転勤や留学、移住など、海外に暮らしの拠点を移すことが珍しくなくなった現代。特に移住や留学のように、自分で行き先の国を選べる場合は、その国の「住みやすさ」が気になるところだ。
各国の「住みやすさ」に関しては、これまで様々なランキングが発表されているが、このたび、世界最大の海外居住者向けネットワーキングサービス「InterNations」が発表した、「友人をつくりやすい国ランキング」最新版が話題となっている。新しい土地での人間関係は、精神的に重要であるだけでなく、生活のしやすさ、キャリアにも大きく影響するからだろう。
15,000人以上の海外在住者を対象にした同調査によると、最も友人をつくりやすい国1位は、メキシコ。次いで2位バーレーン、3位エクアドル、4位コロンビア、5位パナマ、6位台湾、7位マレーシア、8位インドネシア、9位アルゼンチン、10位フィリピンと、中南米と東南アジア諸国が目立つ結果となった。
一方、全58カ国中、ワースト1位はデンマーク。これに、クウェート、スウェーデン、ノルウェー、日本、スイス、韓国、フィンランド、オランダ、オーストリアが続く。
駐在員など海外在住者が評価「現地で友達がつくりやすい国、つくりにくい国」
給与や治安などの数値化しやすいものとは異なり、あくまで回答者の主観に頼ったものであるこの調査。しかし、現地に知り合いがいない中、単身で渡航する場合など、現地で友達ができるかが非常に気になるという人も多いだろう。
この調査を実施している「InterNations」は、駐在員を中心に転職、起業などで海外に転居した会員が多く、ネットワーキングを目的としたイベントやマッチングなどのコミュニティ機能がメインとなっている。
一方、海外在住者に日常生活の様々な側面について評価をしてもらう「Expat Insider」も毎年発表しており、「生活の質」「移住の容易さ」「就労」「家庭生活」「個人資産」といった側面から、多角的に外国人にとって暮らしやすさを評価している。「友達のつくりやすさ」ランキングは、この「移住の容易さ」カテゴリで算出されたものだ。
なお、「フレンドリーさ」は、「友達のつくりやすさ」とは別の項目で評価されており、高得点の国は必ずしも一致しない。「友達のつくりやすさ」では、あくまで短時間接した時の印象ではなく、友人、仲間として関係を築くことを難しく感じるかどうか、に焦点をあてている。
1位となったメキシコはトップ10の常連国だ。移住先としては、日本人からみると治安面で不安を覚える人も少なくないが、人間関係に関しては総じて好意的な評価が多い。例年、世界平均を大きく上回る割合の回答者が「現地での友達づくりは容易だ」と感じており、地元の人々の外国人を受け入れる姿勢は「非常にポジティブ」であると評価している。
メキシコでは、日常生活におけるスペイン語の必要性は高いとされているものの、現地在住者は地元の人々の「歓迎する態度」を非常に好意的に評価しており、「世界で最も親切な人たち」との声もあがっている。
2位にランクインしたのは、人口の半数以上が外国人によって占められている中東、バーレーン。メキシコと同様に連続で上位にランクインしている。公用語のアラビア語は習得が困難だが、英語が広く話されている国であり、現地語を習得せずとも快適に暮らせると感じる外国人が多い。そんなバーレーンでは、多くの在住者が地元の人たちの親しみやすさを高く評価している。
一方で、北欧諸国、オランダ、オーストリア、日本、韓国など、ワースト10に入った国では、多くの外国人在住者が、「人々はフレンドリーだが、外国人との友人関係にはあまりオープンではない」「地元の人と知り合って親しくなるのは難しい」との回答をしていた。
福祉や教育、治安など様々なランキングの常連であり、「幸せの国」「豊かな暮らし」といった言葉とセットにされることが多い北欧諸国やオランダがことごとく低評価となったこのランキング。実は高評価の国と低評価の国の顔ぶれは、毎年さほど変わらないのだ。この差はなぜ生まれているのだろうか。
気候?文化?外国人が友だちを作りづらい国
日本もワースト10に入ったこのランキング。日本人視点としては、英語など外国語力への不安から会話が弾まない心配をしてしまい、外国人と上手く接することができない人が多いからでは、とも考えた。
しかし、トップ10入りした国には、マレーシアやバーレーンのように英語が広く使われている国もたしかにあるのだが、1位のメキシコのように現地の一般の人がそれほど語学に堪能でない国もある。そして逆に、友達づくりが困難とされた国は、北欧やオランダなど英語だけでなく複数の言語を話すなど、国民の言語能力に定評のある国が多い。
言語能力がそれほど関係なさそうだとすると、次に気になったのは気候だ。「友だちがつくりづらい」とされた国々は北欧など寒い国ばかり。日本や韓国も四季はあるものの、すごしやすい気候の期間は限られており、冬はかなり冷え込む。一方で上位の国々は南米や、東南アジアの暖かい国々が多い。
一般的に気温が暖かいと人は外出しやすくなり、いろいろな場所に顔を出したりイベントに参加したりと活発に活動するのではないだろうか。逆に、寒く暗い季節が長いほど人は家にこもりがちになる。このような日々の生活の傾向が、長い年月の中で社交性やシャイさといった性格にも影響する、といった研究も過去にはあったそうだ。
筆者の住むフィンランドのお隣、エストニアも、このランキングではワースト常連の国のひとつなのだが、気候的にもフィンランドとよく似ており、雪に閉ざされる冬は長く寒い。
1年間の半分くらいはどんよりとした空と雪に閉ざされているこの国では、冷凍庫並みの気温になる日もあり、帽子・手袋、分厚いコートで完全に装備しても外出を躊躇する。一年中暖かく、日光が降り注ぎ、ビーチや公園で人々がピクニックやバーベキュー、屋外での飲食を楽しんでいるような国とは、まったく生活の雰囲気が異なるのだ。
もう一つ、気になる共通点はやはり言語だ。上位の国は東南アジア各国や台湾など、オーストロネシア語族と南米のスペイン語圏がほとんど。逆に下位の国はオーストリアやスイス、北欧、オランダとゲルマン語に属する言語圏の国が多い。ちなみにドイツもこのランキングではかなり下の方だ。言語ルーツが共通している国は、文化的にも共通点があることが多いのだが、コミュニケーションや社交のありかたにも共通するものがあるのかもしれない。
好まれるコミュニケーションのスタイルは、国によってかなり異なる。とにかくたくさん話すことが良しとされる文化もあれば、控えめな態度や寡黙さが評価される文化もある。笑顔が好まれる国もあれば、ほんとうに嬉しい時以外に笑顔を見せるのは軽薄だと受け取られる国もある。
北欧諸国の気質は一般にシャイ、真面目で慎重で控えめ。ラテン系の国や東南アジア諸国と比べると、泣いたり笑ったりといった感情をあからさまに表さない人が多い。
どのコミュニケーションスタイルが正解ということはないのだが、多くの外国人にとっては日々の会話で感情表現豊かにたくさん話す国の方が打ち解けやすいということはあるのかもしれない。
しかし、ランキングというとどうしても順位が気になってしまうものだが、この「友達のつくりやすさ」ランキングに関しては、移住先が下位だからといって、がっかりすることもない気もする。
たとえ友達になるまでのハードルが高かったとしても、少数の信頼できる長期間の友人が作れる、そんな国もまた魅力的ではないだろうか。2018年に「友だちのつくりにくさ」ワースト10入りしたものの、生活への満足度は高く評価された国、エストニア在住外国人としては、そんな風に感じる。
文:大津陽子
企画・編集:岡徳之(Livit)