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日本でも話題となっている、ワーク(働く)とバケーション(休暇)を組み合わせた「ワーケーション」。元々は2000年代のアメリカで作られた造語であるが、リモートワークが「新しい日常」となった今、世界的に注目を集めている。
働きながらリフレッシュできる、一石二鳥のワーケーション。日本では地方の宿泊施設を中心に導入が始まっているが、海外でもその動きは活発だ。中にはワーケーション目的のビザを発行する国や豪華ヴィラを一棟丸ごと貸し出すといった “進化系”も登場している。
今回は、アフターコロナを見据えた「新しい旅の形」も見え隠れする、ワーケーションにまつわる海外のユニークな動きとサービスを紹介しよう。
ワーケーション向けビザを発行した、東カリブ海の国バルバドス
東カリブ海に浮かぶ島国バルバドスでは、ワーケーション目的のビザ「バルバドス・ウェルカムスタンプ」の申請受付を開始した。
ビザの適用期間は12カ月で、料金は一人あたり2,000USドル、または1家族あたり3,000USドル。取得条件に国籍は問わないが、健康保険に加入することが義務づけられている。現地企業での就労は認めておらず、あくまで国外に収入源のある「リモートワーカー」向けのビザである。現在のところ、アメリカ、カナダ、イギリスからの申請者が多いという。
バルバドスは人口約29万人、種子島ほどの小さな島でイギリス連邦に属する独立国家だ。年間平均気温が27度と温暖で、白砂のビーチとコロニアル建築が美しいリゾート地である。アフタヌーンティーやクリケットなどのイギリス文化が根づき、洞窟、植物園をはじめとした観光スポットも充実している。コロナウイルスに関しては、3月下旬にいち早くロックダウンをして、被害を最小限に食い止めたことが評価されている。
ワーケーションビザの発給は、バルバドスのインバウンドを盛り上げる新たな起爆剤になるかもしれない。
プールつきヴィラやヨットの貸し切りも。進化するワーケーションの形
戸建ヴィラの貸し切りワーケーションを提案しているのは、インドのラグジュアリー系民泊を扱う「SaffronStays」である。
SaffronStaysは国内11都市とその郊外にある、個人所有の別荘やヴィラ、バンガローを宿泊施設として借り上げ、管理・予約代行をしている。コロナ流行下である現在は、ムンバイやゴアなどインド西海岸に地域を絞って、「Wi-Fi、誰もいないビーチ、ヒュッゲ(Hygge)」をコンセプトとしたワーケーションパッケージを発売している。
同パッケージの最低滞在期間は1カ月。最初の14日間は宿泊施設から外に出ることはできず、チェックイン48時間前に発行されたコロナ未感染の証明書が必要となる。滞在中は、感染対策を十分にとって調理された手料理が用意され、2日に1回クリーンサービスがある。
一方、カリブ海のヨット会社「Fraser Yachts」は、パンデミック後にヨットのチャーターや購入の受注が増えていることを明らかにした。同社のラファエル・サウレウアCEOは次のように話している。「多くのお客様がヨットでの滞在を楽しんでいます。コロナ危機は私たちに、家族や友人が人生で最も大切なものであることを気づかせてくれたのです」。
日本人にとってはいずれもハードルの高いサービスではあるが、自然の中に身を置き、非日常を存分に味わえる新しいワークスペースとして、魅力を感じずにはいられない。
大手リゾートチェーン「アコー」のワーケーションプラン
ワーケーションマーケットには、リゾート業界大手も参入してきている。
ソフィテル、プルマンなど多くのホテルブランドを抱えるアコーグループは、8月に独自のワーケーションプラン「ホテル・オフィス」を発表した。適用されるのは、現在のところイギリスのホテル250軒と北欧のホテル70軒のみだが、状況を見ながら順次ヨーロッパ域内で増やしていく予定だ。
「ホテル・オフィス」は、午前9時〜午後6時の9時間、プライベートオフィスとして部屋を提供するプランだ。利用者は室内設備の他、レストランやジムなどの館内施設も使用できる。各ホテルは感染対策を徹底しており、無料の遠隔医療相談ができるサービスも備えている。
ホテルの客室をワークスペースとして使用できるプランは、エリアを問わずに続々と登場している。次からは、世界の名門ホテルのワーケーションパッケージを紹介する。
<シンガポール> 名門ラッフルズのバトラーつきサービス
シンガポールを代表する名門ホテル「ラッフルズ・シンガポール」では、ワーケーションパッケージ「Work from Home」の販売を開始した。
午前7時から午後7時までの12時間、スイートルームをバトラーサービスつきで使うことができる。その他、ジム、チームミーティングができるライブラリーを無料で使用でき、レストラン、バー、スパは15%割引が適用される。
料金は1日290シンガポールドルで、現在は在住者のみに販売している。
<アメリカ> マンハッタンの中心でシティワーケーション
ニューヨークの中心地、マンハッタンのミッドタウンにある「インターコンチネンタル・ニューヨーク・バークレー」。1926年に建設された歴史あるホテルで、近くには五番街やセントラルパークもある。
8月下旬に再オープンする同ホテルでは、ワーケーションパッケージ「The Offices at The Barclay」を販売予定だ。部屋はトラディショナル、ラウンジ&コンフォートの2タイプから選ぶことができ、Wi-Fiやローカルコールが使用できる。部屋には一通りの事務用品が用意されており、ビジネスセンターでは無料でプリントができる。
料金は1日500USドル、または1カ月6,250USドル。
<フランス> シャンパーニュの丘をプライベートオフィスに
シャンパンの産地で有名なフランスのシャンパーニュ地方。風光明媚な丘に建つ「ロイヤル・シャンパーニュ・オテル&スパ」では、2020年末までスイートルームでのランチつきオフィスプランを販売している。
利用者はプール、サウナ、ジムを無料で使用でき、一日の終わりにはシャンパンとチーズも用意されている。なお、このプランは3泊以上の宿泊が必要であり、料金は1泊504ユーロである。
未曾有のコロナ禍で生まれたリゾートワーケーション。今後、在宅勤務に並ぶ働き方のオプションとして、私たちの「新しい日常」に仲間入りする日も近いかもしれない。
文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit)