スポーツ観戦のバーチャル化、新型コロナウイルスにより一気に加速

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世界各地で新型コロナウイルスの影響が続く中、スポーツ界では徐々に試合が再開されている。しかしその多くは無観客試合や、大幅に観客数を減らした形での開催だ。これまでのようなスタジアム観戦が難しくなる中、VRなどのテクノロジーを使ったバーチャルでの観戦の在り方が大きく進化しようとしている。

ウィズコロナ、アフターコロナのスポーツ観戦はどのように変わっていくのか、その未来像を探ってみよう。

リモート観戦での声援がリアルタイムでスタジアムに届く

無観客試合で最も違和感が生じるのは、観客席からの声援が無く、スタジアムが静まり返っていることだろう。既に野球やサッカーの試合では、過去の試合で録音された応援音声や、公式ゲームで使われている歓声やブーイングなどの音声データをスタジアムに流したり、中継映像に被せたりといった取り組みが行われている。

とはいえ、あくまでもこれはスタジアムの音響担当や放送局が手元にある音声データを流しているだけであり、その試合を観ているファンが発した声援ではない。偽物感が強いというネガティブな感想があるのも事実だ。

そんな中、自宅などでリモート観戦をしているファンのリアクションを、リアルタイムで反映させるシステムが、現在急ピッチで開発されている。

ヤマハが開発中のリモート応援システム

まずこの分野で世界の注目を集めているのが、日本のヤマハだ。ヤマハはリモート応援システム「Remote Cheerer powered by SoundUD(リモートチアラー パワード バイ サウンドユーディー)」を開発中で、2020年5月からJリーグクラブやプロ野球球団と提携し、実用化に向け実証実験を進めている。

このシステムでは、リモート観戦者がアプリを操作することで、拍手や声援といったアクションをスタジアムに届けることができる。アクションは「歓声」「拍手」「声援」「ブーイング」、さらに主催者のカスタマイズによってチームの応援歌や選手名なども選択肢に加えることができる。リモート視聴者がボタンを押した回数や人数によって、試合会場のスピーカーから流れる歓声の大きさや盛り上がり方も変わるという。

既にJリーグの26クラブ、プロ野球では阪神タイガース、千葉ロッテマリーンズと提携し、テレビ・ラジオ・ストリーミングを通じたバーチャル応援の実証実験にトライしている。

Champ Traxが開発中のアプリ「HearMeCheer」

カナダのスタートアップChamp Traxも同様のコンセプトでアプリを開発中だ。ヤマハのシステムはリモート観戦者のアクションをアプリ側が作った歓声やセリフに変換して流すのに対し、Champ Traxのアプリ「HearMeCheer」は、リモート観戦者の声がマイクを通じてサーバーに送られる。サーバー上では集められた音声を統合したひとつの連続データが生成され、それがほぼタイムラグの無い形でライブ中継に反映されるという仕組みだ。

VRを使い試合現場にいるような観戦体験をバーチャルで実現

NextVRが手掛けるNBAのVR映像

リモートでのスポーツ観戦をスタジアムでの観戦体験に近づけるには、いかに没入感を得られる環境が作れるかが鍵となる。これを強力にサポートするのがVR技術だ。たとえば観客席やコートサイドに設置した360度カメラを使った映像作りなど、自宅で観戦しているファンが、まるで試合会場にいるように感じられるよう、さまざまなスポーツで検証が進められている。

NBAでは既に「NextVR」というアプリを通して、バスケットボールの試合をVRで体験する機会を提供している。NextVRのVRライブストリーミングシステムは、NBAの他にもボクシング、モータースポーツ、レスリングなどでも使われている。

NextVR社はスポーツの試合やコンサートなどのVRライブ配信を手掛けるスタートアップだが、コロナ禍の渦中、2020年5月にアップルが約1億ドルで買収したことでニュースになった。

アップルはNextVRのプラットフォームをどのように活用するか、まだ具体的な情報を出していないが、VRよりもAR(拡張現実)領域への投資・技術開発に注力しているというアップルの印象を覆す買収となった。アップルは2022年までに、ARとVR機能を組み合わせたデバイスを発表する可能性が報じられていて、NextVRの持つVRコンテンツの配信技術がアップルの計画の新たな1ピースになるのかもしれない。

eスポーツへのプロアスリートの参戦で、リアルとバーチャルがより近い関係に

中止となった大会の代わりに行われたプロテニスプレイヤーによるeスポーツ大会

リモート観戦とは少し切り口の違う話題になるが、新型コロナウイルスの影響で試合が中断している最中に、多くのスポーツファンを取り込んだのがeスポーツだと言われている。対戦型のコンピューターゲームをスポーツと捉え、世界大会が開催されるなど近年市場を拡大してきたeスポーツだが、コロナ禍で新たな盛り上がりを見せた。その大きな要因となったのが、著名プロ選手の参戦だ。

テニスでは、中止となったマドリード・オープンの代わりに、ゲームソフト「テニスワールドツアー」を使ったeスポーツ大会を開催。ラファエル・ナダル、ドミニク・ティーム、錦織圭などのトップ選手が参戦し、アンディ・マレーが優勝した。テニスのトッププロがテニスゲームで真剣勝負をする様子は大きな注目を集め、全世界で1,500万人がこのバーチャル大会を観戦したと言われている。

他にもバスケットボールゲーム「NBA 2K20」を使ったチャリティーマッチに、八村塁らNBAの選手が参加したり、モータースポーツ界でもプロレーサーのバーチャルレースへの参戦が相次いでいる。6月から9月に延期となったル・マン決勝大会が行われる予定だった日程で、バーチャルでの24時間耐久レースを実施。トヨタから小林可夢偉も参戦し、プロのレーシングドライバーとeスポーツのプロゲーマーの競演が実現した。

プロ選手が自分と同じゲームをプレイする様子が見られたり、運が良ければ選手とオンライン上で対戦もできるというのは、ファンにとって夢のような体験だ。プロクラブの中には公式のeスポーツチームを立ち上げ、ファンとの関係強化に活用し始めるケースもみられる。またeスポーツは今後経済の主役となっていくZ世代との親和性が高いことから、eスポーツをきっかけに、そのスポーツ自体のファンになってもらおうとする取り組みも加速しつつある。

今回取り上げた3つの動きは、いずれも以前から存在していた取り組みだが、新型コロナウイルスの発生により大きく勢いがついたといえるだろう。

スタジアムなど大規模施設の建築・デザインを手掛けるPopulousやHOKの幹部は、「コロナ禍により、スタジアムやアリーナが、リアルとバーチャルの世界を融合させる最前線となった」と分析する。アフターコロナのスポーツ観戦は、スタジアムに来るファン、自宅観戦のファンと線引きをするのではなく、いかにリアルとバーチャルの体験差をテクノロジーで埋め、両者を統合していくかというアプローチが重要になっていきそうだ。

文:平島聡子
企画・編集:岡徳之(Livit

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