レイオフから見えたコロナ禍におけるスタートアップの方向性

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グローバル市場で止まらない人材解雇

この数年間、世界規模で大きく成長を続けていたスタートアップ業界が方向転換を迫られている。ユニコーンともてはやされた企業さえもコロナ禍(COVID-19 Crisis)の影響から逃れられず、社員の解雇(レイオフ)に追い込まれているからだ。

株式投資プラットフォームの英BuySharesは、2020年3月から7月の間に500を超えるテック系スタートアップが69,000人以上の従業員をレイオフしたと報告している。最も影響を受けているのは交通、旅行、そして金融関連で、この4カ月で31,000人が解雇されたという。

職種別ではセールスやカスタマーサクセスと呼ばれる最近注目されはじめた職種が対象にされることが多く、次いで給料が比較的高いエンジニアリングやオペレーション職がターゲットにされている。

レイオフをライブ更新するサービスまで登場

こうした調査に利用されているのが、COVID-19によるスタートアップのレイオフを追跡するプロジェクト「Layoffs.fyi」だ。シリアルアントレプレナーのRoger Lee(ロジャー・リー)が立ち上げたサイトで、主に公開されているデータを元にテック系スタートアップのレイオフの現状をライブで更新している。

集められたデータは「Layoffs.fyi Tracker」にチャート形式で公開されており、業種やレイオフの数、日付などの順で並び替えるなどして見られる。それらの数字を元に様々な分析が行われており、投資家向けに情報をビジュアライズして提供する「VISUAL CAPITALIST」は、3/11〜5/26の間に著名な30社のスタートアップが行ったレイオフ状況をまとめ、インフォグラフィクスで公開している。

シェアライドビジネスの見直しが急務

それによると最も大規模なレイオフを行ったのはUber Technologies で、世界で45のオフィスを閉鎖し、全従業員の25%にあたる6,700人をレイオフしている。CEOのDara Khosrowshahi(ダラ・コスロシャヒ)は、2019年秋にも3度にわたり1,000人以上をレイオフしており、その際に「これを最後にする」とコメントしていた。しかしコロナ禍で事業全体の見直しを余儀なくされ、責任をとって2020年の基本給100万ドルを放棄すると発表している。

同時期にライバルのUberも全体の17%にあたる982人をレイオフし、288人を一時帰休扱いにしている。Lyftは米国内で電動スクーターのシェアビジネスに取り組んでいたが2019年11月に赤字エリアから撤退し、その際に約20名をレイオフしている。これらを見るとシェアライドビジネスがコロナ禍を前に見直しが必要とされていたことがわかる。

レイオフ後の対応が分かれ道

業界全体で大打撃を受けている旅行関連では、米国ユニコーン企業のトップ5にランキングされるAirbnbが、Uberと同じく全従業員数の25%にあたる1,900人をレイオフしている。シンガポールを拠点とするAgodaや口コミサイトのTripAdvisorのような老舗も25%にあたる従業員をレイオフしており、今後も影響は続くと見られている。

そこで重要になるのがレイオフ後の取り組みだ。Airbnbの共同創業者でCEOのBrian Chesky(ブライアン・チェスキー)は、退職者に向けて送ったレイオフの理由を真摯に説明するメッセージを送ったことで注目され、企業イメージを高めた。

その中で「旅行ビジネスは将来的に回復するかもしれないが、旅に求められるニーズは大きく変化し、ビジネスを根本的に見直す必要がある」とコメントしており、ビジネスをコロナ禍前に戻すのではなく、新たにすることを示唆していた。対応も素早く、ターゲットを国内に絞ってキャンペーンを行うなどすでにアクションを始めている。

積極採用する企業もある

一方でコロナ禍の影響で急成長している市場もある。代表的と言えるのがオンライン会議システム「Zoom」を開発するZoom Video Communicationsだ。6月に発表した第1四半期の売上高と利益はいずれも予測を大幅に上回り、年間での売上高予想額を約2倍に引き上げている。株価も昨年のIPOから5倍近く上昇したことから資金調達も順調で、人材採用を積極的に進めている。

教育系ではオンライン教育を無料で提供するCourseraが1,000万人もの新たなユーザーを獲得したことから、年内に250名のスタッフを採用すると発表している。ヘルステックも一時期はレイオフが進んだが現在は持ち直し、再び採用が増えている。ニュースによってはテック系スタートアップの半分が採用を再開しているとの報告もある。

今後の採用の動きについてもやはり注目しておきたいのが Layoffs.fyi だ。もともと本サイトはレイオフに関する詳細な情報を提供することで、再び雇用につなげてもらうことを目的に立ち上げられている。Layoffs.fyi Tracker では、雇用を続ける企業がどのような職種を募集しているかをチェックできる項目が追加され、新たに公開された「Layoffs.fyi Severance Tracker」では、レイオフした従業員に対して企業がどのような保証を提供しているかをチェックできる。

残念ながら今後もしばらくコロナ禍は続き、働き方やビジネスのあり方を大きく変えていくことになるだろう。これからどのような変化があるのかをレイオフの状況から知るというのは、ひとつの重要な視点になりそうだ。

文:野々下裕子

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