新型コロナウイルスが市場に与えた影響のなかでも、特にダメージが深刻なのが旅行業界。2020年4月から6月の出国日本人数は急降下しており、いずれも前年同月比99%減以上と、海外旅行客はゼロに近い状態だ。

そんななか、旅行会社各社が独自のオンライン体験ツアーを開催し、盛り上がりを見せている。中でも海外旅行のスペシャリストとして世界70カ国に支店を持つエイチ・アイ・エスは、現地在住のツアーガイド等が出演し、旅先の豊富な知識を得られるオンライン体験ツアーを多く生み出している。

また、2015年からスタートした海外での調査代行サービスをリニューアルし、「レンタルHIS」のサービス名で営業代行・ライブ中継・輸出入代行スキームの構築などの取り組みも。今回は、withコロナ、afterコロナ時代の旅行業界のニューノーマルをエイチ・アイ・エス 本社経営企画本部 広報室 三浦達樹さんに聞いた。

オンライン体験ツアーはサブスクリプションモデルが人気

エイチ・アイ・エスでは、4月7日の緊急事態宣言を受け「#うちで過ごそう」と銘打った企画がスタート。GW期間に「バーチャル・ツアー&オンラインセミナー」を無料開催し、視聴者は総勢1,000名を超えた。この反響を受け、無料オンライン体験ツアーを5月末まで延長していたが、その後は、一部無料のコースも残しつつ、10$からの有料での販売に切り替えている。

6月以降は「#ふたたび美しい世界へ」とテーマを変え、一部の高額ツアーを除き参加し放題の定額制プランも用意。30日間利用できるベーシック・プラン 50ドル(約5,330円)、14日間のライト・プラン 30ドル(約3,198円)の2コースがある。

現在、オンライン体験ツアーは36カ国で展開、累計500コース以上のラインアップで、累計参加者は15,000名を超えているという。

三浦さんの話によれば、オンライン体験ツアーで高い人気を誇るのが「行った気になる観光セミナー:グランドサークル」。これはグランドキャニオンやモニュメントバレーを含むアメリカ西海岸に位置する公園群を現地ガイドが紹介するツアーだ。

このように現地の写真を画面いっぱいに配置したうえで、ツアーガイドが詳細を説明するというスタイルだ。

「出演しているのは、軽く千回を超える訪問数を誇るベテラン・ガイド。季節を問わず、数えきれないほどグランドサークルを訪れ、隅々まで知り尽くしているからこそ、その場にいなくても臨場感のある体験をしていただけるのが最大の魅力です。ツアー名の通り、“行った気になる”コースで、満員御礼が続いています」(三浦さん)

また、ジョエル・ロブション、トロワグロなどの有名レストランで修行した武井智春シェフによる30名限定の調理セミナーも大人気だったとか。これは、真空パックの状態で武井シェフが作ったカレーやHIS限定のボロネーゼ、牛丼などが自宅に届くもので、このボロネーゼをさらにおいしく食べる一工夫やお得な調理方法などをキッチンから生中継した。

その他、インドの有名占い師によるオンライン占星術&手相占いやワイキキの街を散策しながら行う英会話レッスンなど、多彩なラインアップが用意されている。

同社のオンライン体験ツアーには約600件のクチコミが寄せられており、そのうち93%が5つ星評価を得ているとのこと。録画された映像を見るYouTubeとは異なり、マイクのミュートを解除して、あるいはチャットを通してガイドに質問ができる、現地の土産店でガイドが代理で購入してくれるなど、「一方通行ではないコミュニケーション」も満足度を高めている要因かもしれない。

「今後はテクノロジーを駆使した新たな顧客体験も創出したい」と、三浦さんは意気込みを語った。

現地社員が代理で動く「レンタルHIS」の取り組みも

エイチ・アイ・エスというと「旅行会社」のイメージが強いが、世界中に支店がある強みを生かして、ビジネス目的の調査代行サービスを2015年11月より展開している。今回のパンデミックを通して、同社はこのサービスを「レンタルHIS」という名称にリニューアルし、サービス内容も「営業代行・ライブ中継・輸出入代行スキームの構築」に拡充した。6月から本格的にサービスを稼働させ、すでに数十件を受注したそうだ。

中でもユニークな取り組みが、海外で開催される展示会をオンラインで生中継する「オンライン視察」。その第一弾として、8月に中国・上海で開催されたオンラインゲームやコンソールゲームを中心とした展示会「ChinaJoy2020」を生中継した。

当日は、複数のカメラを用意。現地在住の同社社員が会場に出向き、会場内のブースをカメラで映しながら回り、展示会の様子をライブ配信した。プロのカメラマンではなく、社員が撮影を含めてすべて担当したという。

「当日は朝早くに会場入りし、人員をチーム分けしてバックアップ体制を充実させ、各ブースでの下調べなども入念に行いました。結果的に無事にオンライン視察を終えることができましたが、初めての試みであり最後まで通信環境が読めなかったこと、各ブースの人混みが時間によりまちまちで、想定時間が読みづらかったことが苦労した点でした」(三浦さん)

開催間近の告知だったにもかかわらず、このリモート展示会には100名強が参加。参加者からは「コロナ禍での見本市の取り組みを知ることができた」「各国のコロナ対策現地駐在員から聞けてよかった」などのコメントが寄せられたそうだ。

展示会については、視察以外に現地に出向かずに出店することも可能で、これまでにアパレル企業での実績があるという。

オンラインツアーは旅のニューノーマルになりえるか

現在は入国制限が緩和され、観光目的で渡航できる国も徐々に増えてきた。とはいえ、一部渡航先での自己隔離に加え、日本に戻ったタイミングでも14日間の自己隔離が求められるため、よほどの事情がない限り、海外に出向こうとはならないだろう。そんな今の時期だからこそ、自宅で気軽に参加でき、旅の予習にもなるオンラインツアーが日常の楽しみになっている人もいるはずだ。

もしかすると、安心して旅行が楽しめるようになってからも、「旅の予習はオンラインツアーで」というのが、ニューノーマルになりえるかもしれない。

また、ビジネス目的の出張においても、渡航が不可能になり「現地に行かなければ実現しない」と思っていた視察や展示会参加を、なんとかリモートで対応しなければならなくなったことで、新たな可能性が開いたと言えないだろうか。

今後は、エイチ・アイ・エスの三浦さんが話していたように、VRやARなど最新のテクノロジーを駆使した、自宅にいながら非日常・感動的な旅行体験が生まれてくることも期待したい。

取材・文:小林香織
編集:岡徳之(Livit

<取材協力>
株式会社エイチ・アイ・エス