ソニーのフォートナイト開発企業への270億円投資に見る、ゲーム・映画・音楽が融合する次世代エンタメ時代の幕開け

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2020年7月、ソニーが世界的な人気オンラインゲーム「フォートナイト」の開発企業Epic Gamesに2億5,000万ドル(約270億円)を出資すると発表し話題となった。

この動きは、ゲーム・映画・音楽の融合を加速させ、次世代エンタメ市場をつくりだすもの。音楽、ゲーム、映画の製作者だけでなく、広告、マーケティングなどに携わる人にとっても重要な出来事といえるだろう。

エンタメはどのように変わろうとしているのか、最新事例を踏まえ、次世代エンタメの姿を想像してみたい。

ゲーム内で音楽ライブがニューノーマルになる?フォートナイトに見るポテンシャル

2020年8月、フォートナイトでの米津玄師によるライブパフォーマンスが行われ、多くの国内メディアがその様子を報じた。ゲームと音楽の融合を示す最たる事例であり、この先同様のイベントが増えてくることが想定される。

1つは、フォートナイトでのライブイベント頻度が高まる可能性が挙げられる。

フォートナイトでの音楽ライブイベントは今回が初めてではない。海外では2019年から実施され、毎回1,000万人以上を動員する巨大イベントになっているのだ。

フォートナイトでの音楽ライブ第1弾は、世界的に人気のDJ、マシュメロによるライブだ。2019年2月にフォートナイト内で実施された同ライブには、1,070万人が同時接続し、同ゲームにおけるそれまでの同時接続プレーヤー数の記録を更新した。東京ドームでよく音楽ライブが実施されるが、そのキャパシティはほぼ5万人。1,070万人とは、東京ドーム214個分に相当する規模となる。

このマシュメロのフォートナイトライブの様子は、YouTubeのマシュメロ公式チャンネルでもアップロードされている。2020年8月14日時点で、視聴回数は5,300万回以上に上る。

マシュメロライブに続く第2弾として、2020年4月には米人気ラッパー、トラビス・スコットによるライブが実施された。このときの同時接続プレーヤー数は1,230万人、マシュメロの記録を160万人上回る結果となった。ライブの様子は、YouTubeトラビス・スコット公式チャンネルでも公開されており、公開3カ月で視聴回数8,500万回を超える人気動画になっている。

Epic Gamesはこうしたイベントを通じて、ゲーム内での音楽ライブに関する知見を深めているはず。これにソニーの音楽事業の知見やネットワークが加わわることで、ゲーム×音楽の可能性は飛躍的に広がることとなる。

バーチャル・インフルエンサーの音楽ビデオ、フォートナイトと同じツールで制作

フォートナイトでのライブだけでなく、Epic Gamesが開発するゲームエンジン「Unreal Engine」を活用したバーチャルライブも増えてくることが考えられる。フォートナイトもこのゲームエンジンで開発されており、ゲーム×音楽ライブのスタイルがフォートナイト以外にも広がる可能性は大いにある。

バーチャル・インフルエンサーとして知られる「Miquela」。YouTubeで22万人以上のフォロワーを持つ彼女、これまでにいくつかの音楽ビデオを発表している。その中で、2020年7月31日に公開した音楽ビデオ「Hard Feeling」では、映像すべてがUnreal Engine4で制作されたといわれている。ゲームエンジンで制作されたということは、リアルタイムでのインタラクションが可能ということになる。ゲームへの挿入やVRシステムなどを活用することで、フォートナイトライブのようなことも可能になるはずだ。ちなみにこの動画の視聴回数は公開2週間で213万回に達している。

バーチャル・インフルエンサー「Miquela」の音楽ビデオ(Miquelaチャンネルより)

ゲームなのか、インタラクティブ映画なのか?希薄化するゲームと映画の境界線

ソニーとEpic Gamesは今回の出資報道の少し前、PS5とUnreal Engine5のティザー動画を公開、その圧倒的な映像美でゲーム業界や映像業界で大きな話題となった。

ゲームでありつつ、本物と見間違えるほどのクオリティを実現しており、ゲーム×映画の領域に多大な可能性をもたらすとして大きな期待を集めている。

PS5とUnreal Engine5によるゲーム映像(Unreal Engine ウェブサイトより)

PS5やUnreal Engine5の登場を待たずとも、ゲームと映画の融合はすでに始まっている。

たとえば最近ビジネスメディアでも話題となっている「ゴースト・オブ・ツシマ」。鎌倉時代の「元寇」をテーマにしたPS4のゲームだが、海外インフルエンサーらから、その映像美と世界観に対し多くの称賛が送られている。まるで映画の中でストーリーを体感しているような感覚になるというのだ。

美しい映像に加え、映画を意識した構成・構図がプレーヤーの没入感を高めている。実際、同ゲームの開発責任者は黒澤映画の大ファンであり、ゲームでは「黒澤モード」まで用意するほどの熱心さだ。

「ゴースト・オブ・ツシマ」(PS4ウェブサイトより)

現時点ですでにこのような状況になっていることを考慮すると、PS5とUnreal Engine5が登場することで、ゲームとインタラクティブドラマ/映画の境界線は一層曖昧になっていくことが考えられる。

少し前に、ネットフリックスで「Black Mirror」というインタラクティブドラマが放送された。ストーリーの特定の場面で、視聴者が意思決定を行っていき、それに応じて、ドラマの最終結果が変わってくるというもの。現状では、インタラクティブドラマと呼ばれているが、もし意思決定の場面がさらに増え、インタラクティブ性が増していけば、ゲームと呼んでも遜色がないといえる。

インタラクティブドラマ「Black Mirror」(ネットフリックス・ウェブサイトより)

また英国では、ブラックミラーと並び高い人気を誇る犯罪ドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」のVR版が制作されている。これまでの報道によると、VR版ではAIを活用したインタラクティブシステムが導入され、視聴者のジェスチャーや動きにドラマの登場人物が反応する内容になるという。これも、ゲームとドラマ/映画の境界線の希薄化を示す事例といえるだろう。

現在、デジタルコンテンツ制作ツールが急速な進化を遂げており、クリエイター側もそれに順応するために、試行錯誤を繰り返している状況。クリエイターらの順応度に応じ、次世代エンタメ作品も増えてくることになるはずだ。

文:細谷元(Livit

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