注目を浴びる大麻の「ハイにならない」成分

長いあいだ大麻に対しては犯罪のイメージしかなかった日本だが、近年大麻成分CBD(カンナビジオール)の利用がじわじわと支持を広げている。

植物としての大麻草特有の化学物質は現在判明しているものだけで60種以上あり、大麻草以外のアサに含まれるものもまとめて113種の成分が総称して「カンノビノイド」と呼ばれる。

その113種のカンナビノイドの中で私たちが「大麻」と聞いてまず連想するような、いわゆる「ハイになる」作用を引き起こす成分は、主に花穂や葉から抽出され高揚感を引き起こすテトラヒドロカンナビノール(THC)のみ(他の成分は『取り巻き作用』でTHCの効果を高めるとされているが、単体で同様の効果は得られない)。

一方CBD(カンナビジオール)は陶酔作用がなく近年医療・健康領域で注目される成分。欧米では疼痛・てんかん・統合失調症・新生児の窒息による脳障害などの治療薬として医薬品の指定を受け、WHOによる薬理作用の認定もされている。

健康食品や基礎化粧品としての効果に関してはまだまだ研究中の部分も大きいが、主にその鎮静効果や抗酸化作用により、リラックス・睡眠の質向上・慢性痛の軽減・アンチエイジングなどの効果への期待から利用されている。2018年に世界アンチドーピング機関が禁止薬物から除外したことで、スポーツ選手にも痛みの軽減のため愛用する人が増加したという。

大麻の歴史としてはレクリエーション目的の利用が圧倒的に長いため、愛好家たちによる品種改良の結果THCの含有量がより多い品種が追及されてきたが、近年医療的ニーズの高まりによってCBD含有量の高い品種の研究も熱心になされ、現在抽出成分の40%までをCBDが占める品種も開発されている。

法的な位置づけ

日本の国土には古来から大麻草などの麻が自生しており、特に神道との関係が深く注連縄や布などの材料として縄文時代から栽培されていたが、戦後アメリカが当時の自国の法を持ち込む形で栽培も含めほとんどの利用が違法化された。その本国アメリカの多くの州や、お隣のカナダが次々と大麻草の娯楽用・医療用利用を合法・非犯罪化している現在でも、私たち日本人の多くにとって薬物としての大麻は「違法」のイメージが強い存在ではないだろうか。

その大麻を原料とするCBD製品が日本で流通が許可される理由は、その成分と原料として利用される植物の部位にある。

先述のように麻薬としての多幸感を引き起こす成分THCは主に花穂や葉に存在し、成熟した株の茎や種にはほぼ含有されない。それが日本の大麻取締法で、「麻の茎および種子それら由来の製品」が違法化の対象から除外されているゆえんだ(種子を鳥のエサや七味唐辛子の材料として日本に輸入される際には、発芽しないように加熱処理されるが)。

日本では原料の大麻草自体を業者が自由に栽培することはできないため、国内に流通するCBDは基本的に輸入品になるが、輸入業者は製品が「大麻草の成熟した茎又は種子から抽出・製造された CBD 製品であること」を証明する署名入りの宣誓書、製品の成分分析結果(THCが検出されない旨を明記)、原料の写真(成熟した茎もしくは種のみを原料とすることを証明するため)の3点を日本の厚生労働省に提出する必要がある。

アメリカではTHC含有量が0.3%までのものは特に記載なくCBDとして販売することができるが、日本では輸入・流通の過程で少量でも検出されたら市場に放出することはできない。THCを含む製品の「輸出」も禁止されているため、製品は返送することもできず全て水際廃棄になる。こういった厳格な基準をすべてクリアして正規に流通しているCBDオイルならば、いわゆる「大麻」のイメージとは切り離して見てもいいだろう。

大麻の葉。花と中心部の葉の周囲に白く見える粉のようなものがTHCの結晶

ヨーロッパで人気のCBDブランド

さて、THCもCBDも含め大麻が幅広く利用されるヨーロッパ諸国において、「スイスの純度」をキャッチフレーズにその品質とサービスの信頼性でトップシェアを誇るCBDブランド・スイス「Cibdol」が、現在日本市場参入の可能性を探っているとの情報をキャッチした。

同社は100%オーガニックCBDオイルのメーカーとしてスタートしたが、その後最新の研究結果やユーザーからのニーズを受けて製品開発を進め、現在CBD含有のアンチエイジング基礎化粧品・湿疹や乾癬用の薬理クリーム、更にCBDと同様の大麻由来カンナビノイドであるCBN(CBDと類似の作用に加え、食欲増進や免疫力向上の作用が期待されている)やCBG(認知機能や生殖機能への効果が期待されている)などの商品も幅広く製造している。

またCBDが犬や猫といったペットにも人間と同様の作用を及ぼすことが明らかになったことを受けて2018年にローンチしたペット用CBDブランド「cibapet」も人気らしい。

本社に問い合わせて色々と尋ね、回答を得たので以下にまとめたい。

Q. 早速ですが、今回日本市場への参入を検討している理由は何でしょうか。

A. 私たちは「純度」と「高品質」で、ヨーロッパ市場での支持を得ました。今回市場拡大を検討し始めた際、候補として日本が真っ先に上がりました。高品質を好み美容や健康に関心の高い国、というイメージが強かったのです。また、CBD認知度がまだあまり高くなく、アメリカなどの潤沢な資本で強い戦略をとるようなライバルブランドがまだ少ないことも理由でした。

Q. なぜ犬・猫用の製品を開発したのですか。

A. CBDはエンド・カンナビノイド・システム(ECS)という身体調整機能に作用して様々な効果を発揮するのですが、そのECSが哺乳類のペットにも備わっており、CBDに同様の効果が期待できることが判明したためです。

cibapet公式サイトより。ちなみにこのご夫婦は愛犬活動で有名な有名TV司会者とその奥様

Q. 犬・猫用のCBDオイルと、人間用のCBDオイルの違いは何ですか。

A:犬・猫用のものは、ペットにとって刺激の強いテルペンを除去し、代わりに基材として彼らが好む味の魚油を使用しています。

Q. 犬用と猫用のCBDオイルの違いは、名前とパッケージ写真以外に何ですか。

A:ありません。内容は同じです。リサーチの結果、消費者心理として「ペット用」と対象の動物がぼやけている製品に対しては「犬と猫の病気は異なるはずなのに同一の薬では、効果が薄いのではないか」と購入しづらくなることが判明したので、犬用・猫用と個別製品化しただけです。どちらを買っても、どちらにもお使いいただけます。

Q. では最後に、これから初めてCBDオイルを輸入する日本のビジネスオーナーや個人で利用を検討する消費者に、いいCBDオイルの選び方を教えてください。

A:まずは、サプリメントとしてはCBDクリスタル(結晶)単体ではなく、植物全体を抽出したものを選ぶことです。微量でも植物に含まれる他の成分が、CBDと相乗効果を発揮するので。二番目に抽出法。CO2抽出法が最もクリーンな抽出法です。ブタンガスやプロパンを溶媒として用いてもほぼ同様の抽出効果が得られますが、有害な化学物質が残留する可能性があります。必ず製造者に確認してください。第三に、原料の大麻がどこでどう栽培されたかを公表している会社のものを選ぶこと。原料の質は製造法と同様に製品の品質に影響しますが、有機栽培の工業用大麻(ヘンプ)が最も望ましいでしょう。最後に、第三者機関による検査・臨床試験を通ったものであること。

逆に、「病気の『治療』」を謳うものは疑った方が無難でしょう。特定の国で医師の処方箋で出されたものでない限り、CBDは「食品」として扱われています。健康食品として病気の治療をできると明記することは違法です。特にがんや心臓病などの深刻な病気の治癒を明言するようなものは、疑った方がいいでしょう。

最後に、製造や販売に携わっている業者が金儲け主義ではないか目を光らせてください。最近、CBDというキャッチーな新製品で法外な利益を得ている業者が、残念ながらたくさんいます。会社経営や製品情報の透明性を目安にし、他社製品と価格帯をよく比べてください。

街のCBDショップで確認

とはいえ特定のメーカーからのコメントをそのまま鵜呑みにしたのでは公平性に欠ける。以上のCBD製品選びのポイントをメモしたうえで、筆者の暮らすオランダ南部のとある街のCBD製品を扱うショップに他に留意点はあるか尋ねてみた。

目を通した店員はおおむね同意したうえで、成分分析の結果を公表している(もしくは尋ねられて提供してくれる)企業のものを選ぶこと、購入する際には濃度を確認し(現在市場に流通するCBDオイルのCBD濃度は、2.5%から40%と幅広い開きがある)、少量から摂取を試してみることをつけ加えた。濃度もひと製品ごとのCBD含有量も明記していない製品は「問題外」だそうだ。

使用してみた・正直な感想

蛇足だが、ここまでリサーチしてもちろん好奇心に駆られた筆者は、さっそくCibdol社のCBDオイルを入手してみた。といっても幸か不幸か「てんかん」も「不眠」も持たないので、評判のリラックス効果を期待して、ストレス・イライラを感じた時に飲んでみようと待ち構えた。

幼い子どもたちをほぼワンオペで育児中の筆者に、その瞬間はあっさりやってきた。みっともないので詳細は割愛するが筆者の怒髪が天を突きそうな瞬間に、こっそりスポイト一回分を舌下から摂取してみる。

ハーブというか草というか、なんともいえない独特の風味が口の中に広がり、未知との遭遇に「う、なるほど…ハッパだ」と変な納得をしているうちに、思いもよらぬ早さ(1~2分)でスッとイライラが収まった。

正直、意外な展開にぽかんとしてしまい、いまだプラシーボ効果がどれくらいを占めたのか…とまだ半信半疑。しかしそれを確かめるためにも再度使ってみようと思った。合法だし。

文:ステレンフェルト幸子
編集:岡徳之(Livit