学生ビジコンは“起業ごっこ”か —— 変化する起業家支援のいま

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学生ビジコンはパフォーマンス?

学生が起業に踏み出すハードルは、年々低くなっているのではないだろうか。2017年の中小企業白書によると、ここ15年ほどの起業希望者・準備者のうち学生が占める割合はそれぞれ3~5%と増加傾向にあることが読み取れる。

インターネットを覗けば起業に関する情報が沢山書いてあり、起業を支援する仕組みや、チャレンジする機会も、昨今のオンライン化の後押しによって物理的な垣根を越えて広がっている。

一方、起業を志したばかりの学生の多くは、自分のビジネスがどのくらい評価されるもので、実際に事業として成立するかの判断をすることが難しいだろう。そんな中で、様々なつながりができ、場合によっては資金獲得の機会もあるビジコンは、このような学生の事業を推進する存在になっているのかもしれない。

しかし、プラスの面とは対照的に「ビジコンは本質ではなくパフォーマンスだ」と批判的な声も耳にする。それを忘れ事業の虚像を見てしまうことも決して少なくない。

「学生ビジコン」の意義とはなんなのだろうか。今回は、私自身が学生ビジコンに参加して得た経験や葛藤をお伝えし、また、いま現在「オンライン」がスタンダードとなり、変化しつつある学生ビジコン・起業支援の在り方に迫っていきたいと思う。

「最高のプレゼンだった」と言われて悔し涙

2019年春。それは私が大学に入学し、スタートアップでの起業を志したばかりの頃だった。

漠然と作りたいプロダクトを構想してはいたものの、右も左もわからない私は「学生対象ビジネスコンテスト」(以下:学生ビジコン)に参加することでビジネスの基礎的なスキルや、自分の事業案の社会的価値のようなものがわかるのではないかと思い、次々と学生ビジコンに応募していった。

しかし、ピッチの練習を重ね、何回目かのビジネスコンテストに出場したある日。とある審査員の方が私に対してこうコメントをした。

「あなたの話には引き込まれるものが確かにあった。しかし、事業として実現するかはまた別の問題だと感じた。」

このコメントは、私が陥りかけた「学生ビジコンの罠」を端的に表している。

「ビジコンで評価されるためのピッチ」をしていたのだ。

何か自分で事業を興そうとしたとき、そのプロダクトを使ってくれる人は誰なのか?ビジコンという「手段」が「目的」へと移りかけていた自分の思慮の浅さを悔やんだ。

ビジコンの存在意義とはなんだろう?

この問いを、これから自分の挑戦を「学生ビジコン」という場所を使いながら広げていくすべての人に再考してほしいと思う。

ともすると、実際に事業を進めている人からすれば学生ビジコンは“起業ごっこ”だと感じることもあるだろう。

もちろんビジネスコンテストに参加することだけが目的となってしまえば、その後の事業の変化はない。誰かの前でアイデアを悠々と語ったとしても、絵空事で終わってしまえば意味はないのだ。

しかし、ビジネスが何かもわからなかった私にとって、学生ビジコンへの参加は繋がり・知識・経験…あらゆる面で「きっかけ」となった。

オンライン学生ビジコンが続々登場

そして現在の状況を俯瞰してみると、「きっかけ」は物理的な距離の格差を超えて、全国各地の学生へと開かれ始めている。

2020年、オンラインで行われる学生ビジコンが次々に登場している。

オンラインという「入り口」の変化によって、起業に興味を持った学生は一歩を踏み出しやすくなったと同時に、門戸が開かれた分ビジコン後の「出口」も多様になっているのではないだろうか。

これまでは資金調達や創業など、参加することによってさらに直接的に事業が加速するための機会を提供するような学生ビジコンが多く見受けられたように感じる。

他方、昨今の情勢を受けて、その良い面も残しながら、これまで全くビジネスの経験や知識がない学生にも手厚いサポートの幅を広げる学生ビジコンが生まれつつあるように見受けられる。

その代表的なオンラインの学生ビジコンで言えば、KBC(Keio Business Community)主催の「SEEDs」、株式会社プロッセル主催の「Online Intern Contest(オンコン)」などがその例だ。

「出口」の拡大に伴ってビジコンに関わる学生層の多様化が起こるいま、個々人の創業支援はもちろんのこと、オンラインの中でもより学生間の「コミュニティ性」を意識して設計がされるようになったビジネスコンテストが今後も生まれていくだろう。

この状況下で挑戦する学生起業家とは

ハードルが高いものから低いものまで、挑戦の機会が広がった「学生ビジコン」。

機会が開かれた一方で、参加する学生はどのようなことを考えているのだろうか?

コロナ禍において、学生を取り巻く問題はより顕著になったように感じられる。オンライン授業が日常となった生活は、私たちの感覚を大きく変えた。これまで当たり前だと思っていたことが可能ではなくなり、自由に動けなくなってしまった状況にフラストレーションを抱える人も多くいるのではないだろうか。

しかし「逆境」とも言えるこの状況を「行動するチャンス」だと捉え、変化または残存している社会の課題意識やニーズを読み取り、世界を推進しようと高い熱量と強い目的意識を持ちながら動いている人が「学生ビジコン」という機会を活用しているように見受けられる。

長期療養児対象の教育事業「The Art」を展開する慶應義塾大学看護医療学部2年の猪村さんは、先程紹介したKBC主催のオンライン学生ビジコン「SEEDs」の優勝者だ。

猪村さんは医療という軸を持ちながら、コロナ禍で起こせるアクションを探していたところにSEEDsの存在を知り応募。審査が進む中で自身の行動が正しいのか不安に思うこともあったが「この自分の挑戦の先に、喜んでくれている子どもたちが沢山いる」と信じることでそれを原動力にし、ビジコンが終了した今も「子どもたちが病気や障害にとらわれず、ワクワクを探求する世界」を目指して日々行動を続けている。

解決したい課題を常に言語化し続け、今できることに真摯に向き合い行動を模索する姿こそが、これからの時代を切り開く上で鍵となっていくのだろう。

学生へ、次なる起業支援のムーヴメント

また、挑戦の入り口は決して「学生ビジコン」だけではない。

例えば講義で体系的に起業の知識を学び、オンラインコミュニティ・個別メンタリングから学生のための起業支援プログラムを行う「Code Republic Startup School」(YJキャピタル、East Ventures共同運営)や

ビジネスアイデアのブラッシュアップで終わらず、事業検証や実際に顧客を捕まえるところまでを、マンツーマンのメンタリングの提供などで手厚く支援する学生専用プログラムを行う「Students Accelerator Program」(Keio Business Community主催)などがある。

学生起業家とともに伴走し事業を推進する機会となるこれらのプログラムも、オンラインだからこその参加者間や運営と参加者との「つながり」を創出していく足がかりとなるのだろう。

いまこそ“Why me?”  ”Why now?”を考えるとき

改めて、これらのような学生ビジコン・学生起業支援プログラムは確かに「事業」の全てではない。その本質を見誤らず、常に課題やユーザーと向き合い続けることが必要であり、そのためにできる行動こそが世界を変えうる。

しかし、「オンライン」がスタンダードな手段の1つとなり、学生の挑戦をサポートする仕組みのNew Normalが形成されている今こそ、“Why me?”  ”Why now?”を再考し、新たな行動を起こす絶好の機会なのではないだろうか。

文:山本愛優美

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