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「コロナ失業」から新たな局面を迎える採用・就職市場
新型コロナウイルスの感染拡大は、労働市場に大きな影響を及ぼした。「コロナ失業」という言葉が生まれるほど多くの方が職を失い、2010年以降上昇し続けていた有効求人倍率は、この感染症の流行を機に一気に下落している。
だが、この数値の低下も今後ずっと続くものではなく、経済活動の再開とともにやがて上昇するだろう。求人広告媒体「バイトル」を運営するディップ社の決算説明資料を参照すると、大手求人広告での求人掲載件数はコロナ期の4月に大幅下降したものの、5月中旬から緩やかに上昇傾向にある。
上昇傾向の要因としては、緊急事態宣言が解除されたことで、企業が一時的に控えていた人手募集を再開したということが大きい。実際にタイミー では5月末から6月の間、「(コロナにより延期してしまった)新規出店をするために登録した」という事業者が増加した。
今回は、再び売り手市場に回帰した採用・就職市場で、いかに人材を確保していくか、採用において今後重要になるであろうポイントを考察したいと思う。
変化する人材確保の施策と検討方法
人材の確保のためには、働き手のニーズに沿った雇用環境を整備する姿勢も求められる。いままでは、より多くの求職者にリーチするために採用広告にかける費用を引きげたり、魅力的な雇用環境に見せるために給料を上げたりなど、即時的な効果を期待した上での施策が一般的であった。
では、これらの施策だけに依存し続けるとどうなるだろうか。当たり前だが、人件費の値上げを続ければ企業間で値上げ競争が起き、企業をひっ迫し続ける。採用広告に予算を投下し続ける手法も同様だ。
労働者側の求める物は何かを彼ら目線で捉え直すことが、これまでのやり方に依拠しない新たな施策の検討の糸口になると考える。
ギグワーク需要の高まりと一般化
では労働者が一体何を求めているのか。最近の傾向から紐解いていこう。
以下の図は、2020年2月に各採用広告媒体で検索されたキーワード上位10件をランキング形式でまとめたものである。「日払い」「短期」「単発」といったワードが並んでいることから、今すぐにお金が欲しい人や時間に融通がきくような働き方に魅力を感じている人が多いことがわかる。
また総務省が発表した「労働力調査(詳細集計)2019年(令和元年)平均(速報)」からも、「自分の都合の良い時間に働きたい」とする労働者が前年に比べ増加していることがわかる。
私自身、日雇いの派遣アルバイトをしていたときに、働く前に登録会への参加や面接が必要であること、その結果働きたいと思ったときにすぐに働けないことに不満があった。
スキマバイトアプリを開発しようと思ったきっかけもそこにある。また、アプリ利用者対象に行うヒアリングの中でも、サービスの魅力として「働きたいと思ったときにすぐに働ける」点などをあげる人が多い。IT技術が発達しギグワーク的な働き方が定着しつつある今、こうした働き方への需要が高まってきているのは必然であると言えるだろう。
従来のようにひとつの場所で長く働き、そこで何かしらを極めるやり方を好む方ももちろんいる。だが、ミレニアル世代やZ世代と言われるようないわゆる若者世代では、得た給与は趣味に投じてワークライフバランスを重視した働き方を望む傾向が強い。
人々の「働き方」における価値観も多様化してきているという事実を留意し、それぞれのニーズにあったやり方で採用の間口を広げることこそが、自社にあった人材の獲得とコスト削減に繋がる一つの突破口になると私は考える。
アルバイト採用比率が多い企業なのであれば、日払いの制度を取り入れたり、単発でも働けるような業務を用意したりといった企業努力が求められるのではないだろうか。
ギグワークがもたらす新しい採用のカタチ
一方で、「単発のアルバイトにいきなり仕事を任せるのは不安」、「単発で働いてもらっていては、毎回の教育コストが膨大になるのではないか」といった懸念の声があることも重々承知している。
これらは「評価経済」の仕組みを取り入れることによって解決ができると考える。例えば勤務終了後に企業側と働き手が「どんな働き手であったか」「またこの職場で働きたいか」などを相互にレビューし合う制度をとる企業もある。
各企業からのこうした「お墨付き」は働けば働くほどどんどん溜まっていき、企業側は働き手それぞれに溜まったレビューを閲覧することができる。事前に働き手の評価を確認することで、その人に適したお仕事をお任せすることができるため、即戦力としての登用が可能だ。
また、こうしたギグワーク的な雇用は、そのまま長期採用に繋がることが多い。働き手側も、単発のアルバイトはあくまで本職と並行して利用するものと捉えている人が多いのである。
単発でお試し的に働いた職場が魅力的で自分に合っていると感じた場合、そのままそこで本格的に働きたいと考えることは自然である。いままでのような短時間の面接と一枚の履歴書での採用ではなく、その人の人柄と職場との相性をしっかりと確かめた上での採用が主流になるのかもしれない。
「単発のアルバイトなんて…」と忌避するのではなく、こうした仕組みの部分にしっかり目を向けた上で労働者側のニーズにあった「働き方」を取り入れていくことが、経営者に必要な新たな採用の目線なのではないか。
文:小川嶺