このところ国内外で話題になる頻度が増えている中国アプリTikTok。同アプリ最大市場インドでは利用禁止となり、米国では安全保障上のリスクを抱えるアプリとして認定されるなど話題には事欠かない。

そんなTikTokを尻目に、次に来る音楽動画シェアアプリとして関心を集め、人気が急上昇しているアプリが存在する。米国発の「Triller」だ。

グラミー賞受賞経験を持つ米国の人気ラッパー、リル・ウェイン氏や著名ヒップホップシンガーのスヌープ・ドッグ氏などから支援を受けた本格的音楽動画シェアアプリとして、ソーシャルメディア・インフルエンサー/ユーザーの間で人気が急騰している。トランプ大統領もこのほど、Trillerにアカウントを開設したことで話題となった。

またTikTokを離れTrillerへ鞍替えするインフルエンサーも出始めており、次のトレンド発信の場として地盤を固めている。

Trillerとはどのようなアプリなのか、英語圏のメディアではどう報じられているのか、その最新情報をまとめてみたい。

トランプ大統領もアカウント開設した「Triller」

Trillerがローンチされたのは2015年7月。当初は短編音楽動画アプリとしてローンチ。ユーザーは、お気に入りの音楽を選択し、それに合わせて歌っている動画を録画/アップロードし、視聴できるシンプルな仕組みだった。2016年にソーシャル機能を追加、これにより別のユーザーをフォローできるようになった。

米国で人気急騰のTriller

2019年10月、累計ダウンロード数は6,000万回を突破、月間ユーザー数は1,300万人に達した。最近のTikTok騒動により、ユーザー数は爆発的に伸びている。米CNBC2020年8月7日の報道によると、Trillerの累計ダウンロード数は2億5,000万回を超え、月間ユーザー数は6,500万人に増加したという。

8月15日には、ニューヨーク・タイムズのリポーター、テイラー・ロレンツ氏が自身のツイッターで、トランプ大統領がTrillerにアカウントを開設したとツイート。この時点で、トランプ大統領のイントロ動画は59万回再生されたと伝えている。この動画の再生回数は、本記事執筆時点の8月25日には3,300万回を超えている。

トランプ大統領のTrillerアカウント

フォロワー2,000万人以上のインフルエンサーもTikTokからTrillerに鞍替え

TikTokより2年早くローンチしたTriller、これまで特にTikTokを直接的な競合とは見ていなかったようだが、最近の騒動で状況は変わってきているという。

Trillerの共同オーナーの1人、ライアン・カバノー氏がCNBCの取材でその詳細を語っている。

変化のきっかけの1つが、TikTokインフルエンサーらによるTrillerへのアプローチだ。安全保障上のリスクが取り沙汰されるTikTok、同アプリで人気となったインフルエンサーたちにとっても懸念事項となっている。フォロワーらの安全性を憂慮するTikTokインフルエンサーらが同プラットフォームからTrillerに鞍替えしたいとアプローチしてきたのだ。

その1人、カナダのジョッシュ・リチャード氏(18歳)はTikTokで2,100万人以上のフォロワーを持つインフルエンサー。2020年7月28日に、TikTokの安全性に対する懸念を理由に、同プラットフォームを離れ、Trillerに移行することを発表したのだ。リチャード氏は、Trillerの最高戦略責任者に就任したほか、Trillerの株主になったとも報じられている。

ロサンゼルス・タイムズ紙によると、リチャード氏だけでなく、TikTokでフォロワー1,200万人を持つノア・ベック氏、フォロワー980万人のアンソニー・リーブス氏、フォロワー910万人のグリフィン・ジョンソン氏など他のインフルエンサーらも、Trillerのアドバイザー兼投資家になる契約を結んだという。

「子供向け」のリスク、Trillerは大人がターゲット

TikTokインフルエンサーらのアプローチによって、TikTokを意識せざるを得ない状況になったTrillerだが、カバノー氏は「TikTokと同じ方法(formula)を踏襲するつもりはない」と断言している。

どういう意味か?カバノー氏曰くTikTokが「子供向け」である一方、Trillerは大人を対象にしたプラットフォームとして差別化する考えだ。

カバノー氏はCNBCの取材で、Trillerのオフィスの壁には大きく「TikTok is for kids(TikTokは子供向け)」という言葉が書かれていると述べている。特に見下す意味はなく、差別化を意識させるための標語だという。同氏は、TikTokには8〜14歳層のユーザーが多いと指摘。Trillerはこの層をターゲットにしない。米国では13歳未満の子供の個人情報を保護する法律「COPPA」が存在する。TikTokは過去にCOPPA違反で570万ドルの罰金を支払っている。Trillerは大人をターゲットにすることで、このようなリスクを回避したい考えのようだ。

現在、TikTokのフォロワー数で見るインフルエンサー・トップ50のうち、そのほとんどは米国とインドのインフルエンサーで占められている。TikTokが米国で禁止された場合、リチャード氏のようにTrillerに鞍替えするインフルエンサーが一気に増える可能性は十分にあるだろう。

[文] 細谷元(Livit