世界を覆うコロナ禍はこれまで停滞気味だったサービス、なかでもオンラインでの学習やセミナー関連を大きく変革させている。

たとえば、ウェビナーことウェブセミナーは、インターネットの普及とほぼ同時に登場しているが、リモート化にあわせて登場した新しい言葉のように思われるほど、毎日のように目にするようになった。

オンラインでセミナーを運営するには、中継機材や回線の準備が大変だったが、今ではスマートフォンが1台あれば開催できるほど手軽になっている。ウェビナーを提供するサービスも、いろいろ登場し、無料で使えるツールも揃ってきた。

無料開放したZoomは学校での利用が拡大

手軽にウェビナーを開催するサービスとしては、YouTube、LINE、Facebook、Instagramの各ライブ機能がある。日本ではニコニコ生放送やツイキャスライブもよく使われている。だが、それらよりもはるかによく使われるようになったのが「Zoom」だろう。

Zoomを運営するZoom Video Communicationsは設立10年未満のスタートアップながら、Microsoft Teams や Cisco Webex といった巨大IT企業が開発するオンライン・ミーティングサービスとほぼ同じ機能を、手頃な価格と使いやすさで提供している。

米国サンノゼを拠点にサービスを開始した当初は、創業者のエリック・ユアンが中国出身であることや、セキュリティの甘さが問題視されていたが、2019年に大規模な資金調達を成功させて4月にはNASDAQへ上場し、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。

世界中でロックダウンが始まった時にいち早く全てのサービスを無料で開放し、瞬く間にユーザーを増やすことに成功した。もともと、オープンな大学の授業向けにサービスを拡大していったこともあり、誰でも手軽に使えるようにしていたことも功を奏した。1回に付き1時間までなら無料で100人が同時に利用できるなど、ウェビナー向きでもあった。2019年7月に日本法人が開設されて日本語化されていたおかげで日本での利用者も大きく伸びた。

競争が激化するオンラインツール、ウェビナー向け機能が続々登場

Zoomはデフォルトで、スライドやプレゼン資料を共有する、背景を自在に変える、手を上げて質問したり拍手ができるといった機能が用意されている。他にもタイムスケジュールや録画機能など、ウェビナーの主催者が求める機能が揃っており、これらはZoomによってオンライン・ミーティングツールの定番機能になったとも言える。

大躍進するZoomに続けとばかりに、Facebookは50人が同時利用できる「Messengerルーム」を新たに追加。GoogleもメッセージングサービスのGoogleハングアウトの仕様を変更し、Zoomと同じく無料で1時間に100人が参加できるGoogleハングアウトMeetを公開している。

Zoomとの違いを出そうと、URLをクリックするだけで参加できる「Spatial Chat」や、同じミーティングに参加している人たちが少人数に分かれてグループチャットができる「REMO(レモ)」といったサービスも登場している。

大企業では以前からセキュアで運用管理機能が揃った有料サービスを利用してウェビナーを開催していたが、中小企業や個人でも、これらの新しいサービスを使って独自にウェビナーを運営できるようになってきた。

こうしてオンラインの利用が増えたことから、機能を見直す動きも始まっている。マイクロソフトは、対面と比較してオンラインの利用は脳の負担が大きく疲労を招きやすいという調査結果を元に、Microsoft Teamsに、画面を見続けた場合に背景をぼやかして脳の負担を軽くする「Togetherモード」を搭載。画面の配置をカスタマイズできる「ダイナミックビュー」もあわせて追加され、いずれもAIを活用して自動で調整できるようにしている。

VR・MRがウェビナーに登場、学び方に訪れる変化

ウェビナーはいつでもどこでも参加できることから今後も利用する機会が増えるだろう。

文部科学省の中央教育審議会は、あらゆる世代や人が地域で主体的に学ぶ社会づくりについて検討する生涯学習分科会が8月に開催した会合で、今後の生涯学習の方向性として、社会教育やリカレント教育(義務教育や基礎教育を終えて就労した後も必要に応じて教育機関に戻って学ぶことができる教育システム)でのオンライン活用の充実を盛り込んでいる。

そうしたニーズにあわせたサービスが登場するのはこれからになりそうだが、考えられるのはバーチャル技術の活用だ。

特にVR(バーチャルリアリティ)やMR(ミクスドリアリティ)は、専門的な技術を学ぶのに向いている。たとえば、COVID-19の重症患者治療に必要な「ECMO(エクモ=体外式膜型人工肺)」は、扱える医療従事者が少ないため、VRを使って教育できる「人工肺ECMO教育VR」が開発されている。

Googleはアート作品が検索できるArts&Cultureアプリを更新して、AR(拡張現実)を使ってリアルにアートについて学べるようにしている。Appleも最近VRコンテンツを作成するソフトウェア会社のSpacesを買収し、間もなく発売されると言われるスマートグラスとあわせて、バーチャル関連のソリューション開発に力を入れると噂されている。


Meet Google Arts & Culture

さらに今後注目されるのがAIとの組み合わせだ。「Smart Tutor」は、VR空間でAIティチャーと英語によるビジネスコミュニケーションが学べるサービスを提供している。インタラクティブなやりとりができるのがポイントで、カリキュラムもユーザーのレベルにあわせてAIが生成し、評価も行う。

AIキャラクターの技術は高度化が進んでいるので、学びのジャンルやキャラクターのバリエーションも増えて、新しい教育スタイルとして確立されてもおかしくないだろう。

ウェビナーに関する技術は登場からそれほど大きな進化が見られなかった。だが、オンラインで学ぶという明確なニーズができたことによって、これから大きな進化が始まるかもしれない。

文:野々下裕子