コロナで中止、ならオンラインで。世界で広がる「バーチャルスポーツ大会」

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新型コロナパンデミックにより、スポーツイベントの中止・延期が相次いでいる。これを契機に、モータースポーツ大会などではバーチャルレースへのシフトが起こっている。AMPではこれまで、F1やフォーミュラEといった規模の大きな組織・イベントについてはお伝えしてきた。

しかし最近は、この変化がランニング、サイクリング、スイミングといった、市民が参加するスポーツイベントにまで波及している。リアルなイベントへの参加は難しくとも、バーチャルな場に参加することで、同じスポーツを愛するコミュニティへの帰属意識を感じながら、日々のエクササイズの目標を設定できる利点がある。さらに、こうしたバーチャルシフトに対応する多様なプラットフォームも世界各地で生まれている。

多数の人びとが集うイベントのあり方が完全に変わってしまった2020年。今後スポーツイベントはどのように形を変えていくのか? バーチャルスポーツ大会を実現するためのプラットフォーム市場も概観しつつ、そのトレンドを追ってみたい。

各国で次々に企画される「バーチャル」なスポーツ大会

延期になったF1はバーチャルレースへと移行(F1公式YouTubeチャンネルより)

新型コロナウイルスの感染拡大が顕著になってからというものの、選手や観客の長距離移動は困難となり、またクラスターの発生を防ぐため、数多くのスポーツイベントが延期や中止の憂き目にあっている。そして、今後パンデミックの長期化が予測される中、各イベントは「バーチャル」開催へとシフトし始めている。

世界最高峰の自動車レースF1は、延期となったレースを順次バーチャルグランプリとして開催し、公式WebサイトやYouTube、Twitch、Facebookで配信。日本でも、オートバイロードレースのMotoGPが、オフィシャルゲーム「Moto GP19」を使用したバーチャルレースへの移行を発表した。

モーターレースだけではない。日本では全国高校総体(インターハイ)や全国中学校体育大会の中止を受け、ロンドン五輪代表などトップアスリートらが発起人となり、中高生を対象とした陸上のバーチャルイベントが開催されることとなった。このイベントでは、大会期間中に自分の走る姿の動画をタイムとあわせて動画投稿サイトにアップロードする形で行われ、ランキングも発表される。

アメリカでも、歴史あるマラソンイベント、ボストンマラソンが中止となっているが、主催者であるボストン体育協会は、参加者への全額返金に加え、希望者はバーチャルレースに参加できることを発表。レース期間中、6時間以内に連続したマラソンを完走した参加者にはメダルと記念品が贈呈される。

パンデミックによって、注目が急激に高まるバーチャルスポーツ大会だが、そこには単なるリアルイベントの代替手段「以上」の魅力もある。

例えば、多くの大会は、『ハリーポッター』などさまざまなテーマに沿って行われて、参加者は限定グッズを手に入れたり、遠隔地のファンと交流できたりするなど、ファン同士のオンラインコミュニティとしても機能している。

また、大会に興味は持っているものの、リアルイベントへの参加には気が引けていた初心者にとって、バーチャルイベントへの参加は比較的心理的ハードルが低く、より惹きつけられる場となっている。常連参加者に対しても、時間や場所にとらわれない、イベント参加の選択肢を増やせる点がメリットとなっている。

充実のバーチャルスポーツ大会プラットフォーム

スケールアップしやすい、天候にも左右されないため、場所の広さや季節を問わず開催できるといった点が、開催者にとってバーチャルスポーツ大会の魅力。その実現を支援する、関連サービス市場もこのところ盛り上がっている。

「42 RACE」では寄付型バーチャルレースも企画されている(42 RACE公式サイトより) 

シンガポール発の「42 RACE」や「Spacebib」は、バーチャルスポーツ大会を調べる、申し込みをする、関連情報を入手するといった、一連の流れを可能にするサービスをワンストップで提供している。

「42 RACE」は、ランニングやウォーキング、サイクリングなど幅広い大会をカバーしており、オンラインコミュニティへの参加や参加実績の記録、その達成度に応じたリワード獲得など充実した機能が評判だ。

昨今トレンドとなっているチャリティーランもバーチャルで開催できる。10月の「ワールド・アニマル・デー(世界動物の日)」には、シンガポールのストリートドッグ問題の啓蒙と寄付を目的としたバーチャルチャリティーランを開催予定。参加費9.99シンガポールドルのうち5シンガポールドルが寄付され、メダルやTシャツなどグッズを購入して、さらに追加で寄付できる仕組みとなっている。

こうしたバーチャルイベントは、Facebookのイベントページなど既存のツールを使って企画することもできるが、「42 RACE」のようなこの分野に特化したサービスを活用すれば、より高い運営効率や集客効果を実現できるようだ。

バーチャルスポーツ大会プラットフォーム「Racery」(Racery公式ホームページより)

アメリカ・ノースカロライナとハンガリー・ブダペストに拠点を置くサービス「Racery」では、大会のオンライン登録から結果の掲載まで包括的なサポートが得られ、バーチャルでの開催に慣れていない運営者であっても、円滑にレースを開催することができる。すでにこれまで何千ものイベントをサポートしてきた実績がある。

アメリカ最大のバーチャルレーステック企業「RunSignup」はさらに、大会運営のための資金調達やマーケティングまでもサポート。単発レースの支援だけにとどまらず、定期イベントとしての長期的な成長も支援してもらえる。

イギリス発の「Let’s Do This」でも、デザイン性の高い登録ページや結果掲載ページ、写真共有ギャラリー、参加者交流ページなどの作成が可能。利用料金は大会の実績に基づいて決まる仕組みとなっており、運営者にとってバーチャルイベントに挑戦するハードルを下げている。

パンデミックが追い風となっているバーチャルスポーツ大会市場だが、これは一過性の現象なのだろうか?

たしかに、ライブイベントの臨場感は何物にも代え難い。パンデミックが収束し、移動や集会が自由にできるようになれば、バーチャルに流れていた参加者の多くは、リアルイベントに戻ってくるだろう。しかし、そうなったとしても、現在の「バーチャルイベント熱」は完全に冷めることはないのではないか? 

先に挙げた、参加ハードルが低い、場所や天候の影響を受けないといった利点はたしかに存在するが、それだけではない。バーチャルイベントは、必ずしもライブイベントと競合するものではないからだ。

リアルとバーチャル、両者を同時に実施する「ハイブリッド」な形を実現し、イベントを大幅にスケールアップできる可能性がある。だとすれば、一度バーチャルイベントの魅力を知り、運営ノウハウを得た主催者は、なんらかの方法でバーチャルな大会を継続するのではないだろうか。

先述のボストンマラソンは「選ばれし者のマラソン」とも呼ばれるそうだ。「いつか参加を」と憧れる多くの初心者ランナーたちが、まずは世界各地からバーチャル大会に参加する日も来るかもしれない。

文:大津陽子
企画・編集:岡徳之(Livit

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