する言葉。SweGreenが提唱するFaaSとは、ソフトウェアを農業に置き換えて説明することができる。
つまり、農業を一から始める必要なく、プラットフォーム上で、農産物を必要なときに必要なだけ入手できるサービスだ。
SweGreenは、植物工場/都市農業の技術を活用し、最終消費者の最も近い場所で農産物を生産し、最小のロジスティクスコスト/インパクトで、新鮮な野菜や果物を届ける仕組みを確立しようとしているのだ。この取り組みはスウェーデン・イノベーション庁やスウェーデン研究所(RISE)なども参加する国家イニシアチブでもある。
オランダの農業テックメディアHortiDailyは、同イニシアチブに参加するスウェーデン著名シェフ、ポール・スヴェンソン氏の話として、スウェーデンではコロナの影響で同国の食料生産が50%減少、これを受け国内では危機感が高まり、オールシーズンの食料生産を可能にする仕組みへの関心が高まっていると説明している。
SweGreenの植物工場は現在、ストックホルム中心部にある大型オフィスビル「ダーゲンス・ニュヘテル」の一角に設置され、そこで生産される農産物は周辺の飲食店などに販売されている。「CityFarm」と呼ばれる同施設では、伝統的な農業に比べ、エリアあたり200倍の生産量を実現することが可能という。
環境意識の高い消費者の需要、スウェーデンのスーパーが植物工場導入
2020年8月19日には、SweGreenはヨーテボリのスーパー「ICA Focus」と提携したことを発表。店舗内に植物工場を設置し、そこで生産した野菜を店舗で販売する計画だ。
ICA Focusは、農産物の生産において、肥料や明かり、湿度、温度などの細かい設定を気にする必要はなく、クラウド上のモニタリングシステムで、生産量と収穫時期を設定するのみ。温度、湿度、明かりなどの調整はAIを活用したシステムが最適化してくれる。
ICA Focusによると、スウェーデン国内ではこのところ、地元生産かつ環境インパクトの少ない方法で生産された農産物への需要が高まっており、その需要に応えるためSweGreenのFaaSを導入したという。
店舗内に植物工場を設置し、そこで生産された農産物を店舗に並べ販売する。ロジスティクスにかかるコストはほぼゼロとなるだけでなく、ロジスティクスから発生する二酸化炭素の排出も抑えることが可能となる。また、殺虫剤や農薬の散布が必要ないこと、水の95%をリサイクルできる点など、環境意識の高い顧客を魅了する点は多い。
SweGreenの取り組みは、スウェーデンのもう1つの国家プロジェクト「Sharing Cities Sweden」にも統合されるという。これは、ストックホルム、ヨーテボリ、マルメ、ウメオなどの主要都市におけるシェアリングエコノミーを醸成するプロジェクトだ。植物工場のシェアなどが想定される。
SweGreenとスウェーデンの国家プロジェクトは、食料サプライチェーンの形をどう変えていくのか。パンデミック後の経済復興だけでなく、SDGs観点からも関心が寄せられるプロジェクトといえるだろう。
[文] 細谷元(Livit)