個性を生かしあう世界へ。コロナによって多様性の未来はどうなる?

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「ダイバーシティ(多様性)」の重要性が広く認識されるようになった昨今。それぞれの個性を認めるだけでなく、それらを生かす取り組みとして、「ダイバーシティ&インクルージョン(受容と活用)」と呼ばれる概念が近年注目されつつある。

働き方や価値観の多様化に加え、新型コロナウイルスの影響による急速な社会の変化において、この概念はより重要になってくると考えられる。

そういったダイバーシティ&インクルージョンの考え方と今後どのように向き合い、実践していくべきかをテーマとしたオンラインシンポジウムが2020年6月26日に開催された。


シンポジウム本編はYouTubeにてノーカットで公開中

本イベントは、タレントのりゅうちぇる氏、東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野准教授の近藤武夫氏、LGBTQの活動家でプライドハウス東京、グッド・エイジング・エールズ代表の松中権(ごん)氏、ダイバーシティ&インクルージョンをいち早く取り入れているP&Gの市川薫氏、そしてファシリテーターには経済ジャーナリストの治部れんげ氏を迎え、1時間半に渡るトークセッションを行った。

多様性に対する最新の議論はどのようなものになっているのか、ニューノーマルとも呼ばれるコロナをきっかけとした世界において、どのような可能性や希望があるのか。さらに、新時代を生き抜くための明日から実践できる行動指針とは。今回は、本イベントの模様をダイジェストでお届けする。

※以下、登壇者の敬称略

登壇者それぞれの“多様性”との関わり

治部:初めに、自己紹介と共に多様性の問題とどのように関わっているかについてお話をお伺いしたいと思います。

経済ジャーナリスト・治部 れんげ氏

りゅうちぇる:みなさん、改めましてこんにちは。りゅうちぇるです。一昨日、髪をオレンジに染めました~。みなさんにハッピーなパワーを届けつつ、自分の考えや気持ちをお伝えしたいと思います。

タレント・りゅうちぇる氏

僕は小さい頃から、かわいいもの、メイク、オシャレが大好き。だけど、女の子が好きだったんです。周りの人からいろいろ言われることもあって、傷つかないために自分を隠すような幼少期を過ごしてきました。でも、大人になってからは仲間や居場所ができて、自分を出せるようになったんです。そんな自分の経験から、みなさんに少しでも多様性について考えられるキッカケを与えられたらなと思っております。

近藤:私は、障がいのある子どもたちを長期的にバックアップし、その中から将来の日本社会のリーダーになってくれるような人を育てるDO-IT Japanプロジェクトを2007年から続けています。障がいがあろうとなかろうと、働く機会や学ぶ機会に参加できることがインクルージョンです。ここ数年は企業の方たちと一緒に働く場所をインクルーシブにしていく取り組みをしています。

東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野准教授・近藤 武夫氏

私がなぜこの仕事をしているのかというと、フェアじゃないことに対するモヤモヤした気持ちからなのかなと。もともとは障がいの分野ではなく、非行少年少女の勉強のサポートをしていました。そういう子たちに関わると、実は医学的診断は持っていないけど、発達障害のような困難のある子たちがたくさん隠れていた。様々な事情でチャンスから排除されてしまうことにアンフェアを感じてきたんです。そういう経験から、現在の仕事に携わるようになりました。

松中:僕は、グッド・エイジング・エールズという団体の代表をしています。職場や家、サードプレイスなどのさまざまな場所を、LGBTQにとってフレンドリーでインクルーシブな場所にしていこうと活動をしています。また、プライドハウス東京の代表もしています。東京2020オリンピック・パラリンピックに合わせて、LGBTQのことを世界中にポジティブに発信していくためのプロジェクトです。NPO団体やP&Gさん含め企業の方とチームを組んで進めてきました。

プライドハウス東京、グッド・エイジング・エールズ代表・松中 権氏

僕自身は、LGBTQでいうとG(ゲイ)の当事者です。小学校高学年くらいから、もしかしたら男の子が好きかもしれないと気づき、ずっと自分を隠してきました。東京の大学に進学・就職し、企業で16年間働いたのですが、入社して10年目でカミングアウトをして、自分らしく働いてきたので、そういったお話をしていきたいと思います。

市川:私はP&Gというパンテーンやファブリーズ、アリエールなど、みなさん一度は耳にしたことがあるであろう日用品を製造する会社で営業の仕事をしています。ダイバーシティ&インクルージョンの分野が本業ではありません。普段は、どうすればP&Gの商品が売れるかを考えています。

P&Gジャパン・市川 薫氏

ですが、私自身働く母としての経験や、スイスのジュネーブで2年ほど働いていた経験があり、ダイバーシティの力を最大限生かすことの重要性を実感しました。そこからこの分野にとても興味を持ち、今では会社の中でダイバーシティ&インクルージョンを推進するプロジェクトチームの一員としても働いています。また、「多様性を活かす上司のテクニック」に関する社内研修の講師を務めています。今日はみなさまからいろいろ勉強させていただきたいと思います。

多様性を否定する人を認めることが、本当の多様性

治部:りゅうちぇるさん、改めて多様性やダイバーシティとは何だと思いますか?

りゅうちぇる:ちょっとその前に一つ、お話しさせていただきたいことがあるのでいいでしょうか。今、目の前にコップに水が用意されていますけど、僕のものにもストローがついているんですよ。これ、実は当たり前ではなく、すごいことで。テレビなどのお仕事をするとき、男性にストローをつけることは基本的にはないんです。でも、僕はメイクしているじゃないですか。2時間くらいかけてかわいくなるんですけど(笑)、リップをしているにも関わらずストローはつかない。男性だからストローを使わないのが当たり前と思っている方が多くて。今日ストローがついていて、スタッフさん素敵!進んでる!と思いました。

そういう風に、実はみんな固定観念を持っていて。それは小さい頃に見ていたレンジャーショーからも育っている。男性は強いとか、センターは赤とか。いろんな決めつけがある中で大人になるわけです。だから、その価値観を急に変えるのは難しいんですよね。

だけど、強要しないことはできる。多様性は実現できたら素敵です。でも、多様性を否定する人も認めてあげることこそ、本当の多様性だと思います。自分の意見を強要せず、理解はできなくても認め合う。いろんな意見が飛び交う世の中と割り切って考えて、その中で自分がどう強く生きるか、強要しないか、そこが大切なのかなと思っています。

YouTubeでのシンポジウム本編はこちらから

治部:すごく本質の話だと思います。今回、私がこのイベントに参加すると周りの人に話したところ、「自分としては多様性が大事だと思うけど、会社の上司に決めつけをする人がいて、どう説明したらいいのだろう」というお話を聞きました。会社員のご経験がある松中さんは、それについてどう思われますか?

松中:自分は多様性を受け止めているつもりなのに、ちょっとした発言で誰かを傷つけてしまった経験があるとトラウマになって「自分は多様性を受け止められる人間ではないのかも」と思う人、いるんじゃないかと思います。

僕は会社員のときに、ゲイの先輩に自分がゲイだとカミングアウトしたことがあって、そこで「自分自身のこと、あまり好きじゃないでしょ」と言われたんです。同時に「自分が自分を愛して大切にしてあげられていないと、相手を気にかけることはできないんじゃない?」と先輩から教わりました。多様性は“いろんな人がいる”という定義で見がちですが、“一人ひとりが自分らしく楽しく平等に人生を送る”だったんですよね。“自分自身のこと”と考えると、すごくすんなり落ちてくるのかなと。

治部:今松中さんがおっしゃった「多様性は他人を受け入れるかではなく、自分自身と関係がある」お話、事前アンケートで近藤先生からも示唆的に伺っていました。「いつか自分が排除される側になるかもしれない立場になったとき、見方が変わるのではないか」という言葉が印象に残っています。そのあたりについて、お話をしていただけますか?

近藤:近年の統計上、障がいのある人の数がどんどん増えています。これまでも本当はいたけど、近年目にする機会が増えてきたのか分かりませんが、どんどん増えていて。学校にも増えているので、支援をしなければならないとなったとき、学校の先生はとても大変になってくるのではないか、と学生から質問を受けました。それに対して何と答えようか悩んだのですが……。

最初から環境を整えておけばいいのではないかと。例えば、今日のイベントではマイクをつけて、視聴されている方に音声が届きます。もしこの場でマイクをつけずに声が聞こえなければ、視聴者の方は「聞こえない!」と怒りますよね。学校だと先生はマイクをつけていないのに、聞こえない側が我慢しなければいけないことがある。子どもが「先生聞こえません!」と言うと、「集中力が足りてない」「ちゃんと先生の話を聞いていない」と言われることがあります。すると、子どもは自分が集中力が足りないから悪いと思ってしまう。でも、もしかすると聴覚障害のある子かもしれません。子どものせいではなくて、環境がそうした人を想定したものになっていないのではないかと。環境が整っていたら、聞こえにくい子も「聞こえない!」と言わなくなる。
障がい・非障がい関係なく、みんなに伝わる環境をつくることを考えればいいと思います。

多様性が語れるようになったのは、第二次世界大戦終戦後

治部:日本と海外で多様性の認識に違いがあると思います。いかがでしょうか?

松中:最近、みなさんもニュースで見ていらっしゃると思うのですが、Black Lives Matter – ブラック・ライヴズ・マター – (人種差別を訴える国際的社会運動)のデモ行進にレインボーフラッグを掲げている方がいます。レインボーフラッグとは6色(赤・橙・黄・緑・青・紫)で構成されているLGBTQのシンボルなのですが、ニュースで見かけたフラッグがいつも見ているものと違うと気がつきました。それは2018年にダニエル・クエイサーというデザイナーが提案した「プログレス・プライド・フラッグ」というもので、もともとあった6色に加えて、ピンク・水色・白・茶・黒の計11色で構成されています。ピンク・水色・白はトランスジェンダーの方たち、黒と茶はブラックやブラウンをはじめとした有色人種の方たちを象徴しています。

松中 権氏による今後への提言と説明スライド

なぜこのフラッグが使われるようになったのかについて。一つは、LGBTQのプライド・パレードのきっかけとなったアクションを、50年前に一番最初にニューヨークでスタートさせたのは、アフリカ系・ラテン系のトランスジェンダー女性でした。そしてもう一つ、インターセクショナリティ、自分の中にも多様性があるということ。僕は石川県出身、ゲイ、髪が黒い…いろんな特徴の集合体です。多様性は自分と誰かの違いに向きがちですが、自分の中にもいろんな属性がある。その視点が大切だと伝えるために、プログレス・プライド・フッグが意識的に使われることもあります。

近藤:私は第二次世界大戦以降の多様性の世界の歴史をまとめました。第二次世界大戦の前はナチスのホロコースト(特定の人種を虐殺すること)がありますが、始まりは精神疾患のある人を虐殺することを目的としたT4作戦(テーフィアさくせん、優生学思想に基づいて行われた安楽死政策)から始まっています。特定の人種の命や生きていく権利そのものが奪われていました。

そして、戦後のアメリカでは、公民権運動(アメリカの黒人が公民権適用と差別解消を求める運動)が始まり、そこから障がい者運動、LGBTQの考え方が出てきました。

先ほど声を上げられる環境をつくることが大切、という話をしましたが、行動するメリットと言い換えても良いと思います。例えば障がいのある方が自分でハンデがあると周囲に伝えることで、必要な支援や手助けをしてもらい易くなる可能性があります。これは歴史的にはとても新しい。どんな人たちでも生きる権利・働く権利・学ぶ権利があると言われ始め、その権利保障のための制度が作られ始めたのは、先ほども触れたように第二次世界大戦後からなんです。それ以前は多様性を語ることそのものが恐れられていました。

なので、いまこうして多様性について公の場で語れるというのは、人類史に誇れることなのではないかと思っています。ただ、戦争がまた起これば、容易に失われてしまうかもしれない、貴重なものでもあるんです。

治部:たしかにその通りですね。私自身、大学を出てから30歳を過ぎるまで経済誌の記者として24時間働いていました。当時は黄色信号だったら走って渡るような強者の論理で生きていたのですが、32歳で妊娠してから配慮される側になりました。つわりがきつかったので、寝込んで会社に行けなくなることも。エレベーターを初めて有難いと思ったのもそのときです。ゆっくり歩いているおばあさんが急に目に入るようにもなりました。昔からいたはずなのに、自分が走っているときは目に入らなかったんだと。走れない状態になって初めて気づいたことがあったなと思い出しました。

りゅうちぇる:その状況にならないと見えない世界は絶対にありますよね。僕も子どもができてから、パパがおむつ替えをできるような子育てしやすい施設や公共の場が全然ないなと気づきました。授乳室とかも男だから入りにくいということもあって。そういった設備が社会を挙げて整ってくると、パパでも子育てが頑張れると思うキッカケづくりにもなるんじゃないかな。

あと、学校と社会にあまりにも差があると感じています。海外だとまた違うと思うけど、日本の学校は“普通”が人気者になれる場なんですよね。ちょっとでも人とズレたら、変わり者だと言われてしまう。誰かが敷いたレールを進まないといけない感覚があって。

なのに、社会に出ると人と違うことがないと抜きん出れない。自分で自分のレールを敷いて進まないと自分を守れない。子どもたちが社会に出たとき、強く生きる術を学校は教えてあげられていないと感じています。個人の価値と向き合えない環境で育った人たちが社会に出たら、自分の価値を判断できない。他人に優しくできないのは当たり前なんです。なるようにしてなっている。

先ほどの公共施設の話もですけど、国、学校、メディアの表現……そういった大きいところが変わらないと、と思います。

YouTubeでのシンポジウム本編はこちらから

ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様性を生かし合うこと

治部:今日のテーマはダイバーシティだけでなく、インクルージョンも入っています。かつてはダイバーシティだけが話されていたと思うのですが、なぜ今ダイバーシティと一緒にインクルージョンも話されるようになってきたのでしょうか。

市川:我々P&Gでは、ダイバーシティを「多様性のある状態」、インクルージョンを「多様性を活用するスキルやアクション」と捉えています。では、多様な社員が能力を十分に発揮できる状態とは何なのか。

組織の中にいろんな色(多様性)はあるけど、大多数の色(青)以外は疎外されている。多様な価値観を認めず、組織で活かされていない状態を、“除外・排除”と指します。次に、自分は違う色を持っているけど、青のフリをする。組織に“同化”することで受け入れられている状態です。私も同じような経験があります。P&Gに入社した20年前、女性で営業職を希望する人が少なかったので、チームの中で女性が一人という状況が普通にありました。男性のように生きて、チームの中に“溶け込ませてもらう”感覚があって。今考えると100%の自分らしさを活かせていなかったと思います。また、“分化・差別化”は、違いを認めてはいるけど、異質なグループとして扱われてしまう状態。一番理想的なのは、“インクルージョン”されている状態です。

多様性が認められている世の中に少しずつなってきているとは思いますが、次のステージではそれを活かし合うことが必要になってくるのではないかと感じています。

治部:企業にとってダイバーシティ&インクルージョンはどういう意味を持つと感じますか?

市川:当社では、市場で勝っていくための経営戦略の一つだと考えています。ダイバーシティ&インクルージョンを実践することで、ビジネス上の企業優位性を保ったり、優秀な人材を育成したり、さまざまなお客様のニーズを深く理解したり、社員が自分らしく能力を最大限発揮したりできます。
また、P&Gはアメリカに本社があり、世界100カ国を超える国々でビジネスを展開しています。どの国でも通用するグローバルリーダーになるには、多様性を活用しなくては生き残れません。

治部:P&Gでは、ダイバーシティ&インクルージョンを促進させていくために、具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか?

市川:主に三つあります。一つ目に“文化”です。文化をつくるためには、トップが企業戦略としてコミットしなければなりません。そのため、社長自らが会議の中で、ダイバーシティ&インクルージョンの重要性を話しています。二つ目に“制度”。多様な社員がいるので、柔軟な働き方を認めなければいけません。在宅勤務、フレックスなど、柔軟に働けるシステムを整えることがとても大事だと思います。三つ目に“スキル”。我々は新入社員・一般社員・管理職・社長・役員にトレーニングをしています。ダイバーシティ&インクルージョンを活用していくにはどうすればいいか、上司・部下とどう付き合っていけばいいかを日々学んでいく。これらを実施しています。

治部:企業が取り組んでいるということは、経済的合理性にかなっているんですよね……?

市川:ダイバーシティ&インクルージョンが組織に浸透して、多様な社員の能力を最大限発揮できるとこんな良いことが起きる事例を4つお話ししていきます。

一つ目は“堅調なビジネス成長”。P&Gはここ数年間、堅調なビジネス成長をしてきています。二つ目に、“多様な人材や組織の育成”ができます。三つ目は“「生産性」に対する社内意識”の向上。例えば、ダラダラと会議することはなくなりました。会議の目的を置いて、事前に議題を考えておくスタイルを取り入れています。そして、次の会議までに何をすべきかを伝える。時間を区切って会議する意識づけをしています。その結果、一人ひとりの生産性が上がりました。

四つ目に、“製品・コミュニケーションのイノベーション”です。消臭芳香剤商品・置き型ファブリーズはその事例となっています。我々は実際にお客様のご自宅におうかがいして、製品の使い方のインタビューをすることがあります。ご自宅にお邪魔するとき玄関で靴を脱ぎますが、外国人のメンバーがそれを見て「家の中で一番臭いのは下駄箱なんじゃないの?」と。日本人からすると下駄箱は臭くて当然と思っていましたが、外国人メンバーの気づきがキッカケで靴箱用の置き型ファブリーズが開発されて大ヒットしました。

ほかにも、りゅうちぇるさんにも出演いただいているパンテーンのCM。その一つに「#令和の就活ヘアをもっと自由に」という活動をしました。学生さんが就職活動をするとき髪を黒く染めてひっつめ髪になることに対して、そこから解放されてもいいんじゃないですか?とメッセージを投げかけたCMです。非常に大きな反響をいただきました。生活必需品を扱うメーカーとして、世の中とコミュニケーションを取る社会的責任もあるのではと考えて生み出された事例です。

コロナ禍で浮き彫りになった、多様性における利点と課題

治部:続いて、みなさんコロナ禍によってさまざまな変化を感じられていると思います。ご自身の置かれている環境や状況の中でどのような変化がありましたか?

りゅうちぇる:これまでテレビのお仕事はスタジオに行っていましたけど、コロナ禍ではお家や事務所からのリモート収録に変わりました。今まで経験がなくて、想像できなかったので、最初はすごい大変でしたけど、やっていくと慣れますね。同時に前の環境の有難さをすごく痛感しました。

僕の場合、固定給じゃなくて歩合制なんですけど。こんな話してもいいのかな(笑)。

一同:(笑)。

りゅうちぇる:僕2~3年前からテレビだけに固執するのは違うかなと思って、テレビの出演を減らさせてもらっていたんです。YouTube始めたり、SNSでお仕事したり、いろんなメディアを通してお仕事をして。あと手に職をつけたいと思って、育児セラピスト1級を取得したり、メイクの勉強したり。コロナの状況になって不安もありましたけど、テレビに固執していたらもっと困っていたかもしれないと思いました。日本には一つを極めるのはカッコいいという考え方があるけど、僕はいろんなことに挑戦して、その中から自分の得意や武器をつくっていこうと思っていたので、やっておいて良かったなと。勇気を出してチャレンジした行動にすぐ結果は出なくても、いつかの自分にとって感謝される経験ができました。

市川:P&Gは以前から自宅でも仕事ができる人は在宅勤務を取り入れていましたが、今回は強制的に大半のメンバーが在宅勤務の形になりました。ただ、取り扱う商品が生活必需品のため生産や流通は止められません。工場で働いている人、店頭でお店のサポートをしている人はどうしても在宅勤務は難しいです。

そんな中で、働き方も変わりましたし、働き方に対する個人の価値観を目の当たりにしたと思っています。店頭の仕事を担当しているメンバーの中には「こういう時期だからこそ私たちは社会的使命を持とう!今こそビジネスチャンスだ!働かないと!」という人や、「体調が不安だから、今までのように仕事ができない」と思っている人もいて。そういった一人ひとりのニーズに対応できるように、我々は選択肢を提供しなければビジネスが通常通り回せないと感じました。

治部:教育についてはいかがでしょうか。新型コロナウイルス感染防止対策による外出自粛や休校などがある中で、教育現場に変化はありますか?

近藤:一部の学生の声として「非常に楽になった」とも聞きます。精神疾患や発達障がいのある人の中には、大勢のいる場所で授業を受けることへ大きな負担を感じる人もいます。学びたいと思って一生懸命学校に行くけど疲れ切ってしまう。今、うちの大学は全員オンライン講義で、体調が悪かったら後から録画された動画を見られるので、そういう子たちにとってはかなり楽になった面もあると思います。また、普段の授業では質問してこなかった人たちがオンラインになるとチャットで山のように質問してくるんですよ。オンラインで輝く子たちもいるという気づきがありました。

一方で、聴覚障がいや視覚障がいを持つ人のサポートをオンライン授業でどのように行ったらいいのかという課題感や関心も高まってきています。これまでは一部の先進的な学校のみが行っていた取り組みである授業での情報保障の方法についての知識が、全国的に一気に広まりつつあります。

松中:先日プライドハウス東京で、若い世代のLGBTQが抱えるコロナ禍での不安や困難の声を調査しました。すると、約4割の子どもたちが「セクシュアリティについて話せる人・場所とつながれなくなった」という結果が出たんです。LGBTQの子たちって家に居場所のない子が多いんですよね。ネガティブなことなど、お父さんお母さんからのプレッシャーを感じて、ステイホーム期間中に精神的にまいってしまう子がたくさんいると調査で見えてきました。

近藤:その部分については非常に共感するところがあります。先ほどは大学での講義のお話をしましたが、オンライン授業がない小学校中学校で、山のようにプリントを渡されるだけで必要な支援がない状況だと、字を読むことが大変な子たちは学ぶこと自体が難しくなる。トイレや食事など身体介助が必要な子、感染症に気を付けないといけない子のいるご家庭は、学校や家庭以外の支援が減りご家族の負担がかなり高まってしまう。亡くなる方も出てくるなど非常に悲しいケースも聞いています。いい面・悪い面の両方があると注意しておかないといけないですね。

治部:コロナ禍で社会の状況が変わっていく中、そういった社会課題も認識していかないといけませんね。このような今後出てくるであろうさまざまな課題と、みなさんはどのように向き合っていこうと思っていますか?

りゅうちぇる:僕、以前にイクメンオブザイヤーを受賞させてもらったことがあるんですけど、その時にすっごいモヤモヤしたんです。子育ては親として当たり前なのに、なんでパパが子育てしたら褒められるんだろう、表彰されるんだろうと。僕のパパとしてのプライドが少しずたずたにされて、覚悟を持って子育てに取り組んでいたのに舐められたくないという気持ちになったんですね。男の人だけ褒められてすごく悔しいとも思いました。だから、僕はイクメンって言葉があまり好きじゃなくて。2人で子作りしたわけですから、2人で当たり前に子育てしなきゃと思います。ほかにも、女性が活躍したら「“女性”議員」や「“女”社長」と言うじゃないですか。男性にはそう言わないのに。女性が活躍するのは素晴らしいですけど、無意識にそういう言葉で褒めたたえるのは違うよねと。

僕は人前に出るお仕事をさせてもらっているので、そういう疑問を少しでも感じたら伝えていきたい。自分のため、みんなのため、世の中が変わっていくため、さまざまな個性を持っている人が活躍できるように、言っていきたいと思います。それで仕事が減るかもしれないと心配したときもありましたけど、P&Gさんみたいに進んでいらっしゃる会社のCMへ出させていただくこともあって。自分がこういう風に生きていくと決めて進めば、同じような価値観を持っている人同士が集まって一緒にお仕事ができたり、つながれますから。自分を出すのは素敵だと身をもって感じています。

市川:ダイバーシティ&インクルージョンの大切さが少しずつ認識されてきたと思いますが、同時に浸透するには時間がかかると認識しておく必要があると思っています。

企業が短期的な成長やゴールを目指すのであれば、多様性を受け入れず、みんなが同じ方向にガムシャラに進んでいく方が早い部分もあります。でも、中長期的に見たら、それでは限界がくる。いろんな人の意見を聞いて、多種多様なメンバーが自分らしさを発揮できて、中長期的なビジネスの伸長につながっていく。そのために、リーダーがダイバーシティ&インクルージョンにコミットし続ける、文化を組織全体が共有し合うことがとても大切です。消費者のみなさまに非常に身近な商品を取り扱っているので、商品を通じてさまざまなメッセージを発信していけたらと思っています。

ダイバーシティ&インクルージョンを加速させる具体的なアクションとは

治部:最後にパネリストのみなさんから、今後さらに多様性の推進をしていくための具体的な行動について、お話しいただければと思います。

市川:「もっと相手を知る努力をする!!」です。みなさんありのままの自分を受け入れられたいと思いますよね。でも、自分が受け入れられるためには自分を知ってもらう努力、相手を知る努力、自分発信のアクションが必要だと思います。私も育ってきた環境で気づかなかったバイアスがあると思うので、そういうことをチームメンバーと仕事をしていく中でもっと知って理解したいです。

また、仕事だけではなく、ビジネス以外にもインクルーシブな関係を築くのは大切です。自分の家族、娘でさえも何を考えているか分からないことはいろいろあります。何を考え思っているのか、時間をかけて対話する一定の努力が必要だと感じます。

りゅうちぇる:「自分を好きになる♡ りゅうちぇるより」。
子育てのテーマが“自己肯定感を高める”なんです。子育てをしていると毎日とにかくバタバタして、あっという間に夜になってしまう。子どもへ愛を伝えることを行動で表現していたとしても、言葉で表現できていないことって多いと思います。だけど、僕たちは毎日言葉でも表現するようにしていて。今、息子がイヤイヤ期で大変な時期ですけど、「何があってもママとパパはあなたの味方だよ」「あなたが元気で笑って生きていてくれるだけでママとパパは幸せなんだよ」と。

息子が何かしなくても、ただ生きているだけで誰かに愛される安心感を持ってもらいたい、自分をどんなときでも守れる・愛してあげられる大人になってほしいと思っています。親が子どもの自己肯定感を高めて、自分を好きになる土台をつくれれば、社会に出て壁にぶつかったとき・躓いてしまったときでも、自分なら大丈夫だと立ち上がる力ができるはず。自分と違う価値観を持っている人に会っても思いやりや相手との距離感、つながり方も変わってくると思います。僕自身、自分で自分を認めていたから道が広がって、素敵な運命の人とも出会えて、自分に合うお仕事にも出会えた。自己肯定感がなかったら今の自分はないです。なので、息子にも同じように自分を認めて好きになってほしいと思っています。

近藤:私は「格差センシティビティ」と書きました。
世の中にはいろいろな格差や偏見がありますが、それに気づくことで、周りの人を助けたり、自分自身を救えたりすると思います。私が所属する先端科学技術研究センターの研究室には教職員が20数名いて、そのうちの約1/3は障がいのある人たちです。一緒に働いていく中で、気づくと自分が救われていることがたくさんあります。

同僚の准教授は電動車いすに乗っているのですが、東日本大震災のときエレベーターで避難しようとしたらエレベーターが止まっていたというお話を聞きました。エレベーター以外に自分一人で逃げる方法が見つからなかった。健常者と呼ばれる人たちはエレベーターが止まっていても、階段や非常用のハシゴを使って逃げられる。そこで、彼は気づいたことがあったんです。健常者と呼ばれる人たちは依存先が複数あって、何らかの方法で逃げられるような社会ができています。障がい者は依存が強くて自立していない、と言われますが、エレベーター以外には依存できない社会環境があります。健常者はちょっとした依存先がたくさんあるから、それに支えられて、まるで自分だけで自立しているように見えてしまう。依存の反対語は、自立ではなく、多元的な依存なのだと言われていました。この依存先を、健常者と呼ばれる人以外の人たちにもつくっていくことが大切なんですよね。

その話を障がいのある中高生たちに話してもらうと、彼らの障がいの見方が変わります。障がいがあるから自分が悪いと思って生きてきたけど、どうやら障がいは社会の中にあるらしいと。当たり前だと思っていることが実は格差を生んでいるかもしれない。社会の中に障がいがあることを気づくセンスを、いろんな人たちに育てられたらいいなと思っているところです。

松中:僕は「となりのアライ」です。
“アライ”は、LGBTQのフィールドから出てきた言葉で、同盟や仲間など当事者でないとしても応援したり一緒に社会を変えたりできるという意味を持ちます。

まだ会社でカミングアウトしていなかったとき、ひょんなことから、ある仕事仲間に僕がゲイだとバレてしまったんです。後日、その仕事仲間も同席した飲み会の場で彼女や結婚の話になって、僕はどうしようとなってしまった。そうしたら、その仕事仲間がウーロン茶をこぼしたんですよ。場の空気が変わったことでそのアクションに救われた感覚があって、とてもうれしかった経験があります。そんな些細なことでも実はとなりにいる人を救ってあげられるんじゃないかなと。

また、カミングアウトしたあと、ずっと一緒に働いていた人が乳がんのサバイバーだったことを知って、このタイミングまで言えなかったんだなと僕自身も気づきがありました。もしかしたら自分はこの人に何か気にかかることを言っていたかもしれないと反省したと同時に、僕がLGBTQの当事者だからこそ誰かのアライになれるかもしれないと感じました。意気込んで「アライになります!」ということでなくていい。気軽な存在としてとなりにいる安心感が、誰かの生活をポジティブに変えるキッカケになるんじゃなかと思い、僕は「となりのアライ」になりたいと思います。

治部:みなさん、貴重なお話をたくさんいただきまして、ありがとうございました。今回のシンポジウムを通して、私をはじめ視聴者の方々にも今後の行動に移せるヒントをたくさんいただけたのではないでしょうか?今から、明日から実践できることをぜひ実践していっていただければと思います。
本日はありがとうございました。

YouTubeでのシンポジウム本編はこちらから

文:阿部 裕華
写真:西村 克也

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