タピオカミルクティーや台湾在住YouTuberらの情報発信により、日本人に一層身近になっている台湾。今後は「テックスタートアップ」という側面でも交流が盛んになるかもしれない。
以前お伝えした通り、台湾は2030年までに英語教育を普及させバイリンガル国家になる計画を推進中だ。言語障壁がなくなることで、日本を含め世界中から人材が集まるハブになる可能性を秘めている。
また他国に負けないテクノロジーインフラを有しており、アジアを超え世界のテクノロジーハブになるポテンシャルも秘めている。
これまでテックスタートアップという切り口であまり話題になることが少なかった台湾。水面下で起こる大きな変化を追ってみたい。
ネットスピードは世界一、台湾の驚くべきテックインフラ
テックハブと聞いて、まず思い浮かべるのは米シリコンバレーだろう。
そのシリコンバレーをシリコンバレーたらしめる要素はいくつかあるが、最も重要な要素の1つに半導体企業クラスターの存在が挙げられる。
シリコンバレーではまず半導体産業が発展し、その株式公開に伴う潤沢な資金がスタートアップに流れ込むという仕組みが構築された。こうした半導体企業とスタートアップの間には、資金だけでなく高度スキルを持つ人材の行き来もあったことが想定され、シリコンバレーの発展における半導体企業の資金・人材面での役割は不可欠であったと思われる。
この点で、台湾の北西部・新竹市にある半導体企業クラスターは、台湾のテックハブ化で重要な役割を果たすことになる。半導体製造でこの10年世界トップを独走するTSMCに加え、UMC、PowerChip、Vanguardなど、いずれも世界市場シェア上位を占める企業が集積しているのだ。
半導体に加え、通信の側面からも台湾のテックハブとしての可能性を見て取ることができる。
Cable.co.ukが実施している世界のネットスピードに関する調査(2019年版)によると、世界最速のネットスピードを叩き出したのは台湾だったのだ。5ギガバイト(GB)の映画をダウンロードするのに要した時間は8分2秒。トップ10には、2位シンガポール(ダウンロード時間、9分38秒)、3位ジャージー島(10分7秒)、4位スウェーデン(12分22秒)、5位デンマーク(13分52秒)、6位日本(15分57秒)、7位ルクセンブルク(16分22秒)、8位オランダ(16分58秒)、9位スイス(17分34秒)、10位サン・マリノ(17分37秒)がランクインした。
2020年6月末からは、台湾通信大手中華電信が5Gネットワークの運用を開始。これに続き、台湾モバイルや遠伝電信などの大手も5G運用を始めている。また8月には国内4社目としてTスターモバイルが5G運用を開始している。
政府主導の台湾シリコンバレー化計画など、醸成されるスタートアップ・エコシステム
台湾では、政府・民間ともにスタートアップ人材の供給を増やそうという取り組みが活発になっている。これにより海外テック企業による投資を促進させたい考えだ。
政府主導の取り組みとしては「アジア・シリコンバレー開発計画」が挙げられる。
2016年9月の閣僚会議で承認された同計画。テック人材供給体制を強化し、台湾を世界市場の中でシリコンバレーのようなイノベーションハブとして位置づけようというもの。政府は、この計画を推進する特別機関として2017年には「アジア・シリコンバレー開発庁(ASVDA)」を開設した。
ASVDAのウェブサイトでは、計画ビジョンとして「IoTイノベーションとR&Dの促進」、そして「スタートアップ・エコシステムの最適化」という目標が明文化されている。
目標KPIも具体的な数値で設定されている。
1つは、世界のIoT市場における台湾のシェアを2015年の3.8%から2020年に4.2%、さらに2025年には5%に高めるという目標。また研究開発拠点を開設するスタートアップ/企業の数を100社と定めている。
一方、民間では「台湾スタートアップ・スタジアム(TSS)」などによって、スタートアップ・エコシステムの醸成が進んでいるようだ。
TSSは、2015年に始まった台湾スタートアップのグローバル展開を支援する取り組みだ。ネットワーキングやナレッジシェア、メンタリングなどを通じて、台湾スタートアップを支援。同ネットワークには、メンター120人以上、投資家500人以上、企業30社以上が参加、これまでに200社以上のスタートアップを支援している。
TTSウェブサイトでは、最近の注目スタートアップとしてスマホワイン管理アプリ「CellWIne」をピックアップ。画像認識技術を活用しワインラベルによる自動認識と関連情報の提示を行い、ワインの管理を容易にしてくれるアプリ。2017年にローンチされ、2019年7月時点で10万回以上ダウンロードされた。台湾だけでなく、韓国、フランス、イタリア、カナダのユーザーが多く、すでにグローバル展開が進んでいる。
台湾発ユニコーン、第1号は電動スクーターの「Gogoro」
グローバル市場を視野に入れる台湾スタートアップから、ユニコーンに成長する企業が複数誕生しても不思議ではないだろう。
実際、そのようなステータスに達するスタートアップがいくつか登場している。
地元メディアによると、台湾の国家開発評議会のチェン・メイ・リン大臣は2019年末、投資プロジェクト関連の記者会見で、台湾ではこれまでに2社のユニコーン企業のインキュベーションに成功したと発言したのだ。
台湾ユニコーン第1号は電動スクーターの「Gogoro」、そして第2号はAIマーケティングの「Appier」。Gogoroは「二輪版テスラ」と称され、メディアに取り上げられる頻度も増えており、日本でも少しずつ知られるようになっている企業だ。
今後台湾は「タピオカミルクティー」や「観光」だけでなく、「テックハブ」や「スタートアップ」というイメージが一層強いものになっていくのかもしれない。
[文] 細谷元(Livit)