パンデミックが世界市場を揺さぶる中、サステナビリティに焦点を当てたファンドは今年の第1四半期に記録的な資本を集める結果となっている。アメリカの投資信託格付け評価企業モーニングスターによると、持続可能なファンドは世界で今年第1四半期で457億ドルの流入額をみた。

「多くの投資家や企業が戦略的な項目としてESGパフォーマンスを採用し、コロナからのより良い回復の機会を開いている」と報告するレポートが、アメリカの投資銀行J.P.モルガンや、ドイツのアセットマネジメント企業DWSなどから出ている。

今回はこれらのレポートを元に、徐々に注目が高まるESG投資の先行きを考察する。

ESG投資に対する海外メディアや組織の反応

ESG投資とは、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことだ。2015年、日本においても年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連責任投資原則(PRI)に署名したことを受け、投資にESGの視点を組み入れることを原則としたESG投資が広がっている。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が説明するESGの概要

昨今、ForbesやCNBCなどの海外メディアでも、「長期的な成功を目指す企業や投資家は、持続可能性への取り組みを、パンデミックによって減速させるのではなく逆に増強させる可能性がある」と考察されている。

背景には、2008〜2009年の金融危機発生時の裏付けもある。前回の危機発生時、企業の持続可能性への国際的な取り組みである国連グローバル・コンパクトと、責任ある投資の取り組みを提唱する国連責任投資原則(前述のPRI)は、新会員数がそれまでの平均的な値を超え、さらに人々のESG投資に対するエンゲージメントの急増をみた。

現在のコロナ危機にも同様の現象が当てはまっているようだ。2つの組織の会員は、イノベーションや化石燃料依存からの脱却、そしてESG要因をより適切に管理する仕組みの構築を強化している。

半数以上の主要投資家が「コロナ危機はESG投資に今後3年間でポジティブな影響を与える」と回答

ESG投資は株式が主であるが、グリーンボンドなどの債券も発行されてきており、持続可能性は他の資産クラスにも広がっている。

2020年7月に公開されたJ.P.モルガンのレポートでも、コロナウイルスのパンデミックが、より多くのESG投資につながる可能性があることを語っている。下のグラフにあるレポートは、ESG関連の株式ファンドへの流入が、全製品の傾向と比較して、2016年以来着実な増加があることを示している。ESG製品の流入は、新しいファンドの立ち上げと、非ESGファンドの転用により増加しているそうで、業界全体の流入出にまったく影響なく増加してきている様が印象的だ。

さらにJ.P.モルガンは、コロナ危機がESG投資の将来にどのように影響するかについて、合計12.9兆ドルの運用資産を代表する50のグローバル機関の投資家に調査を行っている。

「コロナ危機はESG投資に今後3年間でどう影響を与えるか?」という質問に、回答者の過半数(55%)は「ポジティブな影響を与える」と答えた。さらに18%が中立的な立場をとっており、回答者の約4分の1(27%)のみ、コロナ危機が持続可能性へのマイナスの影響となることを予想している。

コロナ危機の余波を短期間ではなく中期的な3年間でみたとき、「持続可能性への行動と認識が長期的に高まり、そしてこれはESG投資へのポジティブな影響となる」と予想する投資家が多かった。

「コロナ危機はESG投資に今後3年間でどう影響を与えるか?」の回答の統計

なぜパンデミックが、ESG投資を推進するのか

では、なぜパンデミックがESG投資を推進するのであろうか。

J.P. モルガンのサステナビリティ・ESGリサーチの共同責任者であるHecker氏とDubourg氏は、上記の結果について、「この危機を短期の経済的および財政的問題に焦点を当てると、評価は厳しい。しかし、3年というスパンが具体的に言及されると、投資家は、今後数週間〜数か月の潜在的なマイナスの影響と長期的なプラスの影響を、区別する可能性が高い」と述べている。 

PRIの責任者であるReynolds氏は「投資家や企業にとって、イノベーションへの強い意欲で危機的状況に対応し、信頼を築き、力強い回復の可能性を高める措置に注力するのは合理的だ。化石燃料依存からの脱却やデジタル化、社会的絆が、事業の生き残りと将来の成長のための主要なテーマになっているので、ますます多くの企業がそれらの施策提唱を通じて、影響力を強めようとするだろう」と語る。

さらにForbesの記事では、パンデミックでESG投資に注目が集まる理由を3つ挙げている。

1点目は、パンデミック下での雇用条件、社会的安全と医療サービスへのアクセスなどの社会問題が確実に議題に挙がってきている点だ。これはESG投資の「S(社会)」の重要性を強化する背景になる。

2点目は、パンデミックはすでにデジタル経済に大きな圧力を加えており、これは私たちの仕事と消費の在り方に、ニューノーマルとして永続的な影響を与える点だ。以前、「コロナ収束後の働き方、コワーキングスペースが「立ち直らなければならない」3つの理由」の記事中、「2.社員エンゲージメントと環境保護」でも語ったように、従業員エンゲージメントを上げる傾向にあるリモート勤務は、環境保護にもつながるという見解も出ている。

3つ目は、パンデミックにより、人の健康と地球の健康の密接な関係への認識が高まり、きれいな空気、水、健康食品などの自然資産への尊重と評価が高まる可能性があるという点だ

また、リスクの種類として、パンデミックと気候変動による災害問題は「予期せぬリスク」として類似点があると捉えられる。政府や投資家は、これらの危機を投資への異なるアプローチの必要性への呼びかけと見なしている。

まだ第二波や今年の冬を越すかもしれないコロナウイルス。現時点で全体の消費者や投資家行動の変化を予測するにはもちろん時期尚早なところもある。しかし「社会的な意識を強く持っている企業を、投資家は長期的な目線で魅力を感じると思うか?」と尋ねられれば、答えは間違いなくイエスだ。消費者や従業員の意識がウィズコロナで変化する中、ESGの観点から企業がどのように持続的な成長を実現していくのかが、今後問われ続けることになる。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit

参考文献

https://www.forbes.com/sites/georgkell/2020/05/19/covid-19-is-accelerating-esg-investing-and-corporate-sustainability-practices/#69b4809526bb

https://www.dws.com/en-za/insights/global-research-institute/how-covid-19-could-shape-the-esg-landscape-for-years-to-come/

https://www.cnbc.com/2020/07/01/coronavirus-major-turning-point-for-responsible-esg-investing-says-jpmorgan.html

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00159/051800001/?P=2